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ヴェールにはロマンが詰まっている

「一年ほど前に、東方の国の大使から自国の民族衣装の製作の依頼が来ました。用意していた礼服が式典に着用できない状態になっていたということで、お預かりした衣装を元に型紙を作り裁断したので、そこからデザインを起こしたいと思います」


 ヘレナは事前に書いておいた絵を見せた。


「ああ、これはエルナリ国の衣装だな」


 簡単な図だったが、ラザノは一目で言い当てた。


「その通りです。ラザノ様は貴婦人たちのドレスよりもパンツスタイルの方がお好きなのではありませんか」


「ああそうだ。だから騎士服で式を挙げようと思っていたのだが・・・」



「上着は体の線にぴったり合わせたものを膝と足首の中巻くらいまでの長さにしますが、腰骨のあたりから両サイドに切り込みを入れます。

 前は軍服と同じ詰襟、鎖骨から七つのボタンが臍上まで詰めた感じで並べる予定で、それより下は開放するので足の動きは自由になります。

 パンツはやや広めに生地をとって直線的に裁断。ただしエルナリは暖かい国故の衣装なのでたとえ快晴の昼間でも寒いでしょう。なので、上に響かない構造の暖気を込めたシャツと下着をさらに作ります」



「・・・エルナリの服を着たことはないが、動きやすいなら大丈夫だと思う。しかし、二人分の衣装だ。間に合うのか?」



「はい。単純に縫い上げる分には三日ほどで出来上がるかと。ただ、これは私のわがままなのですが・・・」



 ラザノが視線で続きを促すので、言葉をつなぐ。



「肩から腰にかけて背面に大きな刺繍を入れたいと思います。二人が寄り添ってこそ完結するデザインのものを」


「なるほど。だから左右どちらに立つのか聞いたのだな」


「はい。いかがでしょうか。何かお二人のご要望があればなるべく沿うように致します」



「動きやすいのであればどのようでも構わない。任せる。・・・ああ、しかし一つだけ」



「なんでしょう」



 この上なく、真剣な面持ちでラザノは尋ねた。



「・・・ヴェールを作ることは可能か?」



「はい。それに関してはすでに素材がありますので。どのような形がよろしいでしょうか」



「リドに似合うものであれば、いかようにも」



 ラザノの一言に、ヘレナとハーン以外の全員が目を丸くする。



「わかりました。顔を覆い隠すものと聖女のヴェールのように装飾的なもののどちらが良いでしょう」


「少なくとも顎のあたりまではしっかり覆いかぶさるものが良い」


「承知しました。重すぎず、軽すぎずで作ります」


 ヘレナが自然に会話を進め追加事項を書き込むのを、ヒルとラッセルが固唾をのんで見守った。



「でもレティ、被るのぼくだけで良いの?貴方は被りたくない?」



 興味深げにハーンが尋ねると、ラザノは深々と頷く。



「俺はいらない。ただ、ヴェールを被っているリィンが見たい。それから、ヴェールをめくってリィンにキスがしたい」



 ヴェールにロマンを見出したラザノは、ハーンの両手を握って力説した。



 ああ、なるほど・・・。

 めくるのがしたいんだ・・・。

 そして、ハーンの愛称はリィンなのか・・・。


 全員が心の中で納得する。



「リィンは嫌か?」


「ううん?レティがしたい事なら何でも構わないよ。そういうのも面白いかもね」



 リド・ハーンはこともなげに微笑んだ。

 

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