1.主体要件とは何か
主体要件というのは、まず出願する上で主に代理人が判断して出願人と突き詰めていく項目となる。
書面では「出願書類」に記入する項目そのものを指すと考えてもらっていい。
証拠書類とされる出願時の証明が必要となる部分とは異なる。
ここで必要なのは
・出願人適格
・地名
・普通名称または商品あるいは役務の慣用名称
・指定商品及び役務
以上の4つ。
【出願人適格】
まず「出願人適格」については改めてそう多くを語る必要性もないだろう。
必要なのは商標法で定められた団体(事業組合やNPO法人等)であり、前項で述べたように「出願する場合は可能な限り使用している団体を伴って共同出願」することが重要。
個人は駄目。
会社法人も駄目。
その他社団法人なども原則として駄目。
会社法人なら新たにNPO法人等作らないといけないということ。
一応、例外もあって社団法人なら「限定的」に登録可能。(下記URL参照)
https://www.jpo.go.jp/system/trademark/gaiyo/chidan/shutsugan-shien/ippansyadan.html
でも見てもらえばわかるが、事業計画を提出しなけりゃならないし、その上で都道府県の認可を受けなきゃいけなかったりする。
さらに言うと最終的には移転という形で別の正しい組織に権利を譲り渡さねばならず、利点が殆ど無い。
例えば事業計画を5年とした場合、事業計画開始から4年10ヶ月目で登録したら有効期限は2ヶ月。
その後は地域団体商標で認められた適格を有する組織に権利を移転するような形で発展的解消となる。(商標の譲渡が認められていない地域団体商標だが、移転とみなして別組織に事実上の譲渡を行わねばならない)
自慢できることと言えば登録時において登録証に名前が載るのが社団法人名なぐらいで、もし仮に立てた事業計画期間内で登録でなければ登録要件として認めない事になっているなど、ゲームで縛りプレイでもやってんのかってな具合である。
普通にNPO法人立ち上げてしまうのが一番速いです。
その辺りは、この辺りに詳細記述しているので見てほしい。
https://www.jpo.go.jp/system/trademark/gaiyo/chidan/shutsugan-shien/document/ippansyadan/47_101_11.pdf
まあようは、出願人が出願人適格において無茶な話を持ち込もうとする場合においては、そもそもが登録だって難しいんだからそんなことを考えずに済むような現実的なプランをこちらとしても提示しつつすり合わせていくわけだが……
殆どのケースで代理人は無茶な事はしないと思うので出願を考えている場合においてもNPO法人を作るか、既存の法人で行くかについて考えてほしい。(そうでないとさすがに実績ある所でも最悪断るもとい断られると思われる)
例えば団体が多すぎてどうにもならないよってな場合については、より上の概念の組織を確認する。
一例として商標登録第5062720号の静岡茶においては、静岡県経済農業協同組合連合会が出願人の一角に名を連ねている。
あまり聞きなれない経済農業協同組合連合会。
これはものすごく簡単に説明してしまえば県内の農協をまとめる統括組織の1つ。
静岡県内の複数存在する農協だと数が多くまとまりがつかなかったための措置と思われ、その上の組織を出願人とした例であり、こういう方法もある。
ただし注意点。
「大概念の組織が業の実態を伴わない組織……すなわち広報活動等にしか従事しないケース」などの場合においては出願人適格が認められない。(7条の2の1項を満たさない)
つまり主体要件を満たしていないとみなされる。
それこそまとまりが付かないほど多くの組織が関与する場合は、例えば農協なら本腰を入れて調整する場合は組織の合併も視野に入れるべきだし、業務の一部を大概念の組織が行えるように状況を整える必要性がある。
それが出来ないなら大概念の組織にバックアップしてもらい、実際には書類等を大概念たる組織に作ってもらい、名義だけを「○○農業協同組合」などとして出願(または共同出願)すればいい。
仮に実態として管理を行っている組織が裏にあろうが商標法上では関係ない。
駄目なのはその組織が勝手に商標を使用するケースであり、大概念として「○○協議会」みたいなものを作り上げ、それらが実際の権利処理等の活動をしようが自由だ。
事実上の権利者が出願人であり、出願人の構成員だけが使える状態ならばいい。
だから名前だけ連ねて実際は何もしてませんよなんて状況でもいい。(意思の統一は必要)
例えば滋賀県関係の農産品の多くは地元の市区町村が大規模にバックアップしているという話が新聞記事にて書かれている。
実際には出願費用、代理人探し、出願書類の作成等も殆どが市区町村関係がこさえたものという話だが、そんなのは地域団体商標において「全く珍しい話」ではない。
出願人及び権利者の裏がどうなってようが問題ないわけだ。
問題が生じるのは「権利者が権利者として」適切に商標を運用状態にあるかどうか。
