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4話

 代わり映えのしない教室だった。休んでいた僕を心配してくれる藤並と津多に、まともに返事もできないまま放課後になった。


 藤並に今日は部活を休み、帰れと言われたが、そんな気になれずフラフラと校舎を歩く。

 ぼんやりしていたからだろう。別棟の資料庫へと来ていた。

 古城を見つけた場所だ。


 自分が嫌になる。未練がましい。

 泉にも酷いことを言ってしまったし、津多にも酷い態度をとってしまった。


 僕は何がしたいのだろう。自分のことなのに分からなくて、余計にむしゃくしゃしてきた。


 頭を掻いて、苛立ちを逃がすよう息を吐いた。



 以前、古城が座っていた窓辺にはスケッチブックが置かれていた。

 僕は何気なくそれを手に取り、中を捲った。


 そして、それが古城のものであると分かってしまった。


 彫刻や風景のデッサンに交ざって、見覚えのある顔が描かれていた。


「ははっ、こんなの絶対勝ち目ないじゃん」


 渇いた笑いが漏れた。

 スケッチブックの中には泉がいた。


 照れた顔やムスッとした顔、色んな泉の表情が描かれている。

 絵の中の泉は、僕が見ている泉とどこか違っていた。可愛らしかったり、格好良かったり、古城にはこう見えているのだろう。


 どんだけ古城は、泉が好きなんだ。




「あ、うそ! ひ、日比谷くん、見ちゃダメ」


 いつの間にか室内にいた古城にスケッチブックを返す。

 僕は力が抜けて、壁に体を預けた。


「日比谷くん?」

「ごめん、もう全部見ちゃったんだ」

「……」


 古城も力が抜けたのか、ストンと床に座る。両手で顔を覆って、赤くなった顔を隠そうとする。


「古城は熱烈だね」


 茶化すように言って、僕も座る。


「泉はさ、面倒くさい奴だよ。疑り深いし、神経質で、細かいとこが気になるんだ。それでも、あいつが好き?」


 古城は小さく頷いた。


「どこが好きなのかな?」

「……泉くんは、とっても友達思いだよ。日比谷くんのこととても心配してる」

「んー、そういうことが聞きたいわけじゃないんだけど」


 少しの沈黙の後、古城は口を開いた。


「あのね、恥ずかしいけど……話すね。実は、はじめは泉くんのこと大嫌いだった。私が唯一自信のある絵を貶したから。あ、直接言われた訳じゃなくて、たまたま聞いちゃっただけなんだけど。でもね、泉くんが貶した絵、自分でも良いなんて思ってなくて、それなのに周りからは誉められるから複雑で、誰もちゃんと私のことなんか見てくれていないんじゃって不安になってたの」


 古城はスケッチブックを広げた。不機嫌そうな泉の絵のページだ。


「はじめは反発した。だけど、妙に気になっちゃって集会の時とか、部活の時とか泉くんを探すようになったの。その内に、どうして泉くんは、私の絵を貶したんだろうって気になっちゃって脅したの」

「へ? 脅した?」

「そう、脅したの」


 古城は僕を見てくすっと笑った。


「この部屋の外に来てほしいって手紙で呼び出したの。室内を見るな、聞かれたことには絶対答えろって条件付きでね。脅し文句は、日比谷くんの人にバラされたくない秘密を知っている、彼を守りたいならこちらの条件を飲めって。泉くんは条件を飲んでくれた」

「僕の秘密?」

「勿論、出鱈目だよ。少し話ができれば良かっただけだから」


 盗み聞きしていたことがバレるのも、絵を貶したことを気にしていると思われるのも、古城は嫌だったらしい。だから、古城だと分からない状態で泉と話がしたかったそうだ。


「少し話せば、もっと話したくなった。泉くんは、ただ貶した訳じゃなかった。私が描いたもう一つの絵の方が好きだからって言ったの。それがね、私も気に入ってるもので嬉しかった」

「それが、好きな理由?」

「ううん、これはきっかけ。話していく内に好きになったんだよ」


 嘘はすぐにバレた。それでも、条件は守られ、決まった時間に集まり、二人で色々なことを話した。お互いに楽しんでいたのだと思うと古城は語る。

 梅雨がきて雨が降り続くと、窓辺に二人が集まることも少なくなり、夏前に泉に連絡先を渡されたそうだ。


「ちゃんと友達になろう。脅されたことはもう気にしてないし、顔を見て話したかった。お前にその気があるなら、ここに連絡して」と言って泉は去ったそうだ。


 古城は、泉が自分の正体に気づいていないなど思ってもみなかった。

 古城が一年も連絡できなかったのは、ただ単に告白する勇気がなかったから。

 一年後、会わなくなったのと同じ時期に、思いきって連絡した。その文章を晒されてしまったわけだ。



「泉くんってちょっと間抜けなの。だって、窓越しだけどずっと話してた私に気づかないんだもの。でも、そういうところも好きなんだ」


 愛おしげにスケッチブックを撫でる古城は、とても魅力的だった。あの日の姿を思い出す。


 ああ、僕は恋する古城に恋したんだ。

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