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はらぐろ わるいこ


 再び家の中へ入ると、シエルはハラグロを抱えたまま階段を降り始めた。


 ひみつとは、地下にあるらしい。


「そう言えば、ハーン様もシエル様も軽々と抱えていらしたけれど、実際はどうなのですか」


 ふと疑問を感じてヘレナが話しかけると、小さく『ふひっ』と聞こえ、あ、まずいことを言ったなと直感する。


「それは…、あ、ほらっ…。悪戯はやめてください、ハラグロ!」


 がくんとシエルの身体が下に沈んだ。


「シエル様!」


 慌てて後を追い、正面に回り込む。

 見たところちょうど最後の段だったおかげで彼は床に座り込み、怪我はないようだが。


「ヘレナ…」


「ご、ごめんなさい、シエル様!」


 ミカの呆れ声にヘレナは平謝りに謝った。


『ふひ、ふひひひひ』


 ご満悦のハラグロを膝に乗せたまま、深々とため息をついたシエルは眉を下げる。


「いえ、大丈夫です。油断した私が悪いので」


『ぴーぷー』


 すまし顔で笛を吹くハラグロに、ミカが「こら、調子に乗るんじゃない」とたしなめた。


【おいらたち おもさ じゆうじざい】


「よって昨日、族長を抱えていたハーンにとってはぬいぐるみ程度だったかと思います」


「では、今日のシエル様は…」


 膝を落としておそるおそる尋ねると、『ぴろろ』とハラグロが笛を吹き、文字盤に言葉が浮かび上がる。


【さいしょは かぼちゃ ひとつ  さっきは つち ひとふくろ】


 突然重さが南瓜一個から土嚢一袋へ変われば、さすがにダメージが大きい。


【いま かぼちゃ しえる だいじない】


「お~ま~え~」


『ぴー、ぷるる』


 ミカが腰に手を当て睨みつけると、すっとぼけた調子の笛の音で応えた。


「まあ、そんな…。本当にごめんなさい、シエル様…」


「いや、あのですね…」


 シエルが口ごもる様子をニマニマ笑ってますますぴよぴよ囃し立てるハラグロへ、ミカがビシッと指さす。


「…ハラグロ。お前さん、わざと昼飯どきを狙って現れたんだろう?」


『ぴぷ』


 笛の音が止まった。


「やっぱりね。だけどさ。あいにく悪さばっかりするやつなんかに食わせる飯はないよ」


『はうわぁ~』


 シエルの膝の上でハラグロは手足をジタバタさせ、いやいやと頭を振る。


「いいかい。あんたがこれ以上調子に乗ったら、ハーンさんかエルドの爺様呼んで強制送還させるし、出入り禁止にするよ。アタシにはね。ヘレナの日常を護る使命がある。カタリナ・ストラザーン伯爵夫人直々に頼まれているんだ」


『びぎゃ』


 ミカの言葉のどれかがハラグロに響いたようで、ぴょんとシエルから降りるなり直立姿勢になった。


【しえる ごめん はらぐろ わるいこ】


 ぽくぽくと頭を叩くハラグロの手をシエルがそっと止める。


「大丈夫です。さあハラグロ。案内の続きをしましょう」


【うん】


 こくりと頷くと、ハラグロはぽてぽてと歩き出した。


【こっち】


 意外と足の速い彼のあとを追いかけると、乾燥ハーブ類の貯蔵庫としている部屋へたどり着く。


【ここ】


 扉をぽんぽんと叩くので、後ろからシエルが「開けますよ」と一声かけてドアノブをひねって開けた。


【えるどと はーん さいしょから きめてた】


 てくてく歩いて彼がたどり着いたのは白い漆喰が塗られた壁の前。


 両手をぺたりと壁に当てて、『むん、むむむん』と唸る。


 すると、ヘレナの目の高さあたりに白銀の線で描かれた丸い魔法陣が現れた。


【へれな みか しえる えんの なかに てを あてて】


「はい」


 三人が手のひらを円の中心に押し当てると、『むむむ、むむんむむん』とハラグロが呟き、光の力が増す。


『はうわ~!』


 ハラグロが叫んだ瞬間、ぽん、ぽん、ぽんと彼らの手の甲に白銀の光がくっ付いた。


【とうろく かんりょう もう いいよ】


 ハラグロに促され、壁から離す。


「ん…? 『つうこう きょか』?」


 手の甲をじっと眺めると白銀色にうかぶ文字がわずかに読みとれ、ミカが声に出しているうちにすううーっと消えた。


【いまは とりあえず さんにんだけ ひみつの つうろ】


 ぺん、とハラグロが壁を叩くとぐにに…としっくいがまるで粘土のように動き出す。


「え? …これは、地下道?」


 壁がアーチ型にぽかりと開き、その先には薄明りに照らされた通路が続いていた。


【そそ ほんたく はなれ つなぐ ひみつのみち】


「この離れを作る話し合いの最中に、老師が雪深くなったら行き来が大変なのではと言い出しまして。ミニミニミニ族にはこの地下道こみで建築をお願いしていたのです」


「すごいですね…」


【へれな きて】


 ハラグロがくいくいと手招きするので、アーチをくぐって中に入る。


 壁に触れてみると、何の変哲もない漆喰のなめらかな感触がひんやりと手のひらに伝わった。


【ほらほら もっと なかに はいって】


 ハラグロに手を引かれたヘレナを追って二人も足を進めると、全員が通路に入った途端、背後の壁がうごめいて閉じる。


「あ…? ええと、ハラグロさん。これはこんなにもすぐに閉じてしまうものなのですか」


【すぐとじてって えるど いった でも だいじょうぶ てを あてたら ひらく】


 その言葉に、ミカが出入り口だった壁に手を当てるとアーチが現れ、棚と吊るされたハーブが見えた。


「これってもしかして保安上の問題ですか?」


【そう】


 こくりとハラグロはうなずく。



【さあ でぐち はらぐろ ごあんない】


 ハラグロが『はわー』と両手を上げると、通路の中がほんわかと明るくなった。



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