マリッカの事情
エスコラ王国は大陸の北の果ての小国である。
しかし歴史は古く、脈々と受け継がれてきた伝統があって他国に侮られることはない。
周辺はすべて友好国であるため、軍備はほとんどが海に向いている。
騎士は騎乗技術よりも操船技術の方が重んじられるという徹底ぶりである。
周辺諸国がすべて友好国なのになぜ精強な海軍を持つのかというと海賊対策である。
定期的に海賊を狩って周辺諸国に恩を売るのがこの国の外交である。
また、エスコラ王国の大きな特色がもう一つ。
美人の産地として名高いのだ。
輝くプラチナブロンドに吸い込まれそうな蒼い瞳、雪のように白い肌、控えめなピンク色の唇。
海外では北の妖精と呼ばれる。
こんな美女がたくさんいる。ほんとにたくさん。
むしろいすぎて当たり前の平凡な容姿なのである。この国では。
なんと贅沢な。
で、マリッカはまさにこのドンピシャでザ・平凡な容姿であるのでまったくモテない。
量産型美少女に需要はなくイケメン婚約者の周辺に置いてもなんの問題もない安全牌というのがお姉さま方の偽らざる思いである。
そして、そんなことはマリッカにはすべてお見通しであって勝手に傷ついていたりする。
ちなみに、そこそこ豊かで歴史と伝統に裏打ちされた高い文化があって満足度が高いこの国の住民は外に出ることを嫌うので美女目当てに来た外国人にはほとんど靡かないため、海外では余計に幻想が高まっているとか。
そして、マリッカには悩みがあった。
ー結婚相手がいないー
伯爵という位は貴族階級のちょうど真ん中である。
下位のいちばん上。
嫁入りするなら同じ伯爵家、もしくは一つ上の侯爵家か一つ下の子爵家。
伯爵家、侯爵家ならば嫡男でなくてもいいが子爵家なら嫡男で子爵夫人に収まるのが順当なところ。
しかし条件に当てはまる適当な相手がいないのだ。
いや、いたけど埋まってしまった。
中央政治に興味のないお父様と、婚約適齢期であった2年前にはそんなに潤ってなかった領地を持つ伯爵家では政略結婚をしたいという物好きもいなかったのだ。
子爵家では嫡男に政略の旨味がない上の位の嫁などお呼びではない。
伯爵家同士でも何かしらの旨味や特別な関係性がなければ積極的に動くことはない。
また、小国ゆえ侯爵家はお姉さま2名の二家だけだが男のご兄弟はすべて売約済みとなっていた。
「もうちょっと早く出会えてたらゴリ押ししてあげたんだけどねえー」
とは遠慮のないヘルカお姉さま談…
要らんねん!それフォローなってへんからな!ハアハア…
(美人だったら万難を廃して獲りに来る猛者もいたことだろう気の毒に…)
というお姉さま方の心の声を察してまたもや勝手に傷つくマリッカ。
「結婚しないなら私の侍女になる?」
以前、頂いたエリザベトお姉さまのお言葉が頭の中をリフレインする。
将来の王妃の侍女の内定はもらっているので食いっぱぐれることはないわけだが…
遠い目をしているマリッカはエリザベトお姉さまの続きの言葉に我に帰る。