2.構成要件及び地域との密接関連性とは何か。どう証明すべきか
構成要件及び地域との密接関連性というのは、主体要件とも重複する部分もあるが、「地域」+「普通名称(慣用名称)」の構成が正しいかどうか、合わせて指定商品および役務の構成と出願人とが地域との密接な関連性を帯びているかという項目である。
具体的には下記の通り。
・地域名が正しいのかどうか。
・地域名そのものが存在するのかどうか。
・普通名称(または慣用名称)が正しいのかどうか。
・上記が実在し、普通名称(または慣用名称)として適切かどうか。
・地域名と出願人との関係性(特に地域名と出願人団体の所在地が離れていると指摘されやすい)
・実際に指定地域にて業が行われているのかどうか。
・指定商品または役務が上記に対して合致するのかどうか。
主体要件との明確な境界線は、本項は出願人と詰めた上で出願願書に箇条書きで列挙された記述が、果たして登録要件を満たすだけの質を有しているかを証明するための概念であるという事。
つまる所、出願する商標の形態によってここにかかる証明のための負荷は大きく変わるという事だ。
また、ここからは出願願書ではなく業界内で"証拠書類"と呼ばれる存在によって証明していく事になる。
いわゆる商標法における「~中略~その商標登録出願に係る商標が第二項に規定する地域の名称を含むものであることを証明するため必要な書類――」のことだ。(7条の2 4項)
なお上記書類は審査官が「周知性」と呼称する書類とも合わさっており、単一の存在だが概念的には複数のものを内包している事になる。
それでは具体的に解説していこう。
【事例:現行政区画+普通名称の場合】
本項において私は「出願の形態によって負荷が変わる項目」と述べた。
ここについてだが、例えば「現行政区画として存在する地名」+「普通名称」の商標で、指定商品が「〇〇市産の△△(普通名称と同一または関連)」として、出願人が農協だった場合、構成要件と地域との密接関連性というのは後は実際に「生産実態や販売実績があるかどうか」ぐらいで十分ということだ。
提出する資料なんて現行政区画を証明するための、例えば「国土地理院地図オンライン」などの複製と、その地域でその産品が証明されていることを都道府県あるいは市区町村の「統計情報」を抜粋して示せばいいだけ。
参考として最近サービスが始まった国土地理院地図のオンライン版のURLを下記に張り付けておくが、恐らくGoogleMapの写しでも問題ないとは思う。
https://maps.gsi.go.jp/#5/36.104611/140.084556/&base=std&ls=std&disp=1&vs=c1g1j0h0k0l0u0t0z0r0s0m0f1
もしくは地名が「広辞苑等の著名な百科事典」に地域について記述されているなら、その写しを提出すればいいし、最悪は未提出でも職権調査によって補完されるのではないかと思われる。(そちらに頼ると後で痛い目を見るので非推奨)
また、「生産」可能であれば出願人側より生産の事実を証明する証拠書類の提出も行わないと、この部分が拒絶理由となることもあるが、多くはこの「生産の事実」というのは後述の「周知性」と絡んでくるので、登録を行おうと資料を作成すればすれば自ずと補完されることだろう。
なお、地域団体商標では「需要者の間で広く認知されていること」という条件が登録において必要となるが、それは一般的に拒絶理由通知書に記述される「構成要件及び地域との密接関連性」では除外されるということを、この場にて記しておく。
この項目では「認知されているかどうか」ではなく、事実が存在するかが重要なだけなのだ。
上記の項目は拒絶理由通知にて「周知性」という区分で表現されており、構成要件及び地域との密接関連性とは明確に区別されている。
その上で前述の事例においては構成された要件は満たすし、地域との密接な関連性も十分有していると言える。
【事例:旧地名の場合】
仮にこれが旧地名や旧国名であったとしてもやることは変わらない。
旧地名なら都道府県や市区町村が地域の変遷というような形でまとめているのでそれらの書類あるいは書籍を証拠物として提出すればいい。
【事例:慣用名称や俗称としての地域名+慣用名称などの場合】
しかしこれが「その地域で慣用される俗称としての地域名」+「慣用名称」であり、さらに指定商品が「〇〇の製法に由来した〇〇」なんて事になった時には話が変わる。
まず「地域で慣用される略称あるいは俗称としての地域名」というものを証明するのが難しい。