すなわちここで言えば、権利者外の人間が勝手に使用していないことだ。
そこは登録された地域団体商標において弁えて運用されている。
ここは特にに注意してほしい。
【地名】
次に地名についてだが、当然にして「存在しない完全に架空の地名」や「地名をもじったもの(例外あり)」などは不可。
審査便覧などを確認する限り「地名」として用いることが出来るのは以下のもの。
【地名として用いることが出来るもの】
・行政区分として実在する地名(国勢調査などで登録されている地名)
・かつて行政区分として実在した地名(平成の大合併前の地名など)
・旧藩名などの明治以降廃止された旧地名、国名
・遠州といった、認知度が高い通称名としての地名
・広く用いられている正式名称としての地名の略称
・その他、地域等で慣用されている地域の総称や俗称等
特に重要なのはその地域名との密接関連性である。
地域名と出願を予定する商品及び役務が地域名と地域との密接な関連性がなければ登録は拒絶される。
一例として茨城県や栃木県で生産されるものに東京△△と名づけている場合、それが実際に東京となんら関連付けられるものが無いなら出願してもまず登録されない。(出願時においては商品及び役務において「~に由来する」という商品及び役務とすることは可能なので登録されることは無くはないが、こういうケースではまず由来することすら証明できない地域ブランドであることが多い)
ここで特に厄介なのが「旧地名」や「総称や俗称などの通称名」が現在の産地の区域外となっているケース。
筆者が知る限りは1件登録事例があり、詳細を後述するが何らかの事由によって現在では生産や提供される地域が遥か昔において用いられた旧地名の領域の外となっているケースがある。
他にも出願はされていないが温泉地なんかは掘った人間が同一であり、同一名の温泉名が全国各地で見受けられたりするのだが、その温泉名が地域名となるほど定着していない……
あるいは一部が有名な温泉地となっていることに配慮して定着することを避けているケースがあり、こういう場合は出願する際の登録難易度が上がる一方で、上記の2つのケースについては適切にそれを証明できればどうにかなる。
ここで言えることはそれが新興ブランドであればあるほど登録可能性は低くなるということ。
これから新興ブランドを立ち上げる場合は「地域名」について特に留意してほしい。
逆に出願を行う場合はともすると「地域名」の部分において「適正化」が必要になり、出願前の段階でちょっとしたブランド名の修正と統一が必要になったりすることもある。(果物でいくつか事例があり、数年がかりでブランドを軌道修正した)
人からすれば「なんだそりゃ」って話にもなったりするが、それが古くから認知されている地域ブランドでありながら「地名」に問題を抱えるケースでは地域団体商標制度がカバーしきれない脆弱性に引っかかったと思って出願を諦めるか、上記果物関連の出願のいくつかのようにブランド名の若干の修正で地域名を適切化する他ない。
(伝統工芸品などの場合は滅多にこういう事が発生しないため、農産品に引っかかってくる話)
【普通名称または商品あるいは役務の慣用名称】
地名と並んで重要なのが普通名称である。
普通名称とは何かと問われれば「一般的に不特定少数以上が一般用語として用いている名称」と述べればいいだろうが。
「茶」「みかん」「~焼」「~温泉」等、登録されている事例そのものを見てもらえばわかるだろう。
ただし意外にも下記のような事例の登録例もあり、これらは一般的にその商品の慣用名称といった認識がなされ登録が認められているとされる。
審査便覧等を確認すると下記に列挙するものでも問題がないことを覚えておいてほしい。
【商品または役務の慣用名称】
・デラウエア、ネブカ、メークイン、ベリーA、ピオーネなどといった品種名の代名詞(実際に種苗法にて品種登録されている品種名ではなく、市場に流通させる際に名づけた標章に限る)
・セルリー、モーニング、ふく、かしわなどといった国内外などにおける呼称では正しいまたは間違いではないとされる発音に任意で表記ゆれさせたもの、ふくのように地元では古より慣用名称として呼称が定着しているもの、かしわのように地方の方言における普通名詞として一定地域内にて普通名称化しているもの、モーニングのように地元では代名詞として定着して世界におけるモーニングセットの由来となったようなものなど。
こういった場合、多くのケースでは審査官より「それが慣用されている事実たる証拠を示せ」――といったような指摘を受けるが、逆を言えば証明できれば登録することは十分可能。
特にモーニングセットについてはマジで登録されて始めて知ったけど、由来は日本で、愛知で、愛知ではモーニングセットを「モーニング」として冗談抜きで略すのが慣例化しているらしい。
つまり同様の事例を持つようなものであれば登録の可能性は十分ある。
知り合いの愛知県民はみんなそんなこと教えてくれたことなかったのに……もっと誇っていいのでは?
