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因縁



「そう言えば貴方の所の名義上の妻、あのひとの親類なんですってね?」


 自宅でさすがに堂々と名を口にするのはまずいと解っているドロテアはモルダーのことを『あのひと』と言う。


「ええ。最近まで存じませんでしたわ。どうりで似ているとは思ったのですが」


「ええ? 栄養不良で未成熟な醜い娘と聞いていたけれど、似ているの?」


「いえ、彼女のことではなく…。それよりどこからヘレナ・ブライトンの情報を?」


「ああ…。噂から芋づる式に知ったのよ。キャザリン侯爵の娘の一人がストラザーン伯爵の長男の婚約者だったのだけど、取り決めた先代が今年の春に亡くなった途端、破棄されたのよね。素行不良で」


 その令嬢は王立学院在学中にとりまきと一緒に気に入らない少女をいたぶって遊ぶのに興じていたらしい。ターゲットは成績上位で身分は低い生徒。自分たちの成績の順位を上げるために脅しているうちに激化していった。

 婚約者とその両親は彼女の加虐性を婚約当初から見抜き、長い間証拠を集め続け、先代の葬儀が終わるなり一気に提示したという。


 彼女が執拗に苛めた相手の中に、よりによってヘレナ・ブライトンがいた。


「母親の姪、つまりは婚約者の従妹と知らなかったとはいえ、けっこうな虐め方をしていたみたいで。誰も訴えはしなかったけれど…。とりまきたちも全員破談になったそうよ」


 被害者の中には途中退学し他国へ渡った生徒もいるらしく噂は国外まで広がり続け、キャザリン侯爵は火消しに奔走している。


「ヘレナ・ブライトンも中退したのでしょうか?」


「いいえ。彼女は成績優秀で飛び級を利用した上に特待生となったため、早いうちに関わりがなくなって。それで令嬢もすっかり存在を忘れていたらしいのだけど」


 令嬢有責の婚約破棄となり僻地に幽閉され発狂寸前だという噂だ。


「まあ。そうなのですね」


 元婚約者であるユースタス・ストラザーンは母に似てたいそう美しい青年だった。

 夜会で彼を見かけたドロテアが若い令嬢たちに尋ねると、カタリナ夫人はフォサーリ家の血筋なのだと答え、事細かに破談の経緯まで教えてくれた。


「前から見かけてはいたのだけど、髪と瞳は父親に似ていたからカタリナ夫人と一致しなかったのよね」


「髪と瞳が父親似…」


 ふと、コンスタンスは脳裏に浮かんだある光景にとらわれる。

 馬車で森を通り抜けた時に一瞬だけ見た、雑木林の中にいたすらりとした体躯の美しい少年。

 黒髪で鼻筋がすっと伸びて……。

 ある人を思い出す、中性的な顔立ち。


「その逆も、また…」


「え? 何か?」


「いいえ。何でもありませんわ」


 唇の両端を綺麗に上げゆったりと首を振るコンスタンスをテーブル越しに眺めながら、ぽつりとドロテアは言う。


「ゴドリー侯爵夫妻は、あの件がよほど傷になったのね。そうでないと、とっくに貴方を追い出してカタリナ夫人の姪を子息の妻として公表したでしょうから」


「それはどう言った意味で…」


「いずれ侯爵家の跡を継ぐであろう一人息子の将来を考えれば、提督時代の恋は忘れてしまえと説得するのが高位貴族のやり方よ。そうしなかったのは、ゴドリー侯爵の弟君のせいだと私は思うの」


「ゴドリー侯爵にはもう他国へ嫁がれた三人の妹しか兄弟はいないと、リチャード様から聞いていたのですが」


「いたの。婚約者を捨てて別の女と駆け落ちしたせいで除籍された方がね。名前は確か…。ダニエルだったかしらね」


「ダニエル。つまりはダニエル・ゴドリー侯爵令息、ということですか」


「ええ。せっかく近衛騎士にまでなったというのにね」


 ドロテアは謎めいた、ほの暗い微笑みを浮かべる。


「まあ、それも私の父と祖父が仕組んだことなのだけど」


「あらまあ…」


 軽く目を瞬いたのち、コンスタンスはこてりと頭を傾けた。


「なかなか。興味深いお話ですわね」



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