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千客万来

 二階でテリーたちと荷ほどきをしている最中に階下からざわめきが聞こえた。


「来客のようですね」

「本邸の誰かかしら」


 窓から下を覗くと、馬が門柱の前で止まっているのが見える。


「あれは……」


 その姿を確認するなりヘレナは身をひるがえし、階下へ降りた。

 途中、応接室からシエルが姿を現し合流する。


「こんにちは、ヘレナ様」


 少し高めで透明な青年の声が聞こえた。

 漆黒の馬に乗っているのは二人。

 ふわふわとした金髪の細い身体の青年と、赤ワインのような色をした髪の女性騎士。

 青年は胸元に何かを抱え姫君のようにちょこんと横座りして、女性騎士は馬にまたがり彼の腹に手を回して手綱を握っている

 彼女の端正な顔立ちと高位の者しか身に付けられない騎士服から間違いなく、この方は。


「ようこそお越しくださいました、リド・ハーン・ラザノ様、スカーレット・ラザノ魔導士団長。このたびは、ご結婚おめでとうございます」


 どちらから呼ぶか、敬称をどうすべきか一瞬迷ったが、とりあえず顔見知りのリド・ハーンの名を出し、祝いを述べながら深く首を垂れ礼の形をとる。


「そして、多くの術符をありがとうございました。それまで毎晩侵入者に怯えて眠れぬ日々を過ごしておりましたが、お二人のおかげで安心することができました」


 頭を下げたまま続けると、低めの朗々とした声が下りてきた。


「……顔を上げてくれ、ヘレナ・ストラザーン伯爵令嬢。俺は昔、ストラザーン伯爵夫人に救われた。その恩返しがようやくできて嬉しく思う。それに、あんたはリドの大切な友達だと聞いた。だから、これからも術符くらいいくらでも書くつもりだ」


 見上げると、ハーンの腰に回した手はがっちりと固定されたままだ。

 しかし彼は黙ったままヘレナににこにこと笑いかけている。

 どうやら、ヘレナとラザノのやり取りを見守るつもりらしい。


「ありがとうございます、ラザノ魔導士団長」

「堅苦しい敬称は抜きにしてくれ。スカーレットで良い。俺もあんたをヘレナと呼ぶから」

「はい。スカーレット様」


 心から笑うと、金色の瞳がじっと馬上からヘレナを見下ろす。


「なんか、ヤマネっぽいな……」


 薄い唇で何事か呟いたようだが、聞こえない。


「はい?」


 尋ねようとすると突然、きゅうんという鳴き声が聞こえた。


「ああ、レッティ。この子が早くヘレナ様に会いたいって」


 ハーンはどうやら生き物を抱えているらしい。

 彼がラザノを見上げると、途端に彼女はふわりと口元を緩めて笑った。


「わかった」


 ひらりと飛び降りると、両手を上げてハーンの腰を掴み下ろす。

 ハーンの両手がふさがっているとはいえ、しっかりとお姫様抱っこをし、額に口づけを落とす。


「ふふ……」


 ハーンがミルクのように白い頬をうっすら染めくすぐったそうに笑うのをラザノが目を細めてじっくりと堪能し、改めて丁寧に地面へ着地させるさまに、周囲の者たちの中でどよめきが上がる。


 『花嫁だ……』


 『あっちが嫁なのか……』


「おそらく魔導士庁からここまであの調子ですよ。注目の的だったでしょうね……」


 シエルがヘレナの隣でぼそっと言う。


「まあ、それが狙いだったのでしょうけれど、団長は……」


 夫婦仲睦まじいのは良い事だ。




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