それはそれとして、地域団体商標でもやはりシャインマスカットが種苗法改正が行われる要因となったように、ぶどう関連は本当に品種名に近いような代名詞たる慣用名称でもって登録されていることが多いのにお気づきだろうか。
こと上記列挙したうちメークイン以外は全部「ぶどう」の代名詞である。
つまりこれらは実際には別名で品種登録され、農協や生産者達が別称を与えて市場に流通させていた商品であるということだ。
あるいは国外でのみ種苗法登録された存在であり、国内では商標出願が可能である可能性もある。
私はこの点からもぶどう関係の生産者から強い危機感というものがひしひしと伝わってくる。
そうでもなければわざわざ地域団体商標で登録したりはしないだろう。
「甲州ぶどう」や「山梨ぶどう」みたいな感じでいいのに、デラウエアなんかで登録したらそれ以外の品種を育てるようになっていったら一連の商標は即形骸化するという、とても脆い出願の仕方だ。
それでもやらねばならなかったと、そういう事なんだろう。
さらに補足すると実は出願しようと思う標章において普通名称(あるいは慣用名称)と地域名の間に「品質表示」のようなものが入っていても出願可能であることをもこの場において説明しておきたい。
【地域名と普通名称(または慣用名称)の間に差し込める文章】
・本場、元祖、本流といった、自身を祖としていることを強調する品質表示
・~産といった、地域産出品であることを示す品質表示
・天然、朝採り、養殖、発酵、一夜干し、などといった自身の生産方法に起因する品質表示
・ケンケンなどのように、地元において何らかの由来を持つ単語を普通名称との間に挟める品質表示(これはある意味でその後の単語と合わせて普通名称と言えなくもないが、ケンケン鰹の場合はケンケン漁によって水揚げされたことを示すので品質表示といえる)
つまり「地域名」+「普通名称(または慣用名称)」ばかりに拘って、その間に何か単語が差し込まれているから出願が出来ないというわけではないということだ。
ただし、間に挟まる言葉があまりにも一般的でなかったり由来も何もないようなものでは駄目。
一例として下記のようなケースではアウト。
例:×
「八王子まいあひジャガイモ」←まいあひにおける由来も不明であれば品質表示ですらない。
さらに注意してほしいのが流通名に統一性が無いのに無理やり出願するのもよろしくない。
例えばお酒の場合、シールなどで「本格」とか「辛口」だとか貼り付けている例があるが、市場に流通させている際における標章に統一感がなければ「商標使用の同一性が無い」とみなされ、拒絶理由となりうる。
他方で、例えば「日本清酒」という地域団体商標を出願したい場合に、標章とは別にどこかにそういうシールが張ってあっても使用している標章の部分が「日本清酒」だけであるならば、「日本清酒」の標章を使用しているとみなされるため、こちらで登録して後から「本格」や「本場」といった文言を別口で追記する方法で市場に流通させてしまう方がいい。
無理して「本格日本清酒」とか「辛口日本清酒」なんて形で出願する事はないということ。(本当にその名で長年親しまれてきた場合を除く)
地域ブランドの現在の流通形態そのものを見直して地域団体商標側に寄せる方が懸命ということだ。
統一感が無いならば尚更だ。
ようは品質表示は切り分けるよう、団体内における運用を見直しつつ出願するということである。(前述した地域名の軌道修正に近いといえる)
つまりは出願を検討する上で品質表示を付与させた状態のものを出願とすることが必ずしも利点とはならないということ。
出願を検討中の方は是非、自身の使用するブランドが上記状況に当てはまるのかどうか、今一度確認してほしい。
相談を受ける場合は「出願人適格」をクリアしていても、「地域」か「普通名称(または慣用名称)」のどちらかが引っかかって出願出来ないような状態であることが多い。
