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物語のはじまり

よろしくお願いします。

 地球とは別の宇宙にあるグリアという星で起きたお話をしよう。地球と同じように暦がありグリア暦と言う。150年ほど前、偉大な魔法使いのロドがいた。数々の魔法を作り出し、人々の暮らしを豊かにした。教育にも熱心であったという。教育カリキュラムの礎を築き、後世では魔法使いの父と言われる。保持できる魔力は膨大なものであった。天災から国を一つ守ったとさえ言われ、歴代の魔法使いにおいて最強と謳われた。しかし、星と星を移動する転移魔法を完成させると、彼は別の世界の教育について学んでくるとだけ言い残して姿を消してしまった。


 グリアの中央政府で頭を抱えている人物がいた。技術府のライオネット家のレイモンド伯爵である。かれこれ30年前から行っている政策である転移魔法を用いた別の星の技術獲得が上手くいっていない。30年前から変わらず魔法が使える人が多く、魔法使いが近くにいれば普通の生活は送ることができる。そういうこともあり優先度の低い政策であったが、近年になって魔法に適性のない子供の増加が問題となり、危機感を感じた中央のトップが急に圧力を強めてきたのだ。そこで、これまでに成果を出していたラナ・レオナ、ゴスドレ・フォー、レオ・マンベルを招集した。


 「今回集まってもらったのは、技術獲得についてだ。それぞれ、適任だと思う者を選抜してもらい、今後5年以内に大きな成果を上げてもらう。ご存知の通り、ここは周りからは腫れ物扱いされている。私も頑張ったが、宴会を開けるかどうかほどの予算しか取ってこれなかった。なので、費用は君達が負担することになる。だからというのも変な話だが一番の成果を上げたものは昇格を約束しよう。技術府が取り潰されるかどうかは君達にかかっている」

3人はレイモンドの部屋から出て、自分の仕事に戻っていった。このとき、堪えきれず口元に歪んだ笑みを浮かべた者がいたが、気が付いた者はいなかった。


 レオは親戚である魔女のフィリアを選んだ。まだ16歳になったばかりで、成人になりたてほやほやである。フィリアは変性魔法の使い手で、対象の性別を変えることができ、彼女の実家の牧場にいる牛や羊が雌ばかりなのは、それのせいである。この牧場で作った乳製品は人気があり、店に並べるとすぐに売り切れる。なぜフィリアにしたのかというと、レオがいるマンベル家は事業に失敗して資金繰りに窮しており、高名な魔法使いを呼べるだけのお金がなかった。報酬が出ないならやらないとか、別の人にあたってくれなどと知り合いには悉く断られた上に、親戚にも魔法使いがほとんどいない。そして最後の最後に深刻な顔でフィリアの親に相談したところ、本人も交えた話し合いをすることになった。結果はというと、その日の内に良い返事を貰えることになった。


 フィリアの家では偉大な魔法使いのように、人の役に立つことは名誉なことであるという教育方針であった事が幸いした。フィリアには危険かもしれないと父親は渋ったが、母親はレオ繋がりで転移魔法を使ったこともあって父親の意見は無視された。フィリアも行く気満々だったので、父親は気をつけてとか、明日になったら考えがかわるんじゃないかなとしか言わなくなっていった。レオは話を持ってきた事に責任を感じつつも、肩身の狭い父親に同情した。


 フィリアは出発のためにレオに連れられて中央政府に来た。外見は中世ヨーロッパの城に似ている。その周囲を、鎧を着ていても分かるほど隆々とした筋肉を持つ警備兵が巡回している。


 入口では危険物を持っていないかチェックをするみたいだ。検査の担当は女性だったけれど、鼻息が荒くて目が血走っており恐怖を感じた。レオが咳払いをすると、ハッという顔をして女性が落ち着きを取り戻してくれたので助かった。これじゃあ何のための検査か分からない、とレオが愚痴をこぼしたのを聞いてしまった検査担当は、表情を変えずに汗をダラダラと垂らし始めた。


 それからレオと一緒に長い廊下を通って階段を上り、クタクタになりながらレオの執務室に向かった。遠いよー、お腹すいたよーとボソボソと愚痴っていたのだが、執務室では秘書が飲み物とお菓子の入った小箱を用意してくれていたので、機嫌が良くなった。椅子に座るってレオと他愛もない話をしながらパクパクお菓子をつまんでいると、いつの間にか箱の中が空になっていた。


 「俺の分まで食べたのか……」


 レオは呆れた顔をして、秘書は微笑ましいといった顔でフィリアを見ている。実家での癖が出てしまったと気づき、耳まで真っ赤になった。しばらく頭を抱えていたレオが落ち着きを取り戻して、説明を始めた。


