イベントを初プロデュースします
マリッカは次世代のマジで偉い人たち3人を妹ポジを使って夏休みに入ってすぐにアッカネン伯爵領の邸に招いた。
生徒会も夏休み明けから、最終学年の先輩から2年生である自分への引き継ぎ作業が開始されるので一応は慰労会という名目である。
本当に国土の狭い小国なので田舎領地のアッカネン伯爵領でも王都からは馬車で半日ほどである。
馬車で半日、しかし馬に直接騎乗すれば2時間程度なので緊急時でも王都にすぐに戻れるため王太子一同は気軽に招待に応じたのだ。
可愛い妹を愛でられるのも今のうちということもあった。
「うん、田舎だね。見事になにもない。」
アードルフ王太子は休憩で立ち寄った村で鷹揚に側近に話しかける。
需要の急拡大に伴いアッカネン伯爵家が甜菜栽培を助成金まで出して奨励した結果、街道沿いまで広がる甜菜畑が延々と続く景色に飽きた王太子殿下のボヤきである。
「あのマリッカがわざわざ招いてくれた割にはなんにもないですね。」
ちょっと拍子抜けの宰相子息タルヴォ。
領地経営の成功事例が目の前にあるというのにこの感想かね?
詰めが甘いな、将来の宰相くん。
「ま、領はここだけじゃねーから。マリッカに任せときゃいいと思うぜ。」
雑な口調とは違ってもっともなことを言う海軍大将子息マーティアス。
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アッカネン伯爵邸に着くとマリッカをはじめとした伯爵家全員とともに各人の婚約者が出迎えて驚かされた。
「お招きいただきありがとう、マリッカ。
アッカネン伯爵、夫人、次期伯爵、世話になる。よろしく頼む。」
王太子殿下に卒なく挨拶されてちょっとビビった伯爵様以外は和やかに応対して、邸に迎え入れた。
応接室にて王太子殿下が婚約者のエリザベトに
「君たちも来てたのか。マリッカと交流があるとは聞いていたが。これは嬉しい驚きだ。」
「マリッカは私たちの妹みたいなものですわ。
3年生徒会役員の皆様をご一緒に労いませんか?と誘ってもらったんですの。」
「本当に気の利く妹だな。夏休みに入ってから君といつ会えるのだろうかと考えていたところだ。」
真っ赤になるエリザベトお姉さま。可愛い。
しかし、もうこれ十分じゃね?
愛の告白と何が違うのかよくわからないマリッカだった。
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夕食後はみんなで花火をしたりトランプしたりと楽しく過ごした翌日。
「今日は少し遠出をして龍神湖へピクニックに行きましょう。」
ということで一同は馬車に分乗して伯爵邸から半刻ほどの龍神湖へ。
軽くランチをとってから湖畔へ降りた。
ほとりには小さなボートが一艘浮かんでいた。
「カップルがこれに乗ってあの湖の中央の小島にある龍神を祀る岩に詣でると幸せが約束されるそうですよ。」
既にお膳立てが整っていて水着姿の護衛数人が乗り込んでいる船が湖畔と小島との間にスタンバっていた。
男たちは妹の可愛い企みに苦笑しつつノってやることにした。
「じゃあ、ここは王太子である私から手本を示すべきだろうな。
エリザベト嬢、お手を預けていただけますか?」
「はい。」
王太子殿下はエスコラ人らしく力強くボートを漕いであっという間に小島にたどり着かれた。
紳士らしく先に降りて安全確認をした後に恋人の手をとって優しく降ろしてやる。
小島は本当に小さなもので数平方メートルの雑草がチョロっと生えた真っ平らななにもないところで、しめ縄が巻かれた大きな岩がひとつ転がっていてるだけだった。
その岩の前に2人で立つと祈りを捧げる。
と、おもむろに深い渋めの声がー
「汝、互いの心の内を示せ!」
なんとなく伯爵邸の執事に似た声のようだったが気にしない。
これは龍神様に違いない。
王太子殿下はもちろん婚約者を愛していたが愛を囁くキッカケが今までなかったのだ。
「エリザベト、君を心から愛している。どうか私と結婚して欲しい。」
「アードルフ様、謹んでお受けします。どうか末長くよろしくお願いいたします。」
「うむ、これにて2人は真実の愛で結ばれたのじゃ。永遠の幸せを約束しよう。」
龍神様のありがたいお言葉が身に染みる。
湖畔に戻った時には王太子殿下は満足げに微笑まれて、エリザベトお姉さまは幸せに輝いていて見違えた。
「よしっ!ヘルカ行くぞ!」
「ちょっと!マーティアス、あなた情緒ってもんがねー」
とかなんとか戯れあいながらも小島にたどり着き龍神岩の前に。
「汝、互いの心の内を示せ!」
「あー、ヘルカ…その、好きだ。たまらなく好きだ。結婚しよう!」
「はい、あなた。喜んで。」
「なんで素直になるかな…可愛いすぎんじゃねーか!」
「うむ、これにて2人は真実の愛で結ばれたのじゃ。永遠の幸せを約束しよう。」
「おい、執事の爺さんもノリノリだな!」
「それは言わない約束よ。」
戻った時のヘルカお姉さまは鼻の下が伸びっぱなしのマーティアス様に絡みついて艶かしく笑っていて、見ているほうが恥ずかしくなってしまった。
「では、私たちも行こうか、ヒルダ嬢。」
「ボートに乗るのね。楽しそう!」
ヒルダお姉さまが一生懸命にお話されるのを楽しげに聞きながらタルヴォ様がボートを漕いで小島にたどり着き龍神岩の前に。
「汝、互いの心の内を示せ!」
「ヒルダ、私は毎日君のことを考えている。可愛い君をとても愛しているんだ。結婚してくれるかい?」
「タルヴォ様、ありがとうございます。お慕いしております。不束な私ですがどうかよろしくお願いいたします。」
「なんか雰囲気違うけど!?これはこれでいいッ!」
「うむ、これにて2人は真実の愛で結ばれたのじゃ。永遠の幸せを約束しよう。」
戻った時の上気したお顔のタルヴォ様をただただ優しい眼差しで見つめるヒルダお姉さまは素敵だった。
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龍神湖は景色がいいだけのなんの謂れもない場所だった。
近くの山上から見下ろすと龍がトグロを巻いているように見えることからこの名前が付いていて、龍神が住んでる云々は後付けでその辺の民が酒の席とかで適当に言い出したことらしい。
例の小島は龍の眼にあたるのだとか…どうでもいいやそんなの。
で、岩はちょうどよく転がっていたのでしめ縄を締めてそれらしくしておいて、若い頃に役者をやっていたというセバスチャンに岩陰からセリフを語ってもらう手筈を整え、各護衛の騎士様たちには事情を説明していざという時の対応にスタンバってもらうようにしたのだ。
ボートと護衛船の手配がいちばん面倒なくらいだったが、想像以上に上手くいったらしい。
全員が幸せオーラ全開でラブラブご満悦となってマリッカ初プロデュースのイベントは大成功のうちに幕を閉じた。