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かぞえうた

 ヘレナが突然部屋を出ていき、二階の書斎へ飛び込むまで全員、黙って座っていた。

 きゅうん、としっぽを垂らしてパールが鳴いたが、シエルが頭を撫でてあやす。


「あー……。あれはなんか思い出しちゃった感じだね」


 ぽつんと空いた席を見つめてミカは頬をかく。


「あの子も十二歳の時に母親を亡くしているんだけど、その前後に立て続けに色々ありすぎてね。うちらも知らないことが多々あって、それはヘレナの記憶が抜けているのか言いたくないのか……。わからないんだ。無理に聞き出すわけにもいかないし、なんせその頃に知り合ったばかりだったからね」


 砂糖をひとすくい入れてかき混ぜたコーヒーに口を付けると、テリーが続きを説明した。


「俺たちがヘレナと知り合ったのは、ルイズ様が亡くなる一か月くらい前です。ルイズ様は山奥の集落出身で近親婚が続き、親兄弟が遺伝病で亡くなり身一つで帝都へ出て来たと聞きましたが、結局は同じ病を発症して衰弱し、いつ亡くなってもおかしくない状態にありました。そしてある明け方にルイズ様が亡くなった時、看取ったのはヘレナ一人だったのです。しかも息を引き取ったのは、なぜかヘレナの部屋のベッド。そのころは立派な奥様の部屋があって、そこでずっと療養していたにもかかわらず」


 三人は眉を顰める。


「……それは、どういう……」


 クラークが困惑の声を上げた。


「おかしいですよね。寝たきりで、洗面所へ歩くのも侍女の支えられてやっとだったと聞いていたのに、わざわざ娘の部屋へ出向くなんて」


 とても考えられない話だが、ヘレナもクリスも小さかったため、自力でたどり着いたと思うしかない。


「どうして誰も気づかなかったのですか。夫は? 使用人はいなかったのですか」


 シエルが尋ねると、ミカが首を振る。


「その日ね。例によってご学友たちが押しかけていたの。看病疲れのハンスを慰労するためだって酒を持って」


「……え?」


「ああそういや、その時の顔ぶれ。一人だけ生き残ってたな。クラークさんと団長は会っているよ。ほら、ハンスをゴドリー家へ連れて行き、契約にしゃしゃり出たジェームズ・スワロフ男爵。アイツだよ」


「あれか……」


 クラークの呟きが耳に届いたが、シエルはそれよりも気になることがあった。

 

 ご学友たち?

 一人だけ生き残った?


「待ってください。『ご学友』は複数いたのですよね。それがどうして今は一人なんですか」


「カタリナ様が言うにはハンスの親友は全部で六人。

 一人目は学生時代に亡くなって、

 二人目は娼婦ともめて無理心中。

 三人目はのし上がったけれど挫折して酒におぼれて死んだ。

 で、ハンスを慰労しに来た三人のうち一人目は王立騎士団の騎士でルイズ様の葬儀の数か月後に魔獣討伐でやらかして死んで、

 二人目はハンスを嵌めて二千ギリア借金させた上とんずらしたディビッド・リース子爵。あれもこの間死体が見つかったよ。なんか、駆け落ちした愛人の情夫に殺されたらしい。

 あ、これって、なんか歌に出来そうな感じ」


 ふいにミカは軽い調子を付けて吟じた。



 むかしむかし、『華の七人組』と呼ばれた七人の男たちがいたよ。

 仲良しこよし、『華の七人組』。

 ルル、ルル、ララ、ラララ。

 彼らはたいそう美しく、女はみな虜になっちまう。

 彼らが行く道には、花でうめつくされ。

 彼らの過ぎた後にはため息が落ちる。

 彼らの名前は、ミカエル、ギブリー、ドナルド、マイク、デイビッド、ジェームズ、ハンス。

 ミカエルは川で足を滑らせていなくなり、

 ギブリーは酒樽に頭を突っ込んでおぼれ、

 ドナルドは女と手を取り合い火に飛び込んだ。

 マイクも魔獣に食べられて、

 デイビッドは駆け落ちで崖から転げ落ちた。

 残るは二人、ジェームズとハンスのみ。

 ルル、ルル、ララ、ラララ。

 仲良しこよし、『華の七人組』。

 さてさてお次はどうなるか。



「まるで、こどもの数え歌そのものですね・・・」


「そう。定番の『みんないなくなった』ってヤツね。まだハンスとスワロフはストラザーンが拘束しているからギリギリ生きているけれど」


 殺してはいない。

 しかし、そろそろストラザーン伯爵夫人が処罰するだろう。


「あの夜、ハンスはご学友たちと別室で酒を飲んで泥酔して、使用人たちもふるまわれた酒に酔い眠り込んでしまった。ヘレナの隣室のクリスが異変に気付いてハンスを起こしに行ったけれど、なかなか起きなかったって。今までうちらは酒の飲みすぎのせいだと思っていたけれど……」


 ヘレナもそう思っていたのだろうか。

 それとも。

 何にしろヒルの事情を聞き会話しているうちに、蓋をしていた記憶が鮮明によみがえったのかもしれない。


「なんか、あったんだろうなあ。あの日」


 そうでなければ、いつも飄々としているあの子がこれほど取り乱すはずがない。


「……仕方ないですね。ここはヒル卿に譲ります」


 シエルは立ち上がるなり、つかつかとヒルの元へいき、ぐいっとパールを差し出した。


「今日は、貴方がヘレナ様のそばにいるのが最良でしょう。私とラッセル様は薬を盛られた場合の対策を早急に行わねばなりませんから」


「……しかし」


 とっさにフェンリル犬を受け取ったものの、頭を撫でながらヒルは迷う。


「ベージル、そうしろ。騎士団には俺が顔を出して適当に始末つけるから」


 クラークも立ち上がり、身支度を始める。


「……わかった。後は頼む」


 子犬を抱えなおしヒルは出口へと足を向ける。

 しかし、そこでシエルが二人を引き留めた。


「ああ、そういえばお二人に忠告させてください。今日話した件で思うことは色々おありでしょうが、コンスタンス様及び本邸関係者の前でそれを悟られないようご注意ください。今までと違うことに気付かれた途端、あなた方は御者の二の舞になる可能性があります」


「……ちょっと待て。まさか」


「クラーク卿。あなたはあくまでも駒の一つ。彼女は思い通りに事が進まなくなった時、何をするかわかりません。どうか慎重に行動されてください」


「うん。アタシもそう思う。二人とも腹芸苦手そうだけど、今はあの女をちやほやするしかないね」


 シエルの言葉に、ミカも賛同する。


「ラッセル商会もあなた方とコール卿の安全対策を至急手配します。カタリナ様にも通しておきますから、なんとか通常通りを装ってください」


 テリーにまで言われ、二人は不承不承頷く。


「クラークさんは夜伽を躱したいなら、コールさんと仕事しまくるといいかも。金の流れ、まだ解明できていないって言ってたじゃん」


「……ご忠告ありがとう。そうする」


「あ、なんかムラムラするなら、安全安心な娼館を紹介するよ? ウチの紹介でお安くなるし」


 ミカは身も蓋もないことを嬉々としてクラークに投げかけた。


「この期に及んでそれはない」


「へーえ?」


 コーヒーのように濃い茶色の髪をかき上げため息をつくクラークの顔を、にやにや笑いながら下から覗き込む。


「……ミカ」


 テリーは手を伸ばし、ミカのシャツの襟を後ろから引っ張る。


「マーサに叱られたくなかったら、その件はそこまでだ」


「ちっ」


 舌打ちが盛大に響き渡った。




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