色々と勉強になった
イベント後は3組のカップルがラブラブになったので、2年生になってから月2ペースでお呼ばれしていたお茶会という名の作戦会議もなくなったが、夏休み明けからの生徒会での可愛いがりが各婚約者の分も含めて倍化していた。
「これはエリザベトとデートした時に一緒に見繕ったものだ。」
王太子殿下からは何やら高価そうなアクセサリーを下賜される。
「ほら、ヘルカからオマエに渡せって頼まれた。」
マーティアス様からは王都で話題の最新スウィーツを頂く。
「なんか君が寝坊しがちだとヒルダから聞いてね。」
タルヴォ様からは目覚まし時計が。
って、ヒルダお姉さま、その設定をまだ使うの?
まあ、これはまだ平和なものだったが、すっごいのが後から来た。
忘れた頃に来た。完全にぬかった。高位貴族舐めててごめんなさい。
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「マリッカ様、龍神湖ってどこにありますの?」
「へ?」
クラスメイトからの質問に呆けてしまった。
これ、ヤバいやつや!
犯人の目星はついている。
「ヘルカお姉さま、もしかして龍神湖のお話をどなたかにされました?」
学園ではお姉さま方の各婚約者からの誤解を恐れて接触を避けてもらっていたが、その必要もなくなったので休憩時間に直接尋ねたのだ。
「あら、その話なら夜会やお茶会で皆さまに毎回のようにせがまれるのよ。
とてもロマンティックじゃない。
何度も聞きたがるから何度も話してあげるの。
そのたびに思い出してしまってニヤけないようにするのが大変なのよー」
結局、惚気か。頭お花畑め。
無茶振りが酷い典型的な我儘お嬢さまではあるが、表裏なく情が深い根は優しい人である。
でも、口止めしたところで関係なく自慢しただろうことは想像にかたくない。
いや、困った。これはシッカリ対応しないと収まらないやつだ。
マリッカは頭を抱えた。
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アッカネン伯爵は中央政治に興味はないが領政も得意ではなかった。
狩猟や釣り、遠乗りなど好きな事をやって気ままに生活したい人で、たまに友人知人が訪ねてきたら思い出話に花を咲かせる、そんな楽隠居生活を勝手に始めちゃった人だった。
領政や領地経営は息子が成人して早々に丸投げした。
なのでマリッカの兄がアッカネン伯爵領を治めているのだ。
「お兄様、龍神湖の件、厄介なことになりました。」
「マリッカ、珍しいな、お前の口から厄介なんて言葉が出るとは。」
「ヘルカお姉さまが社交会で話を広めまくってしまったらしく…
女性たちは興味津々で一度は訪れないと気が済まないでしょう。
宿屋一つないところではご案内することも出来ません。」
「ふむ、ではホテルでも建てるか。」
「よいのですか?」
「幸い資金なら潤沢にある。いかんせん観光業など勝手がわからん。
父上に相談して知己を紹介してもらうとしよう。」
アッカネン伯爵は仕事こそ出来ないが、友人知人は多い。非常に多い。
それも著名人やら有名人やら重要人物とのコネクションが相当ある。
マリッカの社交性は実は父親譲りのものだった。
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父伯爵から紹介されたホテル・リゾート開発のプロが相談役となってくれて急ピッチで龍神湖畔のホテル建設が開始された。
実際の運営は領都で細々と宿屋を営んでいたクロエの家族にやってもらうことになり相談役が建設と並行して研修を手配してくれた。
また、恋人たちの聖地というコンセプトのもと、教会を誘致して建設はアッカネン伯爵家丸抱えで行うことに決まった。
小さな白い教会。
規模の割に金をかけていて瀟洒な造りで美麗なステンドグラスと本格的なパイプオルガンがウリである。
小島への立ち入りは聖地ということで禁じることにした。
貴族の死亡事故とかシャレにならんからな。
貴族は禁じられたことはしないからそれで十分なのだ。
平民が勝手に湖でおっ死ぬのは気にしなくていい。
なんなら龍神岩(笑)に落書きしてくれて構わない。
誰も見ないし元から神聖でもなんでもないただの設定である。
さすがはプロ、考え方が緻密だ。マリッカは素直に感心した。
なんとか半年後に準備が整い、プレオープンとして3組のカップルを招待した。
「大切な想い出の場所に素晴らしいホテルと教会が建つなんて素敵ね。マリッカ、招待してくれてありがとう。」
「キャー!なにこの可愛い教会は!?決めたわ、マーティアス、ここで結婚式しよう!」
「私もここがいい。ね、タルヴォさま〜?」
王太子殿下は王都の大聖堂で結婚式をあげる決まりなのでエリザベトお姉さまは我慢したが他の2人は遠慮なく希望してサクッと予約していった。
ホテル支配人などにおさまったクロエの家族は初回からのビッグ過ぎる客にビビりまくっていた。
クロエはそれを見てなぜか自慢げであった。
最初にピークを経験したためかその後のビッグウェーブを難なく乗り切ったらしい。
よかったよかった。
美しい湖のそばにちょうどいい高さの山、手付かずの自然。
客観的に見てもなかなかの景観である。映える。映えである。
ホテルは最初から王太子殿下がお泊まりになることを想定した造りで最上階にロイヤルスウィートが。
きっと、王となられても王妃に強請られて何度も訪れることだろう。
女は幾つになってもロマンティックが大好きなのだから。
国内有数の景勝地となることが確約されたリゾート開発の立ち上げに関われて大満足の相談役であった。
セレブのイベント、舐めちゃアカンと心に誓うマリッカであった。