【覚えてほしいのは下記2点】
1.「地名」についてはそれぞれ平仮名、片仮名、漢字表記でいいので地名は上記の例から逸脱しないようなものであること。
2.「普通名称(または慣用名称)」については、同様に平仮名だろうが片仮名だろうが構わないが、上記列挙した例などから逸脱しない範囲のものであること。
どちらも一見して逸脱しそうでもそうじゃないんですと言えるだけの客観的に確認できる証拠が出せれば登録可能。
例えば地名なんかは国連決議によって「統一された名称によって標準化された地域名」は世界各国で共有される事になっており、国土地理院が世界へ向けて「地名集日本」という存在を発表している。
こちらには実際には一度も行政区画化されていない地名の総称や俗称も含まれるが、隣接などする各地域が統一的に呼称について共通の見解も持っている場合のみ登録可能で、下記のリストに登録された存在は「日本国が地名として認める」状態であるといっていい。
https://www.gsi.go.jp/kihonjohochousa/gazetteer.html
あるいは日本に存在する地名をまとめた「角川日本地名大辞典」なんかも役立つだろう。
審査官が知らないわけがないはずなのだが、万が一に備えてこういう資料は提出することも心掛けておきたい。
他方、全く由来がないようなものであるならば残念ながら出願を諦めるか、新しくブランドを再構築し直すかが必要となる。
その上で特に重要となってくるのが最後の「指定商品及び役務」だ。
地名、普通名称(または慣用句)が正しくとも指定商品及び役務を適切に設定しなければ登録できないし、登録した後が大変。
それらについて改めて事例も列挙しながら説明する。
【指定商品及び役務】
「指定商品及び役務」の部分についての内容を突き詰めるのは大変重要だ。
ここをトチると最悪は仮に登録されても、もう1件登録しなければならなくなる。
主として権利化されるのは商標法で定める区分と、その詳細内容たる指定商品及び役務の記述となるのだが……
変に限定的な記述とすると大変なことになる。
実例として商標登録第5033691号の川辺仏壇と商標登録第5371494号の川辺仏壇がいい例だ。
前者の指定商品は「伝統的工芸品に指定された技術又は技法により製作された鹿児島県川辺郡川辺町産の仏壇」
後者の指定商品は「鹿児島県南九州市川辺町産の仏壇(「伝統的工芸品に指定された技術又は技法により製作された鹿児島県川辺郡川辺町産の仏壇」を除く。)」
これはつまりどういうことかって、「川野辺仏壇」というのは経済産業省が指定した伝統工芸品及びその団体以外からも販売されてたけど、それが足枷となって新たに出願したというわけ。
推測でしかないが、後者を販売する団体の構成員に不利益が生じたわけだ。
もし例えばこれが「鹿児島県南九州市川辺町産の仏壇」だったら登録は1件で済んでる。
つまりこれ、権利者は二重に更新費用等負担してるわけですよ。
もちろんこれは本当に代理人が悪い例かどうかは一概に言えない。
でも事実として二重の負担を強いられてる権利者がいるのは間違いないわけだ。
だから事前にありとあらゆる要素を勘案した際、こういう事が生じないようにしなければならない。
特に筆者が思うのは「なんでここ最近の出願は意味不明に指定商品役務関係が複雑怪奇なんだ?」という疑問だ。
例えば佐世保バーガーの「長崎県佐世保市の市内に本店・営業所・販売店・飲食店又はハンバーガー製造工場を有する法人又は個人であって且つ佐世保市内で1年以上継続してハンバーガーの製造販売又はハンバーガーの提供の営業経験を有する者が代表者である法人又は個人が製造販売するバンズとパティと野菜とソースが入った手作りのハンバーガー」←これ。
この1年以上継続とか、法人または個人みたいな項目必要ある?
