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童顔で悪いか


 天の青が遠く、空気が澄みわたっている。


 空を見上げて、風の匂いを嗅いだ。


 木々と、草と、落ち葉。


 それから秋の花々。


 もう冬がすぐそばまで来ているので、皆、慌てて生き物の使命を果たそうとしている。




「いい天気で良かった・・・」


 今日は、最高の結婚式日和だ。


 首を思いっきりあお向けて空を見上げたまに行きかう雲を追いつつ、昼に近い暖かな日差しに目を細めると、両肩を大きな手で支えられた。



「そんな姿勢でいると倒れるぞ」


「おかあさん・・・」


 騎士服の正装がきらびやかなヒルは今日も通常運転だ。


 オレンジに近い赤い睫毛が馬のそれのように長くばさばさしていてうらやましすぎる。


 本当にこのひと美形なんだよなと、振り返ったヘレナはまじまじと見た。


「お前みたいな聞き分けの悪い娘はいらん」


 むすっとして機嫌が悪そうなのは、ヘレナが結局明け方までヴェールを突っつきまわしてやめなかったからだ。


 一時間ほど仮眠をとり、軽食を口に詰め込んで、風呂に突っ込まれた後ばたばたと支度をして魔導士庁に駆け込んだ。


 その間、ご機嫌斜めの団長は小言を言いつつも、ヘレナのそばにいて今に至る。



「え・・・。団長、そんな冗談言えるんだ」


 隣で茶化すミカも、今日はきっちり髪を結い上げ化粧をしてドレスを着ている。


 あくまでも侍女らしく装飾をおさえたものだったが、いつもより華やかでみずみずしい。


 それに比べて、ヘレナは。



「ねえ・・・。あそこにいるの、ゴドリー伯の騎士、ベージル・ヒル様ではなくて?」


「あら、姪御さんの面倒を見ていらっしゃるのね。あの顔で家庭的だなんてますます素敵ね」


 列席者の中のご令嬢たちのひそひそ話が耳に届く。


 魔導士庁内の庭園が会場で、職員のみのうちうちの結婚式となるはずだったのだが、けっこうな人がつめかけていた。


 美貌と実力で名を馳せつつも、孤高の存在だった女性騎士スカーレット・ラザノが結婚するとなれば、野次馬も押し寄せてくるというわけで。


 見物ついでに空き時間に独身男を物色する令嬢がぎらぎらと目を光らせていたりもする。


「爵位はまだないけれどゴドリー伯の側近だし、騎士団長で家庭的。言うことないわね」


「それにしても、ヒル様があんなにかっこいいのに、姪は残念なのね・・・お気の毒」


「成長したらマシになるんじゃないの?まだ子どもだし」


 なんとかしましいことか・・・。



「全部聞こえているんだけどな・・・。わざとか」


 ヘレナは独り言ちる。



 わかっている。


 わかっているのだ・・・。


 くるぶしより少し短い紺色のロングワンピースに編み込みを結い上げ花を挿して少しは小綺麗にしているが、縦横共に貧弱なのでどう頑張っても十二、三歳にしか見えないこと。



「・・・これでも一応粉をはたいて紅も差してもらったのになあ」


 これが童顔の悲哀でもある。


 ちょっと背伸びした子供にしか見えないらしい。


「だいじょうぶ。姉さんはこのままでもこのままでなくても可愛いから」


 傍らに立つクリスが、相変わらず悟っているんだかないんだかわからない慰めをくれた。


 彼の衣装は叔母が誂えてくれており、上質の服を着たクリスは姉の眼から見ても立派な貴族の子弟になっていた。


 少し前までは母に似ていると思っていたが、大人に近づくにつれブライトンの血が出てきたように思う。


 さなぎが蝶になるように、どんどん顔立ちが整いはじめているが、どんな姿になってもクリスが道を踏み外すことはないだろう。


 そもそも叔母の美貌を引き継いだ従兄妹たちは至ってまっとうで、それが普通なのだとヘレナは心の中でため息をついた。


 今更だが、あれから父はどうなったのだろう。


 ラザノ夫妻の衣装づくりのため、その件と向き合うのを先延ばしにしてきたが、そういうわけにもいかない。


 だがしかし、とりあえず。




『みなさまお待たせしました。

 これより、魔導士リド・ハーンと

 第二魔導士団団長スカーレット・ラザノの結婚式を取り行います』




 二人の結婚を祝い、幸せを願おう。



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