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大きな子どもたち




「なんてこった……」


 食堂の大きなテーブルの片隅で、ライアンはきらきらと光る金髪豊かな頭をさんざん両手でかき回したあと抱えた。


「もしかして、俺のせい? 俺、まずいことしたかな?」


 めそめそと大きな独り言を連ねる男に、対角線上反対側の隅に座るクリスは頬杖をついたまま冷たい視線を送る。


「確実にやらかしたのでは……? お坊ちゃまっていろいろ詰めが甘いし」


「ひどい。弟が冷たい。ここは慰めるところだろ」


「だから弟ではありませんって」


「ほんっと、冷たいな! ちょっとは慰めろよ! と言うか、なんでまだいるの、弟。学校サボる気か」


「明日はここから直接学校へ向かうので問題なしです」



 十歳違いの二人が火花を散らし合っているなか、大鍋を抱えたミカが割り込む。


「はいはい、じゃれ合いは終了ね。ご飯にするよ」


 彼女の後ろからあきれ顔のヴァンが皿とカトラリーを持って現れた。


「ライアン。泣き言ばっかりこぼしていないで手伝え」


「……はあい」


 唇を尖らせライアンは厨房へ向かい、クリスはスープを装い始めたミカの介添えをする。


「あんまりいじめるんじゃないよ、クリス。遅かれ早かれ、あのニールとやらは逃げただろうから。証拠品が手に入っただけもうけもんなんだ」


 ミカが諭すと、クリスは肩を落とした。


「ごめんなさい。彼を見ていると、どうしてもあの人を思い出すんだ……。ちょっと、何かのはずみに…。そうしたら凄くイラっと来る」


 自分の感情をうまく制御できないことに困惑するクリスに、ミカは苦笑する。


「まあ、わからんでもないけどね……」


 まだ十五歳なのだ。

 突っかかる相手がいる方がこの子には良いのかもしれないとは思うが。


「そういやもう一人、見た目があれと似たような人がいるよ。そっちとも近々会うんじゃないかね」


「えー……」


 うんざりした声を上げるクリスの背中をミカはぽんと叩く。


「多分大丈夫だよ。ちょっとチャラいけど、奥さんは立派だから」


「判断基準、そこ?」


「ああ。宮中最強と謳われる女を並み居る男たちをなぎ倒してかっさらった人だからね」


 笑いながら、手を差し出す。


「さ。次の皿をおくれ」


「うん。わかったよミカ」


 素直にクリスは従った。





「これって、大丈夫なのでしょうか……」


 ヘレナは少し不安げにテーブルの正面に座り平然と食事を始めた男に尋ねる。


「大丈夫。後で交代するから」


 ヴァン・クラークは鶏レバー団子と五種の野菜を加えたコンソメスープをもりもりと口に放り込んだ。


「なら、良いのですが…」


 シエルはライアンから預かった証拠品を届けに魔導士庁へ戻り、ウィリアムは執事として本邸で切り盛りをしているなか、なぜかヴァンとライアンはこの別邸で家族の一員のように食卓についている。


「どっちにしろ、テリーがそろそろ戻って来るからね。待ち合わせをここにいた方が情報のやり取りをしやすいだろう」


 胡麻入りのライ麦のパンをゆっくりと一口大にちぎりバターを塗るミカの正面には当然、猛烈な勢いでライアンがスープをすくっていた。

 まるで餓鬼のような貪りぶりなのに所作は美しく音がほとんど立たないあたり、ホランド家の躾がいかに行き届いているかが垣間見える。


「…うま。なんだよこれ、うますぎだろ」


 咀嚼するたびに子猫のようにうまいうまいと呟くライアンに、ミカは「たくさんあるからたんとお食べ」とあっさり答えた。


 成長期真っただ中のクリスも香味野菜で茹でたタラと千切りの根菜の上にチーズふりかけてオーブンで焼いたグラタンを二つに割ったパンに載せ、大きく口を開けている。


 付け合わせために用意したサラダもボウルからどんどん消えていく。

 おそらく、デザートに用意していたキイチゴのトルテも林檎のコンポートも余すことなく平らげるに違いない。

 むしろ足りないと言われる可能性大だ。


 こうしてみると、まだまだ子供なのかもしれない。

 自分を含めて全員、ミカの大きな子どもたちだ。


 スミス家、偉大なり。


 そして、糧となった魔改造生物たちも。


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