二人の少女 ④ ~マーゴとリラ~
引き合わせてみるとマーガレットとジュリアはすぐに親しくなり、あっさり二人は離れで共同生活を始めた。
二階の寝室はマーガレットの希望で南側がジュリアとし、彼女は北側へ移った。
マーガレット曰く、窓から差し込む夏の日差しがそろそろ辛くなってきていたからちょうど良いと。
実際、彼女の症状は進み、自然な光と音すら辛いと打ち明ける日が時々出ていた。
大人たちは手を尽くして改装し、そこに収まる少女たちの時間はゆっくり進み始めた。
背の高さは同じくらい。
十代半ばの少女特有のすんなりと細い体つき、長い首、小さな顔。
二人とも腰に届くまっすぐな絹の髪はとても見事で。
マーガレットは銀糸にアクアマリンの瞳。
ジュリアは金糸にサファイアの瞳。
涼やかな白い花のようなマーガレット。
華やかなピンクの花のようなジュリア。
まるで揃いの人形のようだった。
そして二人とも、心から打ち解けられる同年代の友人を欲していた。
親が選んだ家臣の娘たちはどれほど同じ時間を過ごしても、どこか隔たりがあった。
彼女たちの背後にはいつでも家が見え隠れしている。
貴族の決まり事とか、淑女の心得とか。
そんなものを全て取り払い、少女たちは広い庭の芝の上に寝転がった。
幼子のように手足を伸ばして見上げた空は、様々な形の雲が動いていた。
ぼんやりそれを眺めながら緩く手をつないで、二人は歌を歌う。
聖歌でも、俗歌でも、わらべ歌でも、数え歌でも、何でも構わない。
時には思いつくまま歌詞を変え、旋律を変え。
くすくす、くすくすと笑いながら。
彼女たちは、初めて。
安らぎというものを感じた。
もちろん少し離れたところで侍女や護衛たちは待機していたが、彼らも地面にゆったりと座り、平和なものだった。
時々、いや、かなり頻繁にマリアロッサがリチャードを抱えて現れて少女たちの仲間に加わった。
ありがたいことにジュリアの悪阻はマリアロッサの時に比べれば何倍も軽く、散歩に出るのは問題なく、マーガレットの体力作りに協力できた。
少しずつ、少しずつお腹の子は育っていく。
少女たちは二人だけの特別な愛称をつけあった。
マーガレットはマーゴ。
ジュリアはリラ。
彼女たちの話は尽きない。
子どもの頃のこと、見たこと聞いたこと思うこと。
得た知識を教え合ったり、一緒に学んだり。
口を大きく開けて笑い、時にはちょっと喧嘩して涙をこぼす。
姉妹のような幼馴染のような。
生まれた時からずっと一緒にいたと錯覚してしまうほどの共鳴。
それはまるで楽園に住まう天使たちのように清らかで儚い光景で。
この世界の外では残酷な事件が続き、嵐が吹き荒れていたが、ゴドリー夫妻は全て遮断した。
現実を知るのは、後で良い。
もともと骨格が細いジュリアの出産が命がけになることを理解している大人たちは、祈る気持ちで見守り続けた。
時が満ちて陣痛が始まると、予想通りの難産だった。
出産の場所を一階の客間に変え、三日三晩苦しんだ末に産声を上げた小さな子は、信じられないことに真珠の珠のように輝く男児だった。
ジュリアは、周囲の反対を押し切って枕元に付き添っていたマーガレットの手を握り続け。
最後の最後でなんとか踏みとどまり、生きた。
そして、母子とも落ち着いてきた数日後。
目の覚めるような美貌の兄妹が、大人たちに伴われて現れた。
二人は、ブライトン子爵家の子女だと言う。




