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ひみつのつうろ



『はわはわ、はわはわ!』


 ご機嫌に飛び跳ねながら先を行くハラグロを追って少し歩くと、白壁が現れる。


【ここね また かべに てを あてて】


 ビシィッと両手で壁を指してハラグロは決めキメポーズをとった。


「なるほど…」


 ヘレナがおそるおそる触れてみると、白銀の魔法陣が浮かび上がり、目の前が変形していく。


 まず見えたのはテーブルの上に置かれた木箱と山盛りになっている苺。

 昨日収穫したものだ。


「ああ、ここは地下の台所ですね?」


『はわ』


 こくんと頷く彼の後ろに続いて中へ足を踏み入れた。


 この家は一階と地下の同じ場所に台所及び洗い場が作られている。

 少し置かれている器具と配置が違うので昔は地下で下ごしらえ作業や使用人の食事場所として使い、一階で仕上げをして主人へ提供していたのだろう。


 確かに、ここは一階の台所とホールにあるものとは別の、洗い場に少し隠れて見えづらい使用人用の内階段で繋がっていて、下働き経験者にしかわからない構造ともいえる。


「ふうん。なるほどね。確かに夜とか移動が困難な時に離れの物が必要になった時にこの通路が便利だね」


 ミカとシエルが台所に足を踏み入れると、背後の壁は何事もなかったかのように元通りになった。


「例えばだけど、もしも悪意を持った奴…追手とかがアタシらと一緒に通路に入りこめた場合はどうなるんだい?」


【つち なんにでもなれる りんきおうへん へんげんじざい ぬかりなく】


「変幻自在?」


【つち やいばに なれる  こなこな め はな くち みみ ふさぐ】

 

 首をかしげるヘレナに、ハラグロは片手をしゅぱん、と振り下ろしたり、両手で首をきゅっと絞めて窒息の様子を演じて見せる。


「容赦ないね。いや、ありがたいけど」


「土魔法はほんとうに凄いですね」


【そうそう つち ないところ どこにもない おいらたち さいきょう】


「本当に…。なんて頼もしい力添えでしょう」


 もう一度壁に手を当てて感謝の気持ちを念じ、首を垂れた。


『はうはう、はうう?』


 やがてハラグロがヘレナのスカートをくいくいと引いた。


【ねえ おいら やくにたった?】


「ええ。ありがとうございます。ハラグロさん」


【ごほうび! おいら ごほうび しょもう!】


 両手を上げてぴょんと飛びヘレナのお腹にしがみつく。


 ネロよりずっと軽い。

 きっと、加減してくれたのだ。


「あっ! こら、また調子に乗って…!」


 ミカが眉を上げるが、ヘレナはハラグロを赤ん坊にするように片腕で抱え、首を振った。


「大丈夫です、ミカ。そろそろ皆さん戻って来るでしょうから、お昼の用意をしましょう」


「…仕方ないね」


 しぶしぶ頷くミカに、ハラグロは小さく『はっわー』と呟く。


「ハラグロさん。ミカにちょっかいかけたら、ごほうびがちょっとになりますよ?」


『はわわ』


「ほんとにもう、さあ…。そういうとこだよ」


 焦ってぱたぱたと手足を動かすハラグロに、ミカは盛大なため息をついた。




 内階段で一階に上がり、台所の外へ出ると、パールとネロが並んで座ってお出迎えしてくれた。


「びゃーおう…」


 ネロは、ヘレナの抱えているモノを見るなり、つやつやの黒い毛を見事に逆立てる。


「あらあら、ネロ。こちらはハラグロさん。昨日、ミニミニミニ族さんたちの中にいたでしょう」


 両手で脇腹を掴んでネロに見せたが、「ぐるるるる…」とネロは唸り、パールもちらちらと上目遣いで浮かぬ顔だ。


「どうしたの?」


 首をかしげるヘレナに、ミカは「動物の勘だろ。これの性根を解ってんだよ」と言ってハラグロの頭をわしづかみにした。


「ほら、仲間で遊んでな。アタシらは昼飯の支度があるからさ」


 床に降ろされて不満のハラグロはすかさず笛を口に当てて『ぴーぷー』と抗議を上げたが、「ごほうび」とミカが一言言うと静かになる。


「私に出来ることはありますか」


 シエルが手を挙げると、ヘレナとミカは顔を見合わせた後、頷いた。


「助かります。今日のお昼は人数が多めなので」


 自分たち三人、そしてライアンたちとナイジェル、ヒル…。

 多分八人くらいだろうか。

 だが、成人男性ばかりだ。


 指折り数えながら予定していた献立を思い浮かべるヘレナの視界に入らない所で、ぴょろろと笛を吹くハラグロの背後に座っていたネロは片手を高く掲げ、一旦ためてからぱしりと頭に振り下ろした。



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