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ブランド農産品の商標登録をしたって守れるのは名称だけです。いい加減そんな幻想で国産ブランドが守れるという嘘を流布しないでください。

 令和に入りコロナの影響が大きくなり始めたGW明け。


 インターネット上で物議をかもした種苗法改正については、ある程度の皆さんもご周知の通りだろう。


 筆者は短絡的な行動だと考えた上で、あえてその改正そのものについて火に油を注ぐがごとく意見を述べることはしないが……


 にわかに自身にも影響が出始めた事については一言コメントさせていただきたい。


 法的措置がどうたらこうたら言う火付け人のお前は、知財関係者が現在受けている影響について営業並びに業務妨害だと述べれば相応の行動をするのか?


 自身の思想や意見を述べるなら正しく、簡潔に、誇張無く、両者の正常な意見交換が行われる場を用意していただきたいな。


 おまけに自身の発言力に省みず発言した行動は全て責任を取る腹積もりでやるべきだし、やったならその影響によって受けた現実は甘んじる事無く全てを受け入れろと思う。


 これ以上同様の相談を受けてそれらを是正する度に、こちら側の評価を下げるのは正直言って我慢ならない。


 あれから約3ヶ月。

 一体知財関係でどのようなことがおきているのかまずはザックリ説明しよう。


 件の問題の発端は国外で流通する苗によって国産ブランドが安易に国外で量産され、国外品質が日本国内の輸出産業に大きな影響を受けているという所から始まっている。


 正直言えばこういう話はなんだかんだ「国や地方自治体の対応が遅すぎるんだ」って所に帰結するわけだし、その対応方法がいつもきちんと論議されたわけじゃない「付け焼刃的対応」だから、筆者はこの手の問題に首をつっこみたくないんだ。


 見ようによっては「お前は誰の味方だ」だとか「どの立場でいるんだ」とか、黒白つけようとする人間から反感を買うからだ。


 私は人を評価するのではなく「組織」あるいは「団体」といった存在が行った行動を、その組織単位で評価するため、個人の功績を評価するということは殆どしない。


 そもそもが内閣総理大臣の功績とかいうのもバカげていると思う人間だ。

 本人一人が独裁者のごとく政治をやってると思ってるなら完全な間違いだ。


 ゆえに見ようによってはどちらの立場なのか不明瞭または、記載した内容がどちらかに大きく背を預けた内容となり、双方の面倒くさい輩からあること無いこと水掛け論のようなものをされたくないがゆえに種苗法についてもコメントはしていない。


 それに、知財関係では主として著作権法関係で何度も痛い目を見ている。


 どんだけ危機感を煽ったって、まるで斜め上の発想で捉え、目先の状況しか理解しない者たちによる法改正に対抗するのは、後ろ盾もない中でやっていても私生活まで影響が及ぶだけだ。


 だが、特段関与していないのに第三者によって連日のように時には相手が不快になるような相談対応をしなければならないほど影響を受けているというのが現状。


 そうなった経緯を説明しよう。


 火付け人の本人はその件について直接は言及していない。

 よくあるいい放っしジャーマンという奴で、代替案もなけりゃ何が最善策なのかも語らないから炎上するのも当たり前なわけだが……


 その人間をサポートしようとして立ち上がった人間は、適当な煽りで改正反対を正当化しようとした。


 それは「商標登録すれば農産品は守りぬける!」――とかいう、これがアニメならば「やべえ! ミサトさん! はやくDSSチョーカーを!」「アスカはやくそのガキを始末しろ!」――っていいたくなるようなお花畑の意見を出して、それを大々的に宣伝したわけである。


 まず1つ。

 商標法って何を守ってるのかって話。


 確かに、世には農産品を商標登録している事例はあるし、実際にそれを活用してブランドを守っている例はある。


 だが、それは種苗法と大きく関係するわけじゃないんだよね。

 種苗法が守りたいのはその「品種」そのものであって、商標とは違う。


 商標はブランド。

 自身の企業または企業製品達に図柄または名前を付け、その名を不動のものとする。

 世界でそれを登録すれば、その名を自らのみ独占的に使用することが出来る。


 仮に「シャインマスカット」でその国で登録したって名前が守れるだけ。


 問題となっている二国が「じゃあグレープサンシャインで売るわ!」だとか「シャインサンライズで売るわ!」――といって、それで問題なく売れたら何1つ意味を成さない。


 恐らく多くの消費者は「高いから味もそう変わらんしシャインサンライズ買うわ」――と、現実でもすでに発生している状態でもう片方のものを購入することだろう。(今の情報化時代ならそれがシャインマスカットと同一なぐらい消費者は知ってるのが常)


