ミニミニミニ族、あらわる
イチイの大樹の広い傘の先の下にエルドは立つ。
なぜかナイジェルとヒルが老師の左右を固め、老師と杖を運ぶ任務を終えたパールは後方のイチイの根元で見守るヘレナのそばに戻り、ネロに至ってはちゃっかり抱っこをねだった。
パールを挟んでヘレナの隣にミカ、逆側にユースタスとクリス、背後にはリチャードたち、そしてラッセル商会など搬入立会い者たちがそれぞれ思い思いの場所から見物する。
先ほどの柵の拡張工事魔法のようにシエルたち魔導師は老師から離れ、地面に引いた線の外でそれぞれ時を待っている。
上空をのんびり旋回していたイズーがゆっくりと降りて来て、地面につきたてられたエルドの杖の先へ器用にとまった。
「カア」
イズーが囲った空間を見つめ軽く頭を下げて一声鳴く。
「うむ」
エルドも頷き、杖に両手を添えて両足を開き、腰を少し落とした。
「それでは、始めようか」
低く、歌うようにエルドは呟く。
「カアーァ」
呼応するようにイズーが杖から再び宙へと飛び立った。
ばさりと黒い羽が音を立てる。
「建築」
青白い光の線が地面を走り、四角く囲って繋がった瞬間、羽ばたいているイズーのすぐそばまで上がり、キンとガラスを弾くような音とともに透明な箱のようなものが出来上がった。
別邸の三階ほどの高さまでそびえたつ薄い氷の空間。
水蒸気のような白い光がぱらぱらと生まれては消えていくさまをヘレナは見上げ、腕の中のネロの背中を撫でながら、ほうとため息をつく。
「綺麗…」
「アウン」
呼応するかのように小さく鳴いたパールが大きな頭をヘレナの身体に擦り付ける。
「さあ、小さき友たちよ。我と楽しもうぞ」
エルドが杖に魔力を込め、薄氷の大きな箱の中はキィィーンと音と光を強め、それが最高潮になった時、中心にそれが現れた。
『ポン』
「え…」
手足が短く、真ん丸な頭と真ん丸なお腹。
幼児のような体型で、見事な三頭身の土くれ人形。
大きさは、おそらくネロと変わらない。
それが一体、ぽつねんと佇んでいる。
「ゴーレム?」
離れているのにヘレナの呟きを耳ざとく聞きつけたエルドは体勢もそのままに応えた。
「そうじゃ。聖なる土と水から生まれた土の民。ミニミニミニ族じゃ」
「みにみにみにぞく」
ヘレナが復唱すると、隣のミカがぼそりと呟く。
「要するに魔改造ゴーレムってことだろ…」
そのミニミニミニ族とやらはエルドに向かってこくりと頷くと、足を開いて仁王立ちになり、短い左手を天に向かって突き上げた。
『はわわ~』
高くて舌っ足らず、そして泡が弾けるような少し頼りない声を上げると、手のひらに何かが現れる。
『ポン』
顔と同じくらいの大きさの円形の木の枠に白い皮が張ってあるそれは。
「…タンバリン?」
ユースタスが無意識のうちに口にすると、どうやら聞こえているらしく、ゴーレムはまたこくりと頷き、すっと両手を構える。
『トトトン…、シャン』
タンバリンを軽くはじき、木枠を振ると銀色の小さなシンバルが可愛らしい音を立てた。
ゴーレムはタンバリンの具合を良しとしたのかもう一度深く頷くと、演奏を始める。
『トトン・ツク、トトン・ツク…、シャ、シャ、シャンシャシャ…』
ゴーレムはリズムに合わせて身体を左右に揺らし始め、同じフレーズを何度か繰り返すうちに興に乗ってきたのか、口をぱかりと開けた。
『はわわ~、はわわ~、はわはわ、はわ!』
すると、ぽんっと瓶からコルク栓を抜くような可愛らしい音がして、同じ大きさのゴーレムが四人現れて、彼の周りをぐるぐると回りながら踊り出す。
「え…。なにこれ、すっごくかわいいな」
クリスのみならず、誰もがミニミニミニ族に釘付けだ。
『はわわ~、はわわ~、はわはわ、はわ!』
五人で声を合わせると、今度は十人ぽんっと現れ、そのさらに周りをぐるぐると回る。
『はわ~!!』
皆で高らかに歌うと、今度は、ぽんっと縦笛を咥えたゴーレムが現れ、タンバリンと共鳴し始めた。
『はわ~、はわわ、はわわ~』
次に現れたのはさらに十五人のゴーレム。
魔法の氷の大箱の中は三十一人のゴーレムたちの演舞場と化した。




