魔女がもたらしたもの
よろしくお願いします。
東雲ユウキが高校2年生である。新しいクラスにも大分慣れた。登校すると中学からの同級生だった香田が居た。彼女ができちまってさぁとか惚気話を聞かされたが、正直他人の事には全く興味を持てなかった。
下校前のHRが近づくにつれて、みんなの話し声が大きくなる。今夜は花火大会があるらしいけれど、俺にはそんな事どうだって良かった。帰るとすぐに、昨日から中断しているゲームの続きをする。俺は中学校の頃にゲームに出会い、その魅力にとりつかれてしまってからはずっとその生活を送っている。少しでも時間を多く確保するために、友達からの遊びの誘いがあっても断り続けた。そうしたこともあってか、学年が上がるごとに、だんだんとゲームに割ける時間が多くなり、ネットゲームでは上位のクランに入ることもできた。それなのに幼馴染の大石優里には愛想をつかされたのか、最近は話しかけてすら貰えない。小学校の時は親に姉弟と言われるほど仲が良かったのに。そんな事を考えていると、大きな笑い声がして現実に引き戻された。既にHRは始まっているらしく、先生が眉間に皺を寄せて教壇に立っていた。
「静かにしてください!」
言い終わった瞬間、目を開けていられない程の光に包まれた。本当に雷が落ちたのかと思うほどの。だんだんと意識が遠のいていき、椅子から落ちる寸前で意識が途切れた。
どれぐらいの時間が経ったのだろうか。俺は保健室のベッドの上にいた。頭が少し痛む。そういえば、椅子から落ちたんだったな。視界がぼやけてはっきり見えにくいけれど、担任の先生がいるようだ。頭を打ったけれど酷い痛みもないし、それ程ひどい状態ではないだろう。急いで帰らないと、今日の7時からクランの集会がある。ベッドの手すりを使って身体を起こそうとすると、先生こちらに気づいた。やけに頭が重い気がするが、寝ていたせいもだろう。先生に言って急いで学校を出ると間に合うかもしれない。
「気分はどう?」
目はだいぶ良くなったのでけれど、逆光で先生の表情が見えにくい。けれど、優しい声をしていた。
「別に問題はありません。なので、帰ります」
「ちょっと待って。ユウキ君には状況を整理してもらわないといけないから、少しだけ時間貰えるかしら」
「は、はあ」
時計を見ると、まだ時間には余裕があるから5分くらいなら良いだろう。それを確認すると先生は手鏡を持ってきた。怪我の確認からするのだろう。頭は少しだけ痛むが、ベッドから落ちた時のほうが遥かに痛む。これくらいなら軽く運動もできる。そう考えながら渡された鏡を覗きこむ。
「……え」
そこには可愛い女の子がいた。髪の毛は胸くらいまでの長さがある。俺は頭を打っておかしくなったのだろうかと不安が募った。もう一度鏡を見てみたが、それでも先程と変わらず女の子が映りこんでいる。
「あのね、良く聞いてちょうだい。あなたは本当に女の子になってるの。信じてもらえないかもしれないけど、魔女に魔法をかけられたの」
先生はその魔女から聞いた話を教えてくれた。彼女はどうやら別の星から来たようで、魔法を使ってきたらしい。転移魔法っていうらしいけれど、それで移動している最中に寝てしまった。そして、この星に到着したときに魔力の制御ができなくて、俺たちに魔法をかけしまったみたいだ。残りの魔力がほとんどなくて、回復にも時間がかかるらしい。回復すると元に戻してくれるらしい。すると、扉が開いて幼馴染の大石優里が入ってきた。
「ユウキ君はまだ寝てますか」
優里と目が合った瞬間、背中の汗がツーっと流れ落ちていくのを感じた。
「なっ、なんでここにいるんだよ」
「ユウキが倒れたって聞いて、心配だから来てるのに!」
これが、1年ぶりくらいの会話だった。よく見ると優里の目が赤く充血している。
「俺の事嫌いなんだろ? 長いこと話もしてないじゃないか。先生の前だけ良い子ぶらなくていいんだって。俺帰るから」
優里は俯いて何も言わなくなってしまった。こんな人を相手にしていたら時間がいくらあっても足りない。俺には大事な用事があるんだ。先生にお礼を言って扉に手を掛けようとすると、後ろから腕をつかまれた。
「……待ってよ」
「一体何だよ!急いでるんだ」
「そう……そうやって、ユウキはいつも自分から離れていく」
「優里が避けてるだけだろ」
「違う! 私はずっとユウキと一緒に……昔みたいな関係でいようと思ってた。だけど、私が近づくと避けていくし目も合わせてくれない。いつも部屋に引きこもっていて、出てきてもくれない……それで、久しぶりに顔を見て話ができると思ったら、女の子になってさ……あんまりだよ……」
後ろを向くとボロボロと大粒の涙を流した優里が居た。
「大石さんは、東雲君が倒れたって聞いてすぐに駆け付けてくれたのよ。目が覚めるまでいるって言って、みんなが帰っても最後まで残っててれてたの。他にも倒れた生徒はいたのだけど、東雲君が一番長く倒れてたから分からないと思うわ。あなたがベッドで横になってるときに、身体に変化が現れたの。そのとき、大石さんは必死になってあなたを助けようとしたわ。だけど、あなたに何もしてあげられなくて、ただ目の前で起こっている事を受け入れることしかできなかった。そして、あなたの容態が安定してから、大石さんは1人になりたいと言ってここを出たのよ」
俺はそれを聞いて、ただ茫然と立ち尽くすしかなかった。
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