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1話

 僕は同級生の女の子に恋している。

 古城が好きだ。もう一年半も彼女を見つめている。彼女は僕の想いを知りもしないだろう。だって、彼女の眼には僕など映っていないのだから。


 古城は大人しくて、引っ込み思案だ。根暗というわけではないが、自身の気持ちを口にするのが苦手なのだろう。

 そんな彼女が告白のために用いたのは、愛の言葉を相手のスマホへと送るというものだった。


 今時、珍しくもない告白方法ではあるが、きっと彼女には様々な葛藤があったに違いない。

 古城は真面目で純粋で人に気を遣いすぎる。優しすぎて損をするタイプだ。だけど、芯の通ったしっかりした子でもある。

 送信のボタンを押すときには、手が震えていたのだろう。そんな想像をするだけで、僕は悔しくなる。


 古城の想いは踏みにじられた。最低の形で、僕はそれを知る。



 僕の幼馴染みの泉が、スマホの画面を見せながら言った。


「勝! 見ろよ、これ」


 僕は愕然とした。


「ん? 何か面白い動画でもあったん?」

「あ、藤並も見るか? ありえねーのよ、これ。すっげ、長文なんだけど」

「えっ? 何これ」


 放課後の教室に僕らは残っていた。期末考査前で休みの部活も多く、運動部が多い僕らのグループはこんな時しか放課後にダラダラできないので、何となく集まって雑談していた。

 画面を見た藤並は困惑している。

 そんな藤並の反応が気にかかったのか、他の友達も画面を覗き、囃し立てる


 この時、僕がスマホを取り上げてしまえば良かった。そうすれば、彼女を傷つけずにすんだのかもしれない。

 けれど、情けないことに、そこまで頭が回らなかった。


 スマホ画面には、古城の泉への想いが綴られていた。

 真面目な古城らしい誠実な文章だ。


 それを、馬鹿にする友人たちが信じられなかった。


 気づけば僕は、泉を殴っていた。幼い頃から惰性のように一緒にいた僕らは、その日を境に口も利かなくなった。






 数日の内に古城の告白の話は広まってしまう。


 その日の教室は騒然としていた。古城と仲の良い津多が、泉に殴りかかりそうな勢いで詰め寄ったのだ。


 どうして、古城の告白を皆にバラしてしまったのか。古城の気持ちを考えろ、と津多は泉を責める。


 泉は何を考えているのか分からない顔のまま、津多を見下ろす。

 反応が薄いことが津多を更に怒らせ、ヒートアップさせる。


 古城は必死に津多を止めていた。その泣きそうな顔が頭に焼き付いてはなれない。


 結局、休み時間の終わりを告げるチャイムが鳴り、教師がやって来たため、話は中断してしまった。


 気分が悪いからと嘘をついて教室を飛び出す津多を優しい古城が追う。


 僕は彼女たちを責めないでほしいと教師に頼むことしかできなかった。



 教室内がギスギスしていた。藤並が助けを求めるよう僕を見てくるが、僕だってどうすればいいかなんて分からない。


 兎に角、僕は泉から距離を置きたくて、同じ空間にもいたくなくて、昼休みに教室を出た。


 誰もいない場所を求め、たどり着いたのは裏庭だ。


 僕はとんでもなく運が悪いらしい。


 そこには泉がいた。


 僕ら幼馴染みは、性格は全く違う。音楽や漫画の趣味は合わないし、好きなスポーツだって違う。だから、部活も違う。中学に上がって互いの家に遊びに行くことも少なくなった。接点がほとんどなくなったのに、一緒にいたのは居心地が良かったからなのだろう。

 喋らなくても大体の行動予測が出来た。気を遣わなくても良かった。お互い、それを分かっていたから楽だった。


 僕らは似ていないようで、似ているのかもしれない。



 だけど、決定的に違うのは、古城を引き寄せる何か。泉にはその何かがあった。


「……い、いず、みくん」


 裏庭の隅に佇んでいた泉。その泉を偶然発見してしまったのだろう古城が、震える声で名を呼ぶ。


 見つめ合った二人は、しばらく喋らなかった。古城は可哀想なくらい動揺しており、泉は冷淡にも見える無表情のまま彼女を見下ろしていた。


「はぁ」


 泉のため息に古城の華奢な肩が跳ねる。


「あのさ、お前気持ち悪い」


 とんでもない暴言に僕は耳を疑った。


「……そ、うかな」

「俺、お前と話したことあった?」

「……」

「ないよな。クラスが同じってだけ。全く関わりのない人間が突然あんなの送って来たら気持ち悪いって。だいたいさ、俺の連絡先どうやって知ったんだよ」

「気づいてないんだね」

「は?」


 古城は意外にも泣かなかった。あんな暴言を言われたら誰だって不快だろうに、その丸い目が強く、真っ直ぐに泉に向けられる。


「良かった。泉くんは、私のこと関わりのない人間だと思ってただけなんだね。私も知らない人からあんな告白されたら気味悪く思うもの」

「お前、何言ってんの?」


 泉は怯んでいた。泉は人の感情に気づかないほどの馬鹿ではない。ただ、少しだけ疑り深い。人を信用するのに時間がかかる。

 軽い友達付き合いなら適当に流せばいいし、表面上仲良くすればいいだけだ。

 僕は友人とそんな付き合い方はしたくなかった。僕が新しく出来た友達と仲良くなれば、反比例するように泉とも距離ができた。


 古城に酷いことをしたり、拒絶するのは、泉の人間不信が原因だろう。

 泉は古城を試したいのだろうか。それとも、嫌われたいのだろうか。


「私ね、本当に泉くんが好き」

「だから、気持ち悪いって__」


 古城は泉の言葉を遮り言った。


「連絡先はね、泉くんが教えてくれたんだよ」


 泉は驚いていた。

 そんな泉が可笑しかったのか、柔らかに微笑んだ古城は、少し怪しげで、とても可憐だった。小さい頃に読んだ絵本に登場する、いたずら好きの可愛い妖精のようで、普段の彼女からは想像も出来ない姿がそこにある。


 僕は歯噛みする。それが古城の特別な姿に見えたからだ。泉の前でしか見せない、彼女の特別な一面。きっと僕にはあの微笑みを向けてくれないのだろう。分かりきっていても、僕にもと思ってしまう。僕は浅はかだ。そんな自分が嫌になった。



 古城はめげなかった。彼女は大人しく見えて、豪胆だった。


 古城は教室に津多を引っ張ってきて、皆に謝罪させた。教室内を騒がせてごめんと。


 その後、宣言する。


「私が泉くんを好きなのは事実です。だけど、私の片想いみたいなので、あまり騒がないでもらえると嬉しいです」


 クラスメイトが唖然としたのは言うまでもない。囃し立てていた友人や、キャーキャー言っていた女子はばつが悪そうな顔をしていた。

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