全く無いよね。
絶対後で揉めかねないよね。
単純にこれだけでいいはずなんだが……「長崎県佐世保市の製法に由来したハンバーガー」
これでいいじゃない。
これなら製法に由来していればどの都道府県でも販売できる。
広範囲で販売をしていたり、販売をしたいならばこのような形に整えるのが理想。(産地ではなく製法で拘束してるだけだから)
パティがどうのこうのってのは出願書類で審査官に証明すべきことであって指定商品内に埋め込むものではない。
以上のように、主体要件における「指定商品及び役務」について困るのは、その後の業態を全く予想せずにガチガチに固めるケースだ。
もちろん幅広く囲い込もうとするとその証明は困難なものとなるが、ようは証明の方法さえ把握していればいい。
商品及び役務については基本的にこのように記載できる。
【指定商品及び役務についての一般的な標記のおおまかな事例】
「○○で生産(製造)された△△」→産地は限定され、商標の保護範囲は狭いが第三者に悪用され辛い表記の例。(多くの権利がこちらで登録されている)
「○○に由来した△△」→産地ではなく主として製造方法に何らかの由来を持ち、製造方法さえ同一であればどこで製造しても良いという非常に広範囲に保護範囲を広げる例で、代理人ならば可能ならこちらで取得を目指すべき例。
「○○で生産され、□□に由来する△△」→原材料の産出地域などを限定する一方で、その後の二次加工については限定しない上記例の変形例。(記述によっては非常に狭くなるケースもあるがので注意)
「○○にて提供される△△」→温泉地など役務でもっぱら用いられる記述例
こんな感じだ。
多くはこの例に漏れない。
特に筆者は「独自の製法が確立されている場合」においては、2番目の記述をなるべく目指すことを推奨する。(主として加工品や工芸品などが中心となると思われる)
特に店舗で提供される飲食の場合、「○○市内の□□店で生産された△△」なんてやっちゃったら、全国各地で行われるイベントでの使用については「適切に商標を使用している」とは言えない状況となってしまう可能性がある。
B級グルメなんかで出願したいと思っている方は特に注意してほしい。
例えばそれがやきそばであった場合、「○○市にて製造されたそばの麺を用いて□□に由来する製法にて調理されたやきそば」ならば、限定されるのはそばの麺だけだが……これだって地域外で麺を作ることになったらヘタすると無効事由になる可能性がある。
製麺工場がその地域に永久にあり続けることが保証できるならいいけど、そうじゃないなら「○○市の製法に由来したやきそば」とすべきだ。
だが最近出願する多くの代理人は「構成要件」における資料の作成方法を知らないので、その「指定商品及び役務」を限定的なものとする。
これなら確かに構成要件の部分の「証拠書類」については簡易的でも済むのかもしれないが、それやって出願人が困ったらどうするの?
本稿を見てくださっている「出願人の方々」も是非出願する際には注意してほしい。
代理人が妙に限定的な指定商品及び役務で出願しようとするならば一端止めて「おかしい」
――と言ってほしいのだ。
「農産物」「畜産物」「海産物」といったように、産出地域が限定される場合は模倣品排除も鑑みて権利を狭くするのは構わないし、そうでないと地域の密接関連性が証明できずに頓挫してしまう場合は素直に「○○産の△△」とかにした方が良いが……
しかしそうではないなら権利は広く。
これは特許では当たり前の話なのだが、意匠商標しか得意でない代理人は言われるがままだったり、「証拠書類」による証明方法を知らないので限定的にしようとしてしまうきらいがある。
”特に最近の出願がひどい!”
出願された案件をJ-platで確認する度にゲンナリすることがある。
例えば農産品だって「○○農業協同組合で選別され」とか平気で書いてるのいるんだけどさ、指定商品及び役務内における地域名についてはみなし規定みたいなもんがあると見ていいが、「○○農業協同組合」が合併して「消滅」してしまったら、その登録された地域団体商標は明らかに宙に浮いているだろ。
無効審判起こされたらどうすんの?
