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プロローグ


「――お主の勇気ある行動は、世界を救ったのだ……。ありがとう」


 俺は赤い絨毯の上に膝をつき、頭を俯き気味に、そんな言葉を有り難く聞いた。


 言葉を発している者は、玉座に鎮座する皇帝。現在俺に、感謝の意を述べている皇帝だ。


 つい先日……俺は『魔王』を倒して世界を救った。『魔王』といっても、魔物でも悪魔でもない……人間だ。ただし、古の魔術を使用して『不老』の力を得た、人間離れな人間。しかも、多くの魔術を使いこなす、大魔法使い。

 三日三晩……無食無眠、一対一で戦闘を繰り広げ、俺は勝利を収めたのだ。


「ヘクルス殿。お主は、世界の英雄だ」


 再び、玉座の上から声が降ってきた。


 『ヘクルス』とは、俺の名前。

 魔王を一人で討伐した、俺の名だ。


 と、


「うわぁああああっ!!??」


 背後で、兵士達の叫び声が響いた。


 俺は急いで顔を上げて、後方を振り返る。

 同時に、何者かを抑えつけようと一点に群がる兵士達が、次々に薙ぎ倒されているのが瞳に映った。


「な、何が起きているんだ?」


 何が起きているのか理解ができなかった。

 此処は皇帝城……しかも、王の間。不届き者なんかが、勝手に立ち入れる場所ではない。皇帝に忠義を誓っている筈の兵士が、裏切ったのだろうか?


 一体誰が……?


 そんなことを思っていると、兵士達が群がる中心部から、


「おい! 私の父を殺した者は誰だっ!? 出てこいっ!!」


 鈴音のように透き通った声が叫んだ。

 叫び声は続ける。


「敵討ちだ! 早く姿を現せっ!! 世間は父を『魔王』などと呼んだが……私にとっては、唯一の家族だったんだっ!!」


 女の声だった。

 兵士は男性のみが就職できる職業……。という事で、兵士の裏切りではない事は確定。

 というか……普通兵士は、魔王を父などと呼びはしないよな。


 まぁ、どんな奴であろうと……。さっきの発言を聞いた限り、俺の敵だという事は確かだ。


「おい、兵士達よっ! 一旦下がれっ!!」


 俺の声が広い王室に反響するなり、活発な兵士達の動きは沈静する。

 次第に、群がりの中心に居た者の姿が露わになる。


 淡く柔らかな印象を放つ透き通った白銀の長い髪と、大きな黄玉色の瞳が特徴的な、年の頃十八、九くらいの美少女がこちらを睨むようにたたずんでいるのが視界に映った。


「お前は、誰だ?」


 俺は目前に見える少女に問い掛けてみる。


「私の名前は、ベアリル……。此処に亡き父を殺したものが居ると聞いたので、敵討ちに来たのだ」


 ベアリルという少女は、素直に俺の質問に答えてくれた。


 どうやら、俺の元へ敵討ちに来たようだ。


 と、ベアリルが俺に問い掛ける。


「お前が、私の父を殺したのだろう……?」


「あぁ……。俺は、魔王を殺した」


 俺が静かに頷きながら答えると、ベアリルは目を見開き、


「ならば、こうするまでだっ!」


  殺意を漂わせながら、一直線に此方へ駆け向かってきた。


 魔王の娘……護り固い王の間まで、無理矢理に攻め入って来た者だ。油断をしたら、俺は負けてしまうかもしれない。油断大敵だ。


 俺は腰に下げた剣を抜き取り、戦闘態勢に入る。


 と、ベアリルが途端にニコリと不敵な笑みを浮かべ、


「もう此処まで近付けば、発動しても良いだろう……。私の全魔力を使い、お前に復讐をする!!」


「え?」


 気付くと、俺とベアリルを囲むように大きな丸い魔法陣が、床に一つ現れていた。

 ベアリルと一定の距離で離れている王や兵士達は、巻き込まれていないようだ。


「な、コレはっ!?」


 俺は焦りを抱きながらベアリルへ問う。


 すると、ベアリルは俺を見下すように呟く。


「禁術……『別界転移』」


「禁術……だと?」


 禁術は、文字通り禁止された魔術だ。


 俺が言葉を失って立ち尽くしていると、魔法陣から多量の光が突如となく発せられた。


「くっ…………眩しい」


 思わず俺は両目を固く閉じてしまう。

 瞬間、体重が無くなったかのように軽くなった。


「うわっ!?」


 混乱しながら悲鳴を上げて、閉じてしまっていた瞳を開けてみる。


 刹那……、見えたのは、青く染まった景色と大きな翼を羽ばたかせているドラゴン。

 現在いる場所が、地上から遠く離れた上空だと直ぐに理解できる。


「うわぁああああーーっ!!!!」


 頭上から、唐突に鈴音のような叫び声が鼓膜に響き渡ってきた。

 声がした方へと顔を向けた俺の瞳に、泣き叫びながら両腕をパタパタ広げるベアリルが映る。


 見る限り、ベアリルも俺同様に困っている様子だ。


「おいベアリル、お前の仕業だろうっ!! 元いた地上へ戻せっ!!」


「無理よっ! 魔力切れなのよっ!! というか……私まで巻き込まれるなんて、聞いてないんですけどっ!!」


 泣き叫びながら訴える少女の声が、空に響く。

 魔力とは、魔法を使用する時に消費するものだ。魔力が無くなると、魔法は使えなくなる。例えるならば、運動時に消費する体力みたいなものだ。


「おい……嘘だろ?」


「嘘じゃないわよっ! 禁術を使った所為で、しばらくは魔力切れなのよっ!!」


「てか、此処はどこなんだよっ!?」


「知らないわよっ!! でも、さっきまで私達が生活していた世界では無いことは確か……」


「え? どういうことだ??」


「つまりは、異世界ということよっ!!」


 異世界……幼い頃に、本かなんかで聞いたことがある。住んでいる人が違えば、ルールも違う全く別の世界……それ以上は何もわからない。


 空を掻く手脚……風を切り舞う身体。ついには、上下左右の感覚がなくなった。

 ただ、瞳は感じていた。地面が迫ってきているのを……。


 ヤバい、ヤバい、ヤバい、ヤバいっ!?!?

 ――そんなことを思いながら、俺とベアリルは気を失った。



 ――――――……



 ――雲が青空を泳ぐのがわかる。背には土や草が触れている感覚がある。

 気がつくと、俺は地面に仰向けで倒れていた。


「……此処は、どこだ?」


 何度か瞬きを繰り返し、ゆっくり身体を起こす。

 辺りをキョロキョロ見渡すと、淡い緑な草叢に横たわるベアリルが目に入った。


「おい、起きろ」


「……ゔぅ…………」


 そう言うと、俺に遅れてベアリルが呻きながら目を覚ます。その後、目が合うなり、


「うぁああああーっ!! こんな奴と、知らない世界とかイヤだぁああああっ!!!!」


 ベアリルは泣きながら取り乱し、頭を抱えて叫んだ。

 自分で連れて来て、なんて失礼な奴なんだろう。


「おいお前、元の世界に戻る方法とか、あるんだろうな?」


「私の魔力が一定まで回復したら、帰ることはできるわよっ!! でも、回復するまでに十年ぐらい掛かるから、こうやって慌てているんじゃないっ!? ……ゔぅっ、小さい頃から少しずつ溜めていた魔力がぁぁああああ!!!!」


「じゅ、十年だと……。十年のあいだ、異界の地で生活をするのか……」


 俺とベアリルは、深い絶望を感じた。

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