 元々商標法というのは、中世時代のギルドにおけるギルドマーク。


 すなわちこの小説サイトであれば冒険者が所属しているギルドのマークあるいは名前そのものを国が保護し、そのギルドの品格と業務に対する質を保証するものから始まっているわけであり、商品そのものの品質を保護しているわけじゃあない。(いわばいかに仕事が出来るかの業務保証が始まり)


 つまりは「ノウハウを持つ集団」というものが出てきて、それらの製品が優れていた場合、便乗あるいは敵対的にブランドイメージというものを汚す行為を防ぐもの。


 商品そのものを守っているといっても、その商品を第三者が簡単に模倣できてしまうならば、それは別の方法で守る以外ないわけだ。


 それが高度な発明であれば特許だし、それが特異な意匠を持つならば意匠といった具合。

 あるいは企業秘密として絶対に公にされないよう徹底管理の下で製品だけ卸すという方法。(コカコーラが有名だが、他にもキャンプの流行で最近良く聞くようになったゴアテックスなど)


 元々歴史を紐解くと、日本においては暖簾分けや屋号といったシステムが存在した。


 政府の代わりとなる幕府という機関などを中心にこれらは厳格に管理され、商標に極めて近い管理下のもと、品質を保証してきたわけである。


 だが、それらだけでは守れなくなったのが明治初頭。

 輸出産業が盛んとなり、外貨獲得手段として工芸品を中心に各所が精を出すと、当然にして便乗して粗悪品を売りつける輩が続出。


 それこそ商標法が誕生する前の段階においては、品質保持を目的にまずは屋号から発展した自主的共同体である組合をさらに発展的に誕生させた"組合"というものを法で制定の下で概念化、組合下のみそのブランド名を使えることとしながら徹底管理を行おうとしたりしたのだが……


 実際にはよほど強力な組合でもなければ著名なブランドはまるで守れず、すぐさま次の手として検討されたのが他ならぬ商標法である。


 当時は有田焼などを中心に江戸切子など、現在でも諸外国から評価される伝統工芸品を中心に大きな問題となっていたのだが、一連の商品を守るために初代特許局長官である高橋是清が国外制度を(当時のドイツ法を中心に)学んだ上で施行させたのが旧商標条例及び旧商標法であったわけだ。


 といっても、前述の名称は原則として直接保護できなかったのは当時から。

 そういった場合はあくまで抽象化させたロゴなどを保護できるに過ぎなかった。


 これでは守りきれないとして誕生したのが意匠法であり、工芸品の意匠を登録することでその使用を限定的とし、贋作とそうでないものを区別しようとした。


 意匠法はその権利期間が永久規定ではないものの、当時の工芸品においては特定の工芸品においてその意匠を生み出せるのは突出した組合所属の正規の職人達のみであり、登録意匠を広く認知してもらうことはそれが贋作か真作かを見定める上で十二分な働きを示した。(いわば目利き人という存在なく真性であることを判別できるようにした)


 ついでに言うと発明と同様、一度登録された意匠に類似する意匠は登録できず事実上出願が出来ないために、模倣品が出願される可能性も出願することで防ぐことが出来る。(そういう効力の観点で見れば特許なども含め、その効力は永久的と言える)


 実はこれを活用することでタイヤ類などはその形状を保護することで第三者が模倣品を製造することも、ちょっとだけ改良したものを製品化して独占権を得ようとすることを防ぐことが出来たりする。


 これはタイヤというのはドレッドパターンそのものが性能に大きな影響を及ぼすが、特許情報だけでは巧みに潜り抜けて特許侵害とならない商品というものを作り出せることがあるのだが、形状……すなわち意匠も登録することで二重に権利を保護し、模倣品の製造をより拘束力高めた状態で防ぐことが出来るわけだ。


 こういった現代でも用いられる複数の独占権を活用した商品の保護というのはすでに切子や焼き物類などで明治時代より始まっていたということである。


 そして組織そのものを表す標章もとい商標については新たにパリ条約に習って団体標章制度を立ち上げることで(大正10年)その商標が正規の団体のみが許可した者達の商品にのみ付与するより信頼性の高いブランドとして規定するようにしたわけである。


 その背後では特に商標条例制定前後においては「暖簾分けと何がちがうんだ!」――といったような批判も強くあり……(暖簾分けはいわば営業秘密ノウハウの共有のようなもので、国が保護しているわけじゃなく、住み分けできる)


 それらの批判や反対に対して「商標でなければ守れん!」――と、組合などへ直接出向いて説得した20代後半から30代真っ盛りの高橋是清の姿もあったりしたが、本当に必要だからといかなる反対も正当な論理でもって説明して押し返し、結果的に押し切ったわけである。


 そんなこんなで歴史が続く商標法が守るのは、あくまで「商品」そのものあるいは「役務」そのものまたは、それらを提供する組織または個人または両者が提供する「ブランドとしての名称、その他」そのものでしかなく、品種そのものを守っているわけじゃあない。


