依頼が来ちゃった
世界を股にかける大商人であるイサーク・アレクセーエフはアッカネン伯爵の知己で、経営するアレクセーエフ商会は伯爵家のフレーバー・シュガーの卸先であった。
プライベートでも商談でも伯爵邸によく来るのでマリッカも昔から知っている人なのだが直接会話したことはほとんどなく、応接室に呼び出されて折り入ってご相談したいことがあると言われて少し驚いていた。
「お嬢さまも大きくなられましたなあ。
こんなに美しく成長されてご両親も自慢でしょう。羨ましいかぎりだ。」
「また、ご冗談を。
私のような平凡を絵に描いたような娘にそれはちょっといただけませんわ。」
「いや、冗談ではないのですよ。私のような他国の者からすると心から美しいと感じるのです。
まあ、この国には美人さんがちょっと多いかな?とは思いますけど。」
「ええ、確かにそのようにお聞きしますわね…で、ご用件は?」
価値観の違いは会話のつかみすら難しくさせるものだなと遠い目をしていたイサークは我に帰ると、
「実は私の息子なのですが、恋煩いをしておりましてなんとかしてやりたいのです。
想い人が貴族のご令嬢なので私の力ではどうもその…
そんなところに例の龍神湖の件をお嬢さまが企画されたとお聞きしまして。
なんとかご助力頂けないでしょうか?」
おおう…自分の縁談一つどうにも出来ない私にまた恋のキューピッド役をやれとな?
と、胸が痛むマリッカだったが興味はあった。
あのお姉さまたちの幸せそうな光景を自分の勲章のように感じていたのだ。
「詳しい話を聞かせてもらえますか?」
とりあえず話を聞くことにした。
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大商人の一人息子のイーゴリ・アレクセーエフは王都の書店で本物の妖精を見かけたのだそうだ。
容姿は普通の?北の妖精だったが佇まいがホンモノだったとか…なんだそりゃ?だが。
衝撃を受けたまま無意識に跡を追うと貴族家の馬車に乗ったと。
その馬車に描かれた家紋はライホ子爵家のもので、そこに今年17才になるヘレナという娘がいるという…
なんかストーカーっぽい。
で、その娘が学園の2年生で、ちょうどいいことにマリッカが3年生で生徒会長をやってるんでなんとか騙くらかしてでも繋ぎをとってはくれないかと…
やりましょう!
ってか、子爵家令嬢なら伯爵家令嬢としては気軽に声をかけられる。
お茶会かなんかに招いてそこでイーゴリくんと引き合わせればそれで終了じゃね?
ギャラも頂けるっていうしね!楽勝〜ィヤッホーイ!!
なんだかんだいってマリッカは忙しいのだ。
3年生で繰り上がって生徒会長となり、他の2名の役員を指名する。
そいつらに早いとこ仕事を仕込まないと死ぬ。
その後、1名が2年生から成績の良いやつが入ってくるが少しタイムラグがあるからカウントしない。
さらに今年はお姉さま方の結婚ラッシュ。
エリザベトお姉さまのは偉い人たちが頑張るはずだからいいのだが、他2名はなんかアッカネン伯爵家のホテルのウェディングプランの最初のお客さまらしい。
そのウェディングプランの責任者は大変だねー
なんて思ってたらマリッカだった!
慌ててお父様に泣きついて凄腕ウェディングプランナーを紹介してもらうことに。
今話題のリゾートホテルなんで二つ返事で専属契約を取りつけて安心したのもつかの間、大注目の国の中枢を担う偉い人と高位貴族様のご結婚2組を任されて気合いの入りまくったプランナーのたてた自画自賛大絶賛のプランと、ヘルカ&ヒルダお姉さまの夢の結晶たる結婚式のそれはそれはディテールにコダワリまくったイメージが大衝突してしまって間に入って調整せざるを得ない…
誰か私を殺してくれ〜
な状況では新たなイベント企画どころではないのである。