 「昔、君のお母さんにも言ったのだが、さっきのような人もいるので危険を感じたら逃げること。そのときに魔法は使わないこと。魔力の回復が早い世界なら良いけれど、その逆もある。転移魔法は使用者の魔力の8割ほどを使用するらしい。これは距離や最大魔力保有量に関わらずそうなっている。いまだに理由は分かっていない。転移魔法を使うと、この星と転移先の世界にパスができる。そのパスを通して君やこの世界を漂う魔力のもととなるエネルギーが伝わっていく。転移先が別の宇宙というように遠いほどパスはどんどん細くなっていき、エネルギーが伝わりにくくなる。転移先は魔法が勝手に選ぶからどこに行けるかは分からない。本当は方法があるのだが、倫理的な観点から禁止されている。なので魔法を使うにしても、その世界に行って様子を見てからのほうが良いだろう。」


 フィリアは初めて聞くことばかりで混乱してしまった。転移魔法の詳細については一般には公開されておらず、使用者は身内であっても内容を話すことは許されないのだ。これは昔、技術を独占してさらなる富を得ようと、欲に眩んだ貴族が居たことによる。その貴族はアウトローな魔法使い達を高額な報酬で雇い、転移魔法を好き勝手に使用させたため帰還困難者が続出した。司法府では仕事が減ったと喜んでいたものもいたらしいが、危険性が高い魔法と判断され、禁止魔法として中央政府の管理下に置かれることになった。説明が終わると2人は政府のトップのミロのもとへ向かったのであった。


 2人は堅苦しい雰囲気に押しつぶされそうになっていた。部屋の正面には中央政府のマークがあり、それに背を向けて難しそうな人が座っている。あまり評判は良くないんだろうなという雰囲気を醸し出していた。部屋の中央まで歩くと、仰々しくレオと共に跪いた。緊張していたのもあり、すぐに足がプルプル震え出した。収まってー、お願いだからーと足に向かってお願いするけれど、なかなか治らない。するとミロは徐に口を開いた。


 「君か。かわいそうに。レオのせいで犠牲になるんだ」


 やっぱり嫌な奴だった。


 「な、なんてことを仰るんですか。たしかに、婚期は逃すかもしれませんが、そうなれば私が責任をもって見つけるつもりであります」


 レオは必死にフォローしているが、心にグサグサくるものがある。窓際部署といわれる所以がわかった気がした。ただチャンスをくれた人の事を悪く言われるのは気分がいいものではない。


 「私がお願いしたんです。人の役に立ちたいと思ってレオに連れてきてもらったんです」


 それを聞いたミロは、こう質問してきた。


 「たとえその身に危険が及んでもか?」


 「はい」


 フィリアはためらわずに答えると、ミロは何が可笑しいのかガハハハと笑い始めた。


 「ならば行くがよい」


 そう言うと、2人が跪いている床に穴があき、キャーという悲鳴とともに自由落下していった。



 

 気が付くと、レオが同情したような目でこちらを見ていた。


 「私、生きてる?」


 見たこともない魔法陣が広い部屋の中央にあるだけの殺風景な部屋だった。


 「心配ない。クッションの上に落ちてるけど、痣は覚悟しといたほうがいい。ホント自分勝手なボスですまない。普通は階段で降りるのだが、技術府の人間はモノのように扱われている。巻き込んでしまって大変申し訳ない。」


 「レオは悪くないです! あのミロって人が横暴すぎるんですよ。それで、ここはどこですか?」


 「そうだった、まだこの部屋の説明をしていなかった。ここは中央政府の建物の地下にある、転移魔法陣のある部屋だ」


 「私、呪文を唱えるだけかと思ってました。魔法陣は苦手で……」


 「転移魔法っていうのは行きに魔法陣を使うんだけど、帰りは呪文を唱えるだけでいいんだ。これには先ほど言ったパスというものが関係する。目的地を探索してパスを通すのに魔法陣は使われるけれど、帰りはそのパスを辿ればいいだけだから、魔法陣は必要ではなくなる。」


 フィリアは少し安心した。そろそろ時間だと言われたので、魔法陣の上に立った。移動先の星の名前が浮かび上がってくる。


 「チキュウ?」


 聞いたこのない星だった。転移先は安全な場所しか選ばないと教えてもらったけれど、注意しておいた方がいいだろう。魔法の使い方を教えてもらい、注意点も教えてもらったが、どうやら転移中は眠たくなるらしい。寝たまま転移されると、魔法の制御ができず周囲に被害が及ぶらしい。顔をパンパンと叩きと気を引き締めた。


 「気をつけて欲しい。成果が出なくてもいいから、キミの思った通りにしたらいい」


 こんなに満足そうな顔をしたレオを初めて見たかもしれない。


 「ありがとう。頑張ってくるから」


 ニコッと笑うと、魔法陣が発光してフィリアは転移した。


忙しいので返事を返せなかったりするかもしれませんが、暖かい目で見守ってやって下さい。

不定期な更新になります。

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