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しんこんさん


「そういえば、その子のご飯ですが」


 ヘレナの膝の上を基地と定め半分口を開けてぐっすり眠るフェンリル犬を指し示し、ハーンは切り出した。


「基本、犬なので適当で構いませんが……」


「適当、ですか」


「はい、犬ですから。まだ離乳できていないので数日は山羊の乳を与えて、そのうち大人の犬のご飯へ移行してあげてください。その時は個性がありますから肉を好んだり野菜を好んだり色々でしょう。でもたぶん、ヘレナ様の与えるものならなんでも喜んで食べますよ」


 本当に適当な説明だ。


「それで、この子の魔力の関係上、ちょっと栄養補給が必要かなと思うので」


 言いながら左手で何かを救い上げる動作をすると、手のひらの中がふわりと光、瞬きをしている間にアクアマリンのような水色の透明な小石が出現した。


「一週間につき一個、とりあえず上げてみてください。そうだな……安息日の朝にあげると決めればわかりやすいでしょう」


 石を握りこんだのちにその手を差し出されて、ヘレナは両手で受ける。

 一つ一つはヘレナの親指ひと関節分くらいの大きさで、見た目より軽い。

 少し、ひんやりとした冷気を感じるがそれは見た目によるものだろうか。


「これは?」


「魔塔特製のフェンリルの栄養食です。魔石にちょっと色々仕込んでいます」


「ちなみに色々とは」


「成長を促したり、身体能力増強とか、魔力増し増しで……。あとは、仲良くなりますようにかなあ」


「従属ですか?」


 無理に従わせたくないと思ったのを察知したのか、ハーンが小さく首を振る。


「いえ、もっともっとヘレナ様を好きになるというか」


「媚薬的な効果とか?」


「いえ、そこまではないのですけどね。ええと、まあ……。ここからはヒミツです」


 ふふ、と肩をすくめて可愛く笑われても、それでごまかされるのはラザノだけだと思う。


「この子に害がないなら、与えますが」


「ぼくを信じてください。大丈夫です。問題なし。最高の栄養食です」


 ぐっと握りこぶしに親指立てて示されると、ますます不安が増す。


「そのイチイの指輪に収納できるので、『収納』って唱えてください。ちなみに出すときは『パールのエナジーひとかけ』で大丈夫」


「そうですか」


 言われるままに出し入れを試してみる。


「うわ、面白い」


「そのうち、どんどん色々なものを『収納』しましょう。エクスカリバーなんて出せたらかっこいいですよね」


 いきなり伝説の武器を例に出すハーン。


「ハーン様。私は持ち上げられませんよ、エクスカリバー……」


「あ、そうか。なら、ヘレナ様が振るえるよう極限まで軽量化した剣を作りますね」


「いえ、その前に剣を構えたことすらありません。無理ですよ」


 斧と鉈と出刃包丁は振るえるが、あれらは全て静止物が対象だ。


「大丈夫、大丈夫。妻が基礎から教えてくれます。私もこの間初めて剣を握りましたが、レティは教えるのがすごくうまいのですよ」


 ねえ、と夫婦で目をあわせて頷き合った。


 おそらくそれは濃厚な愛が存在するからこそ成功したのではないかと思うが、二人の世界に突入した彼らに何を言っても無駄だろう。

 それよりも、ハーンが何を目指しているのかを今のうちに問いただすべきか。

 いや。

 何を言っても堂々巡りになりそうな予感がするので、それは次回にしよう。


 気持ちを切り替え、ヘレナは別の質問をした。


「ところでラザノ様、近々挙式されるとシエル様から伺ったのですがいつのご予定ですか」


「ああ。十日後だ」


「十日後。すぐですね。どちらの教会でされるのですか」


「教会ではしない。魔導士庁でやることにした」


「え?」


 この国の法では婚姻届けに国教会の立会いのサインが必要だ。


「手続きは問題ない。ストラザーン伯爵家の司祭が当日立会いをしてくれる」


「ああ……。なるほど」


 大貴族となると屋敷内に祈りの間があり、専属の司祭が存在する。


「では、魔導士庁の大広間ということで?」


「天気が良ければ外で。ぎりぎりだな」


 日一日と秋が深まり、十日後となるともう冬は目前だ。


「そうですね……。ちなみにラザノ様が右に立ちますか。先ほどから拝見しているとおおむね左側にハーン様がいらっしゃいますよね」


 ラザノは右利きで、剣を抜く側が空いている方が楽なのではとヘレナは考えた。


「考えてもみなかったが、そうだな」


「あの。それで、当日の衣装はもう用意されたのでしょうか」


「いや。騎士服と魔導士のローブで良いかと思っていたのだが……」


「それならば、私に作らせていただけませんか」


 ヘレナは背筋をまっすぐ伸ばして提案する。


「今回、お二人の術符にどれだけ助けられたかわかりません。私は五年ほどドレスメーカーの下請けをしてまいりました。まだ半人前ですが、お二人の門出を祝わせて頂きたいのです」


「十日後だぞ。さすがにそれは……」


 誰が見ても無理のある日程だ。

 仕立てに詳しくないラザノもさすがに躊躇する。


「ラザノ様。ハーン様とお揃いの服、着てみたくないですか?」


 ヘレナの一言に、ラザノの眉がぴくりと動いた。


「魔導士庁のみなさんに、綺麗でかわいいハーン様、見せびらかしたくありませんか?」


 途端にラザノの金色の瞳がぎらりと光った。


「……詳しい話を聞こうか」


「はい。もうすでに構想は練ってあります。お任せを」


 『おいおい、マジか……』という、確実に巻き込まれる予定のテリーの嘆きが聞こえたが、ヘレナは黙殺した。



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