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助祭様はどこに


「ところで、シエル様。助祭様はお元気ですか。先日の焼き菓子がとてもおいしかったので、一度レシピを伺いたいと思っていたのですが」


「ああ…。そうですね、レシピについては私が聞いておきましょう。ちょっと今、彼は立て込んでいまして」


「あら。どうかされたのですか」



「実は、リド・ハーンは先日、結婚しまして…」


「…はい?」


 こてんと、ヘレナは首を傾けた。


「ええと…」


 脳内の記憶をさかのぼり、シエルに尋ねる。


「私の記憶違いでなければ。十日ほど前に転職されるご予定だとお聞きしたはずですが…。転職先とは、ご結婚のことだったのですか? いや、ご結婚自体は、とてもとても…、大変めでたい事ですが」


 大変おめでたくない結婚を十日前に終えたその口で言うのは何だが。


「ええ。なんといってよいやら私も分からないのですが。初出勤の日、魔導士庁の長官の元へ挨拶に伺ったのですが…。その時、ちょうど居合わせた方と恋に落ちまして」



「え?ずいぶん、面白い話ね」


 腕を組んで考え込んでいたはずのカタリナがいきなり会話に参戦してきた。


「その、その場でその方と結婚することが決まり、そのまま新婚生活に突入しまして…」


「ちなみに、どなたかしら。権力のある人よね。女性? 男性?」


「女性です。スカーレット・ラザノさまという…」


「ああ、紅蓮のイ…んん。炎の女神と言われる、魔導士第二団長の人ね。すごい美人だけど、浮いた話がずっとないと聞いていたわ」


 紅蓮のイフリート、と言いかけたのを、ヘレナは察知した。

 イフリート…。

 大丈夫だろうか、助祭様。


「ようは、すごく綺麗ですごく強い女性とご結婚されたのですね」


「ええ。本当は一緒にこちらへ伺う予定でしたが…。あの、ちょっと、疲れが出てですね…ハーンに」


 シエルが珍しく二人から視線をそらしてぼそぼそと言う。


「はあ…」


「なるほど」


 女性たちの反応にいたたまれないものがあったようだが、紅茶を飲み干してシエルは立て直した。



「…まあとにかく。最強の御方が奥様になってくださったので安心しました。ハーンは私の弟というより息子みたいな存在だったので」


 たまたまリド・ハーンが教会へ送り込まれたときに立ち会ったのがシエルだった。

 何日も風呂に入っておらず死にかけの野良犬のようなありさまだったが、連れてきた男が言うように恐ろしく綺麗な子だと気づき、汚れを落とすときに普通の少年に見えるよう術をかけた。

 以来、同じ悩みを抱える少年たちと助け合って生き、ようやく脱出できたと思ったらなんとすぐに恋に落ちるとは。


 これだから、生きてみて良かったと思う。



「そうなのですか…。でもお寂しいでしょう。お二人の唱和はとても美しくて聞きほれてしまいました。あれは長い間共に過ごされていたからでしょう」


 そしてヘレナはその素晴らしさを叔母に力説した。

 姿を変えても隠し切れない、二人の声の美しさを。


「そうですね。私たちはずっと一緒でした。しかしもう私が守る必要はありません。今回のご縁は神からのご褒美でしょうか」


 腐敗しきった宗教界での生活からおそらく、彼ほど神を信じない男はいないと思うが。


「なるほど」


 そこで、カタリナは本邸の応接室でのシエルの爆弾発言を思い出す。


「それはなによりね…」



 

 

次回、閑話になります。


リド・ハーンの婿入り譚。

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