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複雑なつながり



 お茶会はその後つつがなく終了したが、侯爵夫妻とカタリナは打ち合わせのために残り、さらには伯爵家の実務管理者としてのウィリアム・コールとヴァン・クラークもとどめられた。


 解放された者たちは王妃の庭園を通りながら馬車乗り場を目指す。


 先を歩くのはクリス、ヘレナ、ミカ、ライアン・ホランド、ベージル・ヒル。


 そしてかなり間をおいてリチャード・ゴドリー伯爵、ナイジェル・モルダー男爵、そしてユースタス・ストラザーン伯爵子息の三人が続く。


 普通なら王妃宮専属の侍女と護衛騎士が通常ルートである屋内の回廊を案内するが、王妃の勧めで庭園経由となった。


 本格的な冬がすぐ近くまで来ているため、広葉樹の葉は赤や黄色に色づいては風に誘われて落ち、常緑樹も夏とは趣の違うさまへひっそりと変わる。


 風の音と枯れ葉がたてる音、そして目の上から嘴を通り胸元までオレンジ色に染めた小鳥が離れずの距離でヘレナたちの近くの木々にとまって囀ってはぴょんと別の枝に移った。


 少女が手を伸ばし、鳥の囀りに似せた口笛を吹く。


 すると一羽が飛んできて彼女の指先にとまり、きょろきょろとあたりを見回し首を傾げた後、こつんと嘴を軽く当て、また空へと羽ばたいた。


「ふふ…。またね…」


 ヘレナの微かな笑い声が風に乗ってリチャードの耳に届く。


 弟も護衛の侍女もベージルもそしてライアンも全く驚くことなく、静かに佇みヘレナを見守っている。

 冬の吐息を忍ばせた少し強め風が吹くと、深い紅色のドレスと細かく編み込まれた黒髪がなびく。


 姉弟は何事か言葉を交わしてほのかに笑いあい、続く三人も…自ら手配した主の仮初の妻にあからさまな敵意を向けていたはずのライアンですら足取り軽く話の輪に入った。


 ごくごく当たり前の様子で。

 これが、あの家での彼らの日常なのか。


 リチャードは立ち止まり、思わず目を閉じ額に手を当てる。


 今日己の目と耳で受けとった全ての情報に対して戸惑うばかりだ。


 王妃も、父も、母も、カタリナも。

 そして側近であるはずの彼らも。


 はっきり責めることはないが、今の自分に対して異を唱えているように思う。


「こうして見ていると、ライアンってあの姉弟の弟二号って感じだよな。なんだかんだで似てるし。あ、俺とユースタス様もそうだけど」


「…は?」


 考えかけていた全ての事が霧散し、リチャードは額から手を外してナイジェルをまじまじと見つめた。


「ユースタス様、ライアン、ヘレナ、クリス、俺の五人はなんだかんだで血縁だよ。今はかなり落ちぶれている南部の侯爵家、フォサーリの血を引いているんだ」



「フォサーリ…」


 そう言えば、先ほどもナイジェルはその家門の名を口にした。


 古くから続く家柄で、血筋の者たちはみな見目麗しいことで知れている。

 しかし何事にも鷹揚な彼らは経営に疎く資金難に何度も陥り、人脈と気候の良い領地のおかげでなんとか維持している状態だとリチャードは記憶していた。


 ユースタスへリチャードが視線を向けると彼は完璧な笑顔を浮かべて頷く。


「私の母方の曾祖父はフォサーリ侯爵の先々代で、ナイジェル様はその末の妹君が祖母で…」


 ヘレナ、クリス、ユースタスの祖母で、家門の資金繰りのためにブライトン子爵に嫁がされたとされるフォサーリ侯爵令嬢と、ナイジェルの父は従姉弟に当たる。


 ようは、ナイジェル・モルダーとカタリナ・ストラザーン伯爵夫人は『はとこ』といった関係と言ったところか。


「さらに、ライアンがホランドの養子で、俺たちと顔立ちが似ているあたり、なんとなくお察しだろう?」


 ナイジェルとユースタスは年齢と髪の色こそ違えど、貴公子然とした優雅な顔立ちと雰囲気は確かに近しい。

 そして何よりもナイジェルとライアンは髪質と目元があまりにも似すぎていると今更気づいた。


 ホランド伯爵は母マリアロッサの実家クラインツ公爵家の家臣の家。


 そこでようやく母の妹の一人に関する事件を思い出す。

 クラインツ公爵家の汚点として、ひた隠しにされた…。


「まさか。ライアンは…」


「ああ、違うよ。あの駄目男は男女関係に関しては筋金入りの『淑女』だった」


 行きついた考えに顔色を変えたリチャードの肩をぽんと軽く叩いてナイジェルはいなす。


「何にせよ、俺たちは色々な形で繋がってここにいる。それだけの話さ」


 偶然なのか。

 必然なのか。


 今のリチャードは、遥か先で風に揺れるヘレナの黒髪と白くて細いうなじと小さな背中をただただ見つめるしかできない。




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