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zero×騎士  作者: 朧月 燐嶺
第2章 覚醒
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龍退治 その2

気軽に読んでいただけると助かります。

~次の日~


真琴とアイリスは谷の上で待機していた。陽動部隊が出発してから数十分…未だ現れない。


「…少し遅くないか」


「確かに少し遅いですね」


落石班の他の冒険者や、ギルドマスターも少し不安がっていた。その時はすぐさま訪れた。


「来ました!前方にグランドラゴンです!」


「来たか…皆の者覚悟はいいな!」


「はい!」


グランドラゴンは数百トンの巨体で目標地点に走り寄ってくる。陽動部隊は飛翔魔法が使えるパーティに任せた。流石に脚で約一キロの道を誘導するのは難しくリスクも大きい。そして距離約百メートルに迫った。


「よし、水門の施錠と共に湖畔を決壊させろ。」


「了解!」


グランドラゴンは見事指定の位置に到着した。


「今だ!」


ギルドマスタの号令と共に水門が閉じられ、陽動部隊が谷を越えた。


「ロックブレイク!」「刃岩尽!」


落石部隊の一部が技を発動し湖畔の水をすべて谷に流し込む。一気に谷の中に水が注ぎこまれる。グランドラゴンは何が起こったのかと辺りをきょろきょろと見渡している。しかしもう遅い、僅か数十秒足らずで体の半分が浸るほどまでに水位が増える。ダメ押しにと水魔法で谷の中に水を灌ぐ。


みるみる内にグランドラゴンは水に飲まれていくが、流石に水