第1小節 入学式 その1
僕こと、「葛城 真一」は明日からついに中学生だ。学区内という小さな檻に閉じ込められていた小学生の頃とはもう違う。もうどこでも好きなところに基本一人で行けるのだ。
「真一、明日は早いんだからもう寝ないとよ。」
「わかってるって。おやすみお母さん。」
部活道はなにに入ろうかと考えながら布団に潜る。いつもは11時くらいまで起きているのだが今日は1時間も早い10時に寝付けた。
そして翌朝
「おはよう。お母さん。」
「あら、早いじゃない。」
「昨日は早く寝たからね。」
「真一のことだから楽しみで寝れてないんじゃないかって心配したんだけど、その様子じゃ大丈夫そうね。」
「うん。それで朝ごはんは?」
「食パンあるから自分で焼いて。」
「わかった。」
言うまでもなくうちはパン食である。理由は簡単で両親が共働きで父親は朝早くに家を出てしまう。そして自分の食べるものは自分で調達(夕飯を除く)が母の意向の為、楽に作れるパンが朝食になったというわけだ。今のは表向きの理由で本当はめんどくさいだけである。
などと妄想しているうちに、
チン。とオーブンオースターが威勢のいい音を放つ。
トースターを皿に乗せ、バターを塗り、ハムを乗せたら完成だ。
それを机の上に持っていき、椅子に座る。
「いただきます。」
パンはサクッといい音を立てて僕の口の中に入っていった。10分くらいでそれを食べ終わると皿を流しに持っていき水をつけておく。
そして真新しい制服に着替え、新しい通学路から中学校に向かった。
僕は神奈川県横浜市にある、横浜市立仁丹中学校に通うことになっている。
小学校だと徒歩8分だったのに対し中学校は25分と3倍以上増える。だが小学生の頃から覚悟はしていたし、中学校が少し高台にあるため津波避難訓練でも行ったことがあるのでそんな苦ではない。5分ほど歩くと後ろから声がした。振り向くと
「おはよ~。」
と言って挨拶したのは小学校の頃から付き合いのある、言わば親友の諏訪 亮介だ。
「おはよ~。今日から中学だよ。実感わかないな。」
「そうだな。」
などと他愛もない会話をしながら通学路の長い長い坂を登りはじめた。10分後
前・言 ☆ 撤・回
まだ半分ほどしか歩いていないのにもう足が痛い。亮介も同じようで、二人ともどんどんペースが落ちている。
何がそんな苦はないだ。よくよく考えたら小学校はだいぶ中学校よりだ。その上色々ショートカット(高校の中を突っ切る等)するし、そのあと5分くらい坂を登るだけじゃないか。そりゃ楽だ。それとは逆にうちからは遠回りして中学校に行かなければならないらしい。理由はうちの家の立地だ。うちの家は住宅街のど真ん中にある。その上この住宅街はかなり広く、姫路城(城下町を除く)くらいの大きさだ。そこに家が敷き詰められている。そのため通学路にするには不自由すぎるほど道が入り組んでいる。はっきり言って渋谷の地下鉄の方がマシだ。それに加えて山あり谷ありの坂道だらけで、要塞住宅街といっても過言ではない。そのど真ん中つまり天守閣があるような位置にうちの家は立っている。戦国時代の殿様がなかなか外に出たがらないのも分かると考えながらやっとの思いで住宅街を出た。ちなみに亮介の家は同じ住宅街の中の中学校寄りに5分ほど歩いたところにある。
住宅街を出るとあとはちょっと大きい川を渡るってまっすぐ桜並木の道を歩けば横浜市立仁丹中学校にたどり着く。