おうち、つくったよ
『ピープー』
『トトン・ツク、トトン・ツク…、シャ、シャ、シャンシャシャ…』
『はわ~』
それぞれ好き勝手に発する無秩序な音のようなのに、うまく絡み合い、心躍る旋律が紡がれていく。
そして、タンバリンを打つゴーレムと笛を吹くゴーレムが中心に立ち、それを丸く囲むように残りのゴーレムたちが行進しながら、リズムに合わせて皆同じ所作で手足を動かす。
『はわわ、はわわ、はわはわ~』
円舞がぴたりととまり、全員が中心のタンバリンと笛に身体を向け、両手を天に向けた。
『はわ~あ』
ゆっくりと両手と頭を下げ、お辞儀の姿勢をとる。
『はわ~わ』
もう一度同じ所作を繰り返すと、『ぽこりぽこり』と音がして輪の中に切り石がそこかしこに現れた。
『むむむ、はわはわ、むむむん、はわはわ』
ゴーレムたちが軽く腰を振りながら両手をぐるぐると胸の前で糸巻きのような仕草をすると、切り石たちはまるでイキモノのように動き出し、地面の上を滑り四角の塀を作り始め、彼らの中の定位置と思われるところへ治まっていく。
糸巻き踊りと歌が続くなか、石はどんどん地面から現れては次々と隙間なく積み上がり建物の土台らしきものが仕上がった。
「すごい…」
ヘレナの感嘆の呟きが聞こえたのかはわからないが、群舞団は全員一斉に右手を挙げる。
ゴーレムたちの顔の造りは子どもの作る泥人形のそれで、目と口が木切れで描かれた単純なものだが、どこか得意気な様子だ。
『ほー、ほー、はわ~わ』
くるりと中心へと向き直ったゴーレムたちが頭と両手を下げて深々とお辞儀をすると、『ぽん』と音がして、綺麗に製材された柱が土台からにょっきり生えてきた。
『はうわ~、はうわ~、はわはわは~』
今度は両手を下から上へと、まるで持ち上げるような仕草をする。
すると、柱はそれぞれ同じ速度でどんどん天に向かって伸びていく。
『はわはわ、はわはわ』
唄い担当たちがぽん、ぽんと拍手をすると、横に柱が現れて繋がるばかりかきっちり固定した。
『はわはわ、はわーんん?』
全員で頭と体を右に左に傾けながら唄うと、間柱や筋交いなど次々と現れては接着し、どんどん建物らしい姿へ変わっていく。
『はわわわ、はわ!』
切り妻屋根の基礎らしきものが出来上がるとそれの中にいたはずのタンバリンのゴーレムが宙に舞い上がり、棟の上に着地した。
『トトン・ツク、トトン・ツク…、トトントトン、トトン、トン…』
『はっわ~』
『ピーピープー』
半数ほどのゴーレムたちが構造物を取り囲み、それぞれちょんちょんと柱に触れる。
『パシ、パシ、ピシッ』
おそらく建物として必要な木組みが次々と行われていく。
複雑に組まれていくうちに、窓や扉、そして二階と屋根裏などその家の形が見物客たちにもだんだんわかってくる。
『は~、は~、は~わ~あ』
唄いと円舞担当のゴーレムたちが肩を揺らし、腰を揺らし、タンバリンのリズムに乗って小刻みに踊ると、ぽこぽことレンガが現れ、木組みの隙間をあっという間に埋めていく。
『はわはわはわはわ! はわはわはわはわ!』
タンバリンと笛の音が突然早くなった。
旋律に呼応した踊り担当たちが手足を素早く振り、駆け足を始める。
物凄い速さで、はわはわと笑いながら彼らは走り続けた。
ひょるるひょるると空気が音を立て、氷の箱はさらに明度を増す。
そこからは、瞬きをするのも惜しい速さで工程が進んでいった。
作業担当らしいゴーレムたちはちょこまかちょこまかと動き回っては小さな手で建物に触れると、ふんわりしたあかりがともると同時に何かが現れ、気が付けばどの階にも飴色のどっしりとした床板が張られ、壁はあっという間に煉瓦で埋まり、さらに外側には漆喰が塗られていく。
着々と建築が進み、屋根も瓦がどんどん敷き詰められて行く中、タンバリン担当はぴょんぴょんと妨げることなく打ち鳴らしながら器用に跳ね続けた。
窓ガラスも戸板もいつの間にか設置され、煙突もにょきっと屋根から一本伸びたところで、笛が甲高い音を立てた。
『ピ――――ッ!』
すると、全員、ぴたりと止まる。
『ピー、ヨー、ヒョー………』
『は~~~わ~~~』
『ト、シャン』
ゴーレムたちは外を向き、ゆっくりと腰をかがめ丁寧にお辞儀をした。
まるで一つの余興を終えたと言わんばかりに。
『はわ~』
彼らの背後には、見事な切り妻屋根の二階建ての小さな屋敷が堂々たる姿を見せていた。




