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オンラインゲーム

 いつも休日になると、ユウキは朝からカーテンを閉め切った暗い部屋に一日中籠って、ご飯の事も忘れるほどにゲームに熱中していた。けれど、フィリアと出会って、数年ぶりにゲームの事を忘れてしまっていた。

パソコンのモニターがぼんやりとユウキを照らしていた。ユウキは頭を抱えたままで、ゲーム画面を見る事ができなかった。


———

 

 今から2時間前に遡る。


 ユウキはゲーム内で土下座大会の開催を決定した。クランのミーティングを無断欠席してしまったからである。

 

 ゲームのタイトルは『The Robot Deterrent』、大人気オンラインゲームである。

核の傘によって守られていた世界は、ある数学者の暴走によって終わりを迎える。次の時代に脅威となったのは前時代に作られた二足歩行ロボットであった。世界平和は核に代わってロボットの傘によって保たれていたが、その均衡はロボットが放った一発の砲弾により破られることとなった。

以上が公式サイトに載っているあらすじである。


基本的なルールはクランを組んでチームで戦う。個人で活動してもいいのだが、難易度が跳ね上がる。なので、腕に自信がある人でもクランに所属する。

 クランに入ると、メンバーごとに役割が分担され、操縦、整備、外交、指揮といった仕事を担当することになる。人数が少ないクランやソロプレイヤーは複数の仕事を1人でこなす必要がある。

 クランと言っても、戦国時代の領主様のような存在で、領土とNPCの領民を守りつつ、外交や貿易、戦争をしなければいけない。設定では国家はすべて解体されており、それぞれのクランが個別に統治することになっていた。

 方針の違いなどで対立することもあるだろう。通常ならばフレンドリーファイアは不可能であるが、ランク上のプレイヤーに対して打撃ないし射撃を加えることで制限が撤廃される。言うなれば下剋上である。こうなると、メンバー全員が入り乱れての大混戦となる。


―――


 ゲーム内のユウキはクラン本部で謝罪大会を開いていた。皆様に向けて誠意の籠った土下座である。2回前のアップデートでこっそり追加されていた。初めて知る人もいて、周りの数人が土下座のポーズを始めた。フラッシュモブみたいだ。土下座に次ぐ土下座、羞恥プレイここに極まりといった様子で、クランリーダーも近づいてこない。

 クラン本部は大きなテント5つ、他はメンバー380人分個人用のテントが並んでいるだけだ。それなりのクランだが敵から襲撃を受けた際の事を考えて、修復しやすい物を使っている。塀を作ってもあいつらはブースターで飛び越えてくるのだ。結局テントに落ち着いた。   

 

 近くで新入りがロボットに乗り込んで操縦練習をしている。自分のロボットを呼び出すときは、手元の端末を使えば良い。視認できない距離から5秒でたどり着く。実際にはプレイヤーが操縦してもこんなに早くは動かない。

 ユウキは土下座スタイルなので、ホバータイプの脚部との相性が悪い。ただでさえロボットは5階建てビル相当の大きさがある。それを浮かすために吐き出す大量のエネルギーを吐き出す。そして、吹き上げられる粉塵が常にユーキに直撃する。画面上には砂しか映っていない。土下座をする意味があるのだろうか。そう考えていると、歩いてくる人の姿が見えた。

 

 「まあ、気にすんな。気になる事をアンタが言ってたから話がしたくなってな。それにさ、こんな砂嵐だ。顔上げて良いと思うぜ、見てる人いねぇよ」


 ゆっくりと顔を上げてみる。白銀色のパワードスーツを着込んだ目の前にいる人物は何者なのだろうか。ボイスチャットの声からして男性であることは間違いない。フルフェイスのヘルメットに兜を組み合わせたような被り物をしており、表情を伺うことはできなかった。

