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飛び入り参加・老師エルド



 ヴァン・クラークの采配で、ゴドリー伯爵家周辺の混乱はみるみる解消されていき、隊列は敷地内で整然と並び次の指示を待っている。


「相変わらず出来る何でも屋だねえ、君。おかげで楽だけどね」


 ナイジェル・モルダーはヴァンの横で金色の髪をなびかせながら呟く。


「これが俺の仕事だからな」


 同い年でともにケルニアの激戦を生き抜いた仲間であるため、二人の会話は気安いものだ。


「イズーはどうした。見かけないな」


 空を見上げ深緑の瞳でナイジェルの鴉を探すヴァンに、肩をすくめて応じる。


「ああ、朝から斥候をさせたんだ。おかげで状況は確実に把握している。褒美に解放したから今頃あっちで可愛がられているだろう」


「…やはり予想通りか」


「ああ、そうだな。それでリチャードは?」


「もう少ししたら来るはずだ。今朝は体調が悪くて起き上がれない上に、『何故か』馬の用意が出来てなくてな」


「こうなるとほんっと笑えて来るなぁ」


「まったくだ」


 二人の会話が終わるころ、執事ウィリアム・コールを先頭に当主リチャード・ゴドリー伯爵、そして秘書官ライアン・ホランドがようやく現れた。


「待たせて申し訳ない。リチャード・ゴドリーだ」


 馬から素早く降りたリチャードはまず、先頭に立つ魔導士庁から来た小さな老人の元へ行き胸に手を当て騎士の礼をとった。


「エルド様。この度は拙宅までお越しいただきありがとうございます。長くお待たせした上に家の者たちの犯した数々の無礼、本当にどう詫びればよいか…」


 使用人たちはざわめく。


 まさかこのちっぽけな老人が次期侯爵である主が腰を折って謝罪するほど高い地位であるとは、想像していなかった。


「よいよい。頭をお上げなされ、ゴドリー伯。何やら面白そうな話をハーンどもがこそこそやっておったのでの。仲間外れは寂しいで、無理やり飛び入り参加したまでよ」


 小さな身体を震わせかっかっかと笑う老師の傍らに立つサイモン・シエルはいささか疲れた顔をしており、ナイジェルたちは同情の視線を送る。


「わしはな。あの子の焼いたケーキをたくさん食べたくて今日はきた。『掃除』はついでじゃな」


 ふんふんふんと鼻歌を歌いながら自分の背丈より長く伸ばした杖を左右に揺らした。


「お前さんも、まあ、立ち会わんと色々詰むことになるだろうしな。時間も押している事じゃし、さっさと片づけて良いかの?」


「はい。どうぞよろしくお願い致します」


 深くエルドに頭を下げた後、視線を巡らせユースタスやクリスたちにも黙礼を送る。


 互いの会釈が終了したのを見届けた老師は得意気に胸をそらし、弟子を見上げた。


「と、いうことじゃ。シエル?」


「はい、老師。では失礼します」


 ぽんと杖で小突いてせっつく魔導士庁最高幹部をサイモン・シエルは腰をかがめて両手で腰をしっかりつかみ、馬の背へのせる。


 そしてリチャードに一礼して自らも老師の後ろにまたがった。


「全員、騎乗」


 リチャードの到着でいったん馬から降りていた人々はヴァンの声に従う。


「では行こうか、リチャード」


「はい」


 リチャードとシエルの馬を先頭に、スカーレットとハーンの馬、そしてウィリアムとライアンが続き、次にユースタスとクリスが率いるストラザーン伯爵家、そしてテリーのラッセル商会の荷馬車が続く。


 最後尾は近衛騎士ベージル・ヒル、ナイジェル・モルダー、そして見送り役のヴァン・クラーク。



 見事なまでの行列は本邸の主の寝室から良く見えた。




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