事例もなけりゃ明文化もされてないよ。
冗談抜きで無効化されるリスク負ってるよ。
言いたくないが代理人なら地域団体商標ならばよほどの事が無い限り無効化なんてされないだろなんてタカ括るなよ。
国外の魔の手が忍び寄る可能性だってあるんだから、宙に浮くような権利とするのはやめてもらいたい。
権利者にとって何が大事なのか考えろ。
出願人がそうしてくれと述べても、それを諌めて適切な指定商品及び役務とするのが代理人の立場のはず。
それを知らずに代理人も出願せず、一端願書を書く手を止めて冷静になってほしい。
一応言うと筆者は全てを否定しているわけではない。
例えば長くならざるを得ない例はある。
商標登録第6225396号の那智黒石がそう。
これね、筆者は出願を知ったときに「絶対登録できない」と思ったわけですよ。
実際には登録されたんで驚いたわけだけど。
で、登録された指定商品はこうなっている。
「過去に三重県熊野市より和歌山県那智地方に流れ着き、熊野詣の証として拾われたこと及び和歌山県那智地方における熊野詣の土産として販売されたことに由来する三重県熊野市神川町で採石される黒色珪質頁岩の原石及びその原石を加工して生産された石材」
なんでこんな歴史物語の一端を記述しているかっていうのは、出願人は「旧:那智」に該当する地域ではなく、「旧:熊野」に該当する地域内の団体であり、実際に原材料が産出するのも「旧:那智」ではないからだ。
前述の【地域名】の項で説明した「旧地名」や「通称名」が現在の産地の区域外となっているケースこそこれだ。
古よりその名前が定着してしまい、かといって今更変更も出来ないぐらい著名な案件。
「那智黒石」以上にこんな複雑な事情を抱えるものもそうないとは思うが……
これが商標の密接関連性……すなわち次回以降に記述する構成要件に引っかかった。
現在製造される那智黒石の原材料の産出がそもそもが那智という地域内の外になってる。
どうやって結び付けるんだって思ったら、指定商品を寄せてきた。(旧熊野地域産~では那智との因果関係がまるで不明確のため、このようにしてきたということ)
那智黒石の場合は、本当にこうするしかなかった事例だと思われる。
恐らくそれだけじゃない。
閲覧申請の上で確認した拒絶理由通知書を確認する限り「黒石」も引っかかってる。
黒石は常識的に考えて「普通名称」とするのはかなり難しい単語。
粘板岩の一種の中でも出土する黒いものを加工してるわけなんだけど、~黒石って他には殆ど例がない。
つまりこの案件は「地域名」+「普通名称」の2つが極めて証明に困難を伴う案件であり、かつ「指定商品及び役務」においてこれらを記述しなければ地域との密接関連性を証明できなかったケースであろう。
それでも何とかしたのだろう。
那智黒石の場合、金田一の事件簿など著名な漫画でも語られるように全体がもはや普通名称として定着している。
そればかりか黒飴の由来にもなってる。
元々黒飴の名前は「那智黒」であり、混同しないよう昭和以降に「黒あめ那智黒」とした。
それが関西地方を中心に流通する「黒飴」として定着したという経緯がある。
この特産品の「黒石」を基に関西地方ではポピュラーな「黒飴」という一般名称が誕生したわけだから、恐らくその辺りから攻めて行ったんだと思う。
実際はわからんけど、黒石についても拒絶理由の要件に入っているのでそういうことでもしなければ登録にもっていけない。
この案件は出願から登録まで約3年かかっているが、むしろよく3年でそこまで持っていけたなと思う。
後述するが一般名称について適切に処理するのも案外楽じゃない。
その中でもこいつは地名と合わせて特段の例外中の例外。
ちなみに代理人は公報を確認する限り7名もいるが、出願人の力のいれようも半端じゃない案件だ。(実際に7名がそれぞれどれほど関わったのかは別として、大手事務所でも7名も列挙されることはそう多くない)
登録まで行った代理人の達成感は半端じゃなかったと思う。
以上のように「出願人適格」「地域名」「普通名称」「指定商品及び役務」について入念に検討の上、時として「地域ブランド側」を「地域団体商標」に「寄せて軌道修正」したりなどしながらも、各所からバックアップ等受けながら「組織形態」すら調整して出願するのが地域団体商標であり、願書の核を成す主体要件そのものも、その後の権利の運用戦略も考慮した上で煮詰めていかねばならないわけだ。
長くなったため、具体的な願書の記述方法は次回に記述する。
上記を踏まえたうえで「どう書けばいいのか」について、詳細を記述しよう。