 ゆえに改正せずとも「商標法で地域ブランドが守れる」というのは、「槍でやり直せる」とかいってるどっかのガキと同じこと。


 "全ての農産品がそうではないことは後述するが"、多くの場合において守れるわけではない、

 そもそもが守れないと判断されたからこその改正案だったわけだ。


 ついでに言っておくが、種苗法で品種登録された品種名というのは「商標法第4条第1項第14号」という存在によって登録できないことになっているんだ。


 たとえば「シャインマスカット」名義で品種登録したら一生そいつは商標登録できない。


 こいつが制定された理由は広く事業者や事業者団体らを中心に何人たりとも、一切の縛りなくその名称だけならば利用を許諾する種苗法の性質と、たとえそれが団体商標としてそれらを育成する者達などを全て囲い込む事業者が制定したものとしても、性質としては独占的使用権を付与する商標法のバッティングによるもの。


 法的には「不特定多数が広く利用し、事実上の普通名称化しているもの」――として判断されるからである。(26条)


 商標法ってのは登録した人間と使用を認めた人間しか使えないのが原則。

 表向きに「自由利用」を認めてい場合があるのはあくまで「黙認」状態にあり、実際には本当に使えるのは認められた一部だけ。


 種苗法はそれだと扱いづらい上に「種苗」を守る法律なため、名称の自由利用を認めているので商標法の法哲学とは乖離するものであるので、登録できないというわけだ。


 ちなみに品種登録名が「紅ほっぺ」である紅ほっぺは商標登録できないということになる。


 多くの品種は「○○の△△号」とかいって一般に流通する商品名とは全く異なっていたりすることも多く、それらを「コシヒカリ」だとか「あきたこまち」とかいって流通させるわけだけど(実際には日々品種改良されてゆくため)、紅ほっぺのように単一で成立しているものはそのまま品種名としてしまっている場合がある。


 ゆえに、そんなものを相談で持ち込まれてもこちらは何も出来ないというわけだ。

 品種名で広く流通させ、それが認知された状態の農産品というのは、商標法からすればすでに何も守ることが出来ない普通名称化した終わったブランドということになる。


 だから当然事業者も特にここ10年ぐらいではそういうのは避ける姿勢となっているわけだ。


 だが問題はここからだ。


 殆どの場合、相談を持ち込んだ人間はさすがにそれぐらいは承知している。

 多少は調べた上で聞いてくる。


 ゆえに一般的な商標法でもって守れると思って相談に来るわけではない。


 他方で一連の反論に対して反対派の一部は自身の意見を正当化するため、主として2つの方向を提示した。


 それが「地域団体商標」と「農水G.I登録」であり、前者はまだしも後者は商標登録じゃないんだが、なぜか同列に扱われている。


 両者を混同したかのような解説も多々見受けられる。


 彼らは「地域団体商標は地名+一般名称だから大丈夫!」――などという、どこの誰がそれを指南したのか知らぬ状況で、藁をも縋るような状態でやってくるわけだ。


 こと地域団体商標は説明が面倒な上、出願も面倒でノウハウが必要。

 そもそもが簡単だったら2006年から制度が始まってるのに未だ1000件未満に留まるわけがない。


 この説明を一体何回やらなきゃならないのかと。


 1日全部消費しきっちゃうんだよこっちは。

 出願も無いのに、説明だけで終わるんだ。


 一体3ヶ月で何回相談を受けたかわからない。

 おまけに地域団体商標については適当ぶっこいてる同業者も多い上に、完璧なノウハウを持つ同業者も殆どいない。


 ゆえに説明が出来て出願も出来て――みたいな所には相談が集中する。


 加えて知り合いから耳を傾ければ「最近の出願の質がひどすぎて参るんだが」――という同じく同業だがお上の悲鳴も聞こえてきた。


 だから今回、知る限りの出願ノウハウを全面公開した上で、特定状況下でなければ役に立たないことを説明することとした。


 これをやろうと言った時、知り合いは「まあいいんじゃね? どうせ月に出願する総件数とか数件だから金にならんし」――という人間と……


 「金貰ってやれよそういうのは」――という二者に分かれたわけだが、稚拙な出願による出願者の負担を考えたら、正しい出願と出願後の効果について改めて説明する必要性が生じているという結論に至った。


 ゆえにこれまで研究した全てを公開した上で、何をすべきか、どうすれば登録に至るか、そもそも出願すべきなのかをこれから解説する。


 同業者の人らの一部が地域団体商標出願において姑息な真似をしていることも余すことなく批判するつもりなので、期待していただきたい。


 本稿は連載作品とする。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 種苗法の関係は我々農業関係者としても、正直「なんでこうなった」と頭を抱えている状態です。何年もかけての準備が白紙に戻るこの徒労感。いろいろと参考とさせてもらいます
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