 笑いながら目の前に腰を下ろそうとする。さりげなくユウキは正座のまま後退りした


 「おいおい。つれねぇなぁ。別に怪しい者じゃないぜ。前回のミーティングで紹介された新入りのPETだ。よろしく」


 「悪いが、前回は欠席したんだ。俺はユーキ。ところで、PETって何の事だ」


 「ポリエチレンテレフタラートの略だ。言うなればペットボトルの原料のことだ。」


 「ついに樹脂がゲームをする時代になったか」


 白銀色の男は、困ったように頭を掻いた。


 「まあそう言うな。ここで会えたのは俺にとって幸運だと思ってんだ。聞きたい事があってな」


 「何だよ」


 「ユーキは――高校の2年生ってことで良いよな」


 「だったら何だ」


 「なら金曜日の放課後前のホームルームで発生した事件について、何か知ってるか」


 ユウキの手が震えた。目の前にいる人はどれだけの事を知っているのだろうか。

 

 「お前、何者なんだ」


 突如、轟音と地響きが2人を襲った。PETの頭部に装着されたHUDヘッドアップディスプレイに着弾位置と被害範囲予測が出る。


 「――まずい」


 PETはパワードスーツのシステムによっての強制的に側方に回避する。着弾位置にはユーキが居たはずだ。視界がクリアになってくるとともに、現状のユウキとステータスが確認できるようになった。残りHPが1割を切っていた。

 現実逃避の一環で始めたゲームで、「関係者」に巡り合う事など予想をしていなかった。会話の続きをしたかったが、一度HPゲージが0になればそのアバターは使用不可になる。つまり、次回プレイ時は所属もレベルも名前も全てリセットされてしまう。

 

「なんで、土下座マン倒れてないんだ。チートだろチート」


 キッズ達がゲラゲラと笑いながら銃口をユウキに向けている。キッズとは、親の目を盗んでオンラインゲームを荒らし、人に迷惑をかけているという背徳感に興奮する者の事だ。期待同士の通信にはセキュリティが掛かっていなかったのか、HUDには5個の赤いターゲットが表示された。応援を要請しようとしたその時、


「次、俺だからな。火力重視でいくわ」


と宣言するロボットが持つ武器を見て考えを改めた。SW001-レールガン、SWはシークレットウエポンの略であり、通常装甲のロボなら一撃で行動不能になる威力を持つ。PETは咄嗟にユウキを回収に走る。


 「間に合ってくれ――」


 スーツのエネルギー充填率が高まり、HUDの表示が黄色から緑色に変わっていく。最後の一歩を踏み込みユウキの元へ飛び込んだ。そして、流れるようにユウキを正面に抱きかかえる。

 直後、衝撃波が背中を襲い、天と地が何度も逆転しながらPETとユーキは吹き飛ばされてしまった。


 「なんだよー、ただの鎧じゃないのかよー」


 PETは力を込めても起き上がる事が出来なかった。HUDの表示にはメインバッテリー損傷の表示が点滅していたので、予備のバッテリーに切り替える。スーツは外部装甲が破けており、動力パイプがむき出しになっている箇所が幾つもあった。しかし、冷却装置は停止したのだが、動作不能になる事はなかった。


 「そういや課金アイテムの耐久性は折り紙付きだったな」


 前回ミーティングの後にクランリーダーにお勧め装備を聞いてみたところ、気づけばこの姿になっていた。価格を見ると、来月のカードの支払いが怖くなった。性能は十二分にあるからというので無理やり納得した。今考えれば必要な出費だったのだろう。


 「よっし、この次はオレっしょ。この四脚ロボのガトリング砲使うよ」


 「弾数多くてズルいって、せめて5秒だけだろ」


 「仕方ないなー。はいはい分かったよ」


 ユーキとの距離は20m弱、走れば1秒だが既にユーキはロックオンされていた。肩のガトリング砲の砲身が回転を始める。


 「ユウキィイイイイイイイイイ」


 スーツのアシストもあり、右脚、左脚と段々と脚の回転が速くなる。あと少しで手が届く。そうして藁にも縋る思いでユーキの手を握った。

 途切れる事なく、それでいて地面を揺らす程の爆音が響き始める。HUDには被ロックオンの警告で真っ赤のままだった。可能性が少しでもあるのなら。思いきりユーキの手を引っ張り脇に抱えた。

遅くなって申し訳ありません。

更新の速度は亀より遅いかもしれませんが、読んで頂けることに感謝です。

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