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二人の少女 ① ~それぞれの妹~



「ジュリア・クラインツ。それが妹の名前。もう二十年ほど前に亡くなって…忘れられたような、忘れられていないような」


 片頬を上げ、皮肉な笑みを紅茶カップに落とす。


「私の母は典型的な社交好きの貴婦人で自分の美貌が自慢だった。実際、美貌と多産系だというのが決め手で中級貴族令嬢が妻に選ばれたのだから事実ではあるけれど。でも、公爵夫人の器ではなかったわね」



 彼女は美しいことに固執した。



 しかし長男次男の次に産んだマリアロッサの容貌はクラインツ公爵家のもので、武門で名を馳せた男たちの特色を明らかに継いでいた。


 高い頬骨、尖った鼻と顎、猛禽のように鋭い目元。


 五十年前の貴婦人たちの流行はレースとリボンと淡い色で、男性的な顔立ちのマリアロッサには合わない装いばかり。



 失望した夫人は早々に赤子を使用人に丸投げして遠ざけた。



 幸い兄たちはマリアロッサと馬が合い、一緒に教育を受けることができ、母親と関わりがなくともなにも困ることはなく暮らした。


 そして十数年後にようやく念願の美しい娘が生まれた。


 大喜びで夫人はジュリアと名付けて溺愛した。


 しかしもう一人の娘の存在をどうしても消し去りたくなった夫人は、伝手を使い、強引にマリアロッサを追い出した。



「私はベンホルムの婚約者としてゴドリー侯爵家へ早々に放り込まれたの。そして十五歳で結婚させられたわ」


 結婚を機にベンホルムはゴドリー伯爵となり、この本邸に住まいを移した。


 ゴドリー侯爵家も色々と問題が勃発していたが、マリアロッサの長兄と同級生だったベンホルムとの相性は良く、とくに彼の末の妹が良く懐いてくれた。



「ベンホルムの末の妹の名前はマーガレット。ジュリアの一つ歳上でね」



 ゴドリー侯爵家は男三人女四人の七人兄弟で、末娘マーガレットを産んだのち体調が戻らなかった侯爵夫人はそれから僅かな月日で亡くなった。


 更にマーガレット自身幼いころから病弱で常に注意が必要な状態だったが家族に支えられ、知的好奇心は旺盛な心優しい少女へと育っていった。


 しかし国の情勢は常に不安定で、政務を担う侯爵家の本邸は常にせわしない。


 それ故、ベンホルムが伯爵位を継ぎマリアロッサが夫人として揺るぎない振る舞いができるようになった頃合いで、ゴドリー伯爵家本邸内にあるちいさな離れにマーガレットを引き取った。



「この離れはマーガレットの終の棲家として、私たちが用意したの」


 屋敷の中で一緒に寝起きするのは乳母と侍女数名に料理人、交代制で護衛に教師、そして本邸には医師を待機させ、時には王宮からも招いた。


「最初は南側の部屋がマーガレットの部屋だった。北側はゲストルームで、時々ベンホルムの妹たちが何日も泊まりに来たりしてね。そしてこのサンルームから見える限りの地面に思いつく限り沢山の花を植えたわ。特に、マーガレットとか」


 おそらく二十歳までは生きられないだろうと言われた少女のために夫婦は花のじゅうたんを作らせた。


 体調の良い時には花畑を散歩し、侍女たちは家中にとりどりの花を飾った。


 花の中でマーガレットはいつも楽しそうに笑い、美しく成長していった。


 しかし時は残酷で。


 王宮医師の診断の通り、マーガレットはだんだんと伏せる時間が増えていった。



 そんな中、クラインツ公爵家の長兄から早急の知らせが届く。


 文面は一言。


 クラインツ公爵令嬢ジュリアが妊娠した。


 まだ十四歳だった。



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