例えば登録されていないが、兵庫県の清酒製造で有名な地域である「灘五郷」なんかは地域の俗称として極めて有名な部類であるが、間違いなく「灘五郷」というものが実際に「慣用された俗称」であることを証明する書類が必要だ。
こういう場合、歴史資料を掘り返して提出しなければならなかったりする。
一体いつ頃からそう呼ばれ、地域に定着していったのか。
Wikipediaなどでは当然信用されないのでWikipediaの脚注を見て該当箇所の記述の引用元たる歴史資料なんかを調べながら由来などを証明していく。
特に過去の資料では国、都道府県あるいは市区町村が俗称としての名称を何らかの形で解説していたり、最新の情報でもハザードマップ上で使っていたり、さらに相当に著名であれば国土地理院地図に記入されていたりする。
こういう場合であれば必ずしも呼称の由来について掘り返す必要性は無いとは思うが、複数の資料を提出して有無を言わさず証明するというのがベター。
審査官の人となりによっては、この部分をなぜか詰めてくるケースがある。
過去の資料を閲覧しても明らかにそこまで詰める必要性があるかってぐらい、こちらからすれば「るるぶ」や「まっぷる」なんかの旅行パンフレットなんかにも書かれてるのに「慣用されてはいない」と言い切るかのように拒絶理由として列挙してくるのは頭が痛い話だが、なんて事はない。
バシッと反論できないように全部の資料を出せばいいだけだ。
証拠書類について一言言えるのは、とにかく数と質である。
ただ同じような記述が並ぶ資料を大量に出す必要性は無く、ピンポイントで必要となりうる情報を精査して関係資料を証拠書類としてまとめていく。
基本は「広辞苑」などの辞書から。
辞書に無ければ歴史資料を掘り返す。
慣用された名称・俗称なんかは絶対に都道府県や市区町村が認知しているものだ。
ゆえに明治時代や大正時代において都道府県や市区町村がどこかしら記述として残している。
〇〇町百年史だとか〇〇県名勝調査とか、何かしら形を残している。
そこは先人を信じるべき。
定着しているならば定着するだけの理由があり、先人は絶対に残している。
特に明治・大正・戦前の昭和初期。
この辺りにそういったものは集中しているので、とにかく調べて資料を印刷して提出して証明するしかない。
気を付けてほしいのは、もちろん個人が出したような出版本ではダメ。
これだと審査官は「あくまで古の個人が考えた造語の一種ではないか」なんて判断する。
現代でも頻繁に使われてるならその人が発祥なだけで問題無いだろうと思うが、登録するにあたって後に異議申立などが行われた際などに問題にならないようにしたいのだろう。
よって基本は公的機関が制作し、情報に信頼性が置ける事。
「構成要件及び地域との密接関連性」における証拠書類において求められるのはほぼそういう資料ばかりだ。
地域の俗称及び総称といった場合は時にそうなる。
本項を読んで覚えてもらえるとありがたい。
次に「慣用名称」についてだが、これも場合によっては証明が必要になる。
例として地方の方言として定着した「普通名称に極めて近い慣用名称」の場合や、農産品の品種名とも言える種苗法にて品種登録されていない品種名等は、それが慣用されている事実を証明する必要性がある。
さらに直近で登録された事例では「陀羅尼助丸」なる、どう考えても「慣用されているのだろうか?」と思うような、その名称から一体どういう存在なのか想起できないものについても証拠物の提出が求められるであろう。(筆者は何となく丸薬と推測したのだが、その通りであった)
これら一連の証明難易度についても状況によって異なってくる。
当然方言であるならば全国的な認知度は必要ないと考えられるので、総合的な判断材料は相応のものでいいだろう。(当然にして広く知られていることが好ましいのは言うまでもない)
一方で品種名とも言えるような存在は自身しか使用していないような状況では「果たして慣用していると言えるのか?」といったような疑問符が投げられることであろう。
そういう場合は流通量等から証明できるように証拠を取りそろえねばならないだろうし、例えば農産品であるならば県外のどこの卸売市場に流通させているかなどの事実関係について証拠を添付する必要があると考えられる。
また、それらの卸売市場への納品の際には確実にその「品種名」は最低限記述されてなければならないし、なんなら周知性や商標の使用における同一性の考え方から「出願商標」がそこに記述されていなければならないと言える。
単純に「リンゴ」だとか「ぶどう」といった記述で納品しても「慣用されていない」と判断されるだけであり、注文書納品書に記述されているからこそ「需要者にとって認知された慣用名称」となりうるのだ。
無論、それらを報道した新聞等も周知性と並んで証拠物として採用できることになるだろう。
これらの考え方は「陀羅尼助丸」のような事例でも同様であるとは思われるが、陀羅尼助丸のような場合は漢方薬における丸薬を「〇〇丸」と呼称する事例が相応にあることから、そういった事例から間接的に証明可能であるとは想像できる。
これは農産品においても例外ではないかもしれないが、たとえばさつま芋における「〇〇紅」あるいは「紅〇〇」という呼称する品種は数多く存在するため……
出願商標が「〇〇紅」あるいは「紅〇〇」であった場合などは、そういう事例の列挙をしていくことで「~〇〇紅」という商標で出願した際、〇〇紅という呼称そのものが、その地元だけで使用される呼称であり生産数もさほど多くなく、全国的知名度を有していなくても類似例から「慣用名称」と判断させるように視線を向けることは可能だと考えられる。
ようは出願予定の商品や役務を示す部分が「慣用名称」となる場合は、普通名称と判断できる状況と比較して難易度が上がるわけだ。
もちろん「普通名称」だったとしても指定商品あるいは役務と噛み合わない場合はそれはそれで問題になるのだが、そちらは後述するとして……
本項において最も証明難易度が高いと思われるのが新興ブランド品と言えるということを伝えておきたい。
例えばB級グルメ等では、料理名自体にオリジナリティを施したものとすることが多い。
従来まで普通に使われた普通名称や慣用名称を避け、それこそ地域名を除外した状態ならばそれそのものが商標登録できうるようなものだ。
これらはよほどその名称が世の中に定着しない限り、そのままでは商品名が足枷となって地域団体商標登録することは出来ない。
そればかりかそのままでも識別力(名称が自他を区別できる力)があるならば地名が付属していても通常商標として登録可能。
一例として「登録第5471976号 三春グルメンチ」などがそうである。
〇〇ランチならまだしも、グルメランチという呼称は果たして慣用されているかと言われると地域団体商標としては弱い。
そもそもグルメランチという呼称自体が十分識別力を有していると言える状態である。
例えばこれをもし地域団体商標登録したいというならば、グルメランチという呼称が普通名称化するほどその業界で使用されているか、あるいは慣用されるほど様々な分野で使用されているかしなければならない。
実際に歴史的にもはや新興ブランドではないものの、その領域にまで到達した事例としては「登録第5825571号 一宮モーニング」という存在があり、こちらは地域団体商標である。
この「一宮モーニング」は「モーニングセット」の語源となった存在であり、食事を提供する飲食店では「〇〇モーニング」だとか「モーニング〇〇」という状態での使用がなされてきた他、今では「モーニングセット」という概念そのものが世界で定着してすらいる。
だからこそ本商標は地域団体商標となったわけだ。
しかし前述したように「一宮モーニング」には相当な歴史があることから、一般論として定着するまでに相応の時間はかかるだろう事は予測されるし、そうでなくとも相当な市場浸透力がその商品名あるいは役務名に無ければ成立しえないということである。
これは今後のブランディングにおいて重要だ。
識別力を持たせつつ定着を図るのか、あるいは通常出願商標として登録を目指すのか、もしくは将来的な地域団体商標すらその状態で目指すのか……
そうではなく最初から地域団体商標も視野も入れた「地域名+普通名称」というような状態で活動を開始するのか。
多くの選択肢がある中で将来を見据えて企画する場合、企画者の手腕が問われる事になるであろう。
【指定商品または役務と普通名称あるいは慣用名称との関係性】
さて、それでは最後に説明するのが、指定商品または役務に対する普通名称あるいは慣用名称に対する関係性である。
ここは構成要件の中で最も重要な部分といって過言ではないかもしれない。
具体的にどういうものかというと、ある意味で連想ゲームみたいなもので、「普通名称あるいは慣用名称」となっている商品または役務名と、指定商品または役務の部分が合致するかという事であるのだが……
例えば「〇〇牛」
国土地理院がサービスを展開する、オンライン地図
https://maps.gsi.go.jp/#5/36.104611/140.084556/&base=std&ls=std&disp=1&vs=c1g1j0h0k0l0u0t0z0r0s0m0f1