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ミニミニミニ族、おかしだいすき


「実は、みんなの荷物が少し軽くなるようにミニミニ族たちが小さな魔法をかけてくれていたのです」


 シエルがこっそり教えてくれ、ヘレナは慌てた。


「え…? そうなのですか。ええと、なら、ぜひお礼をしたいのですが…」


 ヘレナは顎に手をやりしばらく考え、尋ねる。


「あの、シエル様。彼らは人と同じ食べ物を口に出来ますか?」


 すぐにヘレナの意図に気付いたシエルは微笑みながらうなずいた。


「ええ、彼らは焼き菓子が大好物です」


「あ、それなら…」


 ヘレナが提案するまでもなく、ミカが手を挙げる。


「大丈夫。そんな話になるかなって、母さんがさっきかき集めに行ったよ。すぐに持ってくる…、ああ、ほら来たよ」


 振り向くとミカとラッセル商会の従業員数名が手提げ籠を両手に、速足でこちらへ向かってきた。


「マーサ」


「ヘレナ様。商会にと頂いたものですが、おそらく喜んでいただけるかと」


 籠の中には、小休憩で提供したカップケーキとドロップクッキーの残りと、前もって別に用意していたショートブレッドやバンズなどが詰め込まれている。


「ごめんなさい、良いのかしら?」


「はい。我々は次の楽しみということで」


 ラッセル商会から使いが来るたびにヘレナは必ず土産を渡していた。

 今回はミニミニミニ族へ譲ると申し出てくれたことに感謝する。


「ありがとうございます。では、遠慮なくお礼に使わせていただきますね」


 ヘレナは籠を一つ受け取った。


「小さき友たちよ。ヘレナ嬢がそなたたちに礼がしたいそうだ」


 エルドが声をかけると、ゴーレムたちはいっせいにヘレナへ顔を向ける。


『はうわ?』


 なんとなく、『なんですと?』と言っているような気がした。


 ヘレナは片手でスカートの裾をつまみ、深く頭を下げる。


「ミニミニミニ族のみなさま、今日は私のためにお力添えくださりありがとうございます。おかげで素敵なお家が建っただけでなく、事故もなく全ての品物を短い時間で納めることが出来ました。感謝してもしきれません」


『はっわー、はわはわ』


 ゴーレムたちは小さな頭と手をくりくりと小刻みに振り、『いやいやそんなことないよ』というような仕草をし、会話が成立していると感じた。


「お口に合うかわかりませんが、もしよろしければ私たちの作った料理を食べて疲れをとって頂けませんか」


 両膝を地面につけて、籠の中を彼らに見せる。


『はわわ!』


 ゴーレムたちはみな、両手を口に当て、ぴょんと軽く飛び上がった。


「いかがでしょうか。お好みではありませんか?」


 そのままの姿勢で首をかしげて尋ねると、タンバリンを持っていたゴーレムはそれを両手で胸に押し付ける。


『むん』


 すうっとタンバリンが彼の身体の中に吸い込まれ、馴染んだところでふうと息を吐き、それからテトテトとヘレナの前までやってきた。


『はわはわ、はわはわはわ』


 レモンのアイシングがかかったカップケーキを手で示し、次に自分を指す。


「これをもらってくださるのですか。ありがとうございます」


 一つ手に取り差し出すと、両手で受け取り『はわ』と頭を下げた。


「う…、か、かわい…、ごめんなさい、失礼なことを…。でも、そのお姿の何から何まで愛らしくて素敵です…」


 頬を染めて支離滅裂な言葉を吐く十七歳を、『はわ…』と呟きちょっと残念なものを見ているように推察したミカはやれやれと首を振る。


「さあさあ。他の民たちも、欲しいものをとるがいいぞ」


 エルドに促され、ミニミニミニ族たちはぴょこぴょこと近づいてきた。


 ヘレナと同じように籠を手にしたリチャード、ユースタス、クリス、ヴァンそれからラッセル商会の者数名がそれぞれ地面に膝をつき、迎える。


 ゴーレムたちはそれぞれ好みがあるらしく、小さなドロップクッキーを数個まとめて所望する者もいれば、自分の顔半分くらいの大きさのバンズを受け取る者もいて、見た目よりはるかに個性の違いが出ている。


「あはは、こんなに小さなゴーレムは初めて見たけど、ほんとにかわいいな」


 ウィリアムがリチャードを手伝い示された菓子を手渡している隣で、ヴァンと籠を共有しているライアンはどんどん手渡しながら声を上げて笑った。


 あっという間に三十一人にいきわたり、彼らは菓子を両手に持って並ぶ。


『はわわ、はっわ~』


 ぺこりと一礼したのち、全員少し頭を後ろにそらした。


「………っ!」


 突然ぱかりと口が大きく開き、そこへぽいっと菓子が放り込まれる。


『はふはふ。ほむほむほむ………』


 しばらく咀嚼して、ほぼ存在が確認できない首へこっくんと飲み込まれたと思われる様子を人々が固唾を飲んで見守ること数秒後。


『ふぉわわわわわわ~~~!』


 ゴーレムたちがいきなり叫び出した。


 目の大きさは倍になり、ぷるぷると全身を震わせたかと思うと、頭のてっぺんから何かを噴射する。


「ええ…? えええ?」


 膝をついたままミニミニミニ族たちの頭頂から発射されたものを視線で追うと、それらは建てたばかりの家の屋根より少し上のところでポン、と弾けた。


『ぽん…ぽん…ぽん…ぽぽぽぽん』


 オレンジ色の火花がガーベラの花のように開く。


「花火…?」


 火花のかけらはシュワシュワと音を立てて空気に馴染みながらゆっくりと降りてくる。


「わあ、綺麗…」


 光の粒が消えるまで見守ったヘレナがゴーレムたちに視線を戻すと、彼らの頭頂部には小さな花がちょこんと生え、そよと風にそよいでいた。


「あら、お花が咲いたのですね。カモミールですか?」


『はわ』


 こくりとゴーレムが頷くとほんの人差し指ほどの丈の草花がそよりと揺れる。


『はわん、はわわん』


「おかわり所望、だそうじゃぞ」


 エルドが通訳をしてくれ、ヘレナは「喜んで」と籠をさしだした。


『はわはわ』


 今度はこれ、と示すものを手渡し、また、彼らが口に放り込むのを見守る。


『むむむ、むむむむむ~』


 食べ終えるなり、彼らは仁王立ちをしていきむような姿勢を見せた。


「今度はなんだ?」


 ライアンが面白がっている声を聞きつつ、ミニミニミニ族を見ていると、今度は建物の周りをポコポコポコと土が蠢き走る。


『むん!』


 全員が一斉に両手を天に向けてあげると、『ポン!』と緑の葉が飛び出した。


「あれは…」


『はうはう、むんむんむん、はわわんわん』


 彼らが何事か唱えると、緑が生い茂り、白い花をつけたかと思えば、あっという間にそれは赤い実へと変わる。


「いちご…」


 冬を目前にして、ぐるりと苺畑に囲まれた。



『はわはわ!』


 タンバリン担当だったゴーレムがリド・ハーンを指し招く。


「はいはい。ご指名ですね」


 ふわふわとした金髪をなびかせながら、ハーンは足取り軽く彼の前に行くと、両手を広げた。


『むん』


 ぴょんと飛んでハーンの胸元へ飛び込んだゴーレムをハーンはにこにこ笑って抱え、くるりと彼の身体を反転させる。


「ミニミニミニ族の族長さんが通訳せよとのことなので」


 細腕にゴーレムを抱え、無垢な笑みを浮かべ続ける夫の姿にラザノが両手で口元をおさえたが、それに気づいた者はわずかだ。


『はわはわはわ、はわわ、はわわわ、はわはわ』


 小刻み手足をばたつかせ、ゴーレムは熱弁をふるう。


「ええと、これは一日苺というもので、明日のこの時間には消えてしまうそうです」


『はわはわ、はわわ、はわはわ』


「なので、それまで存分に収穫して、食べるなり煮るなりするがよい。我らからの祝福じゃ…だそうです」


 遠目に見ても、苺はどれもぷくりと膨らみ、赤くきらきらと輝いている。


「一日苺…。貴重なものをありがとうございます。大切に収穫させていただきますね」


『はわ、はわはわ、はわはわはわ』


「それと、食べ物を譲ってくれたラッセルの者たちにも祝福を。土の縁がありますように」


「我々にまでお心遣いをありがとうございます」


 テリーは胸に手を当て、深く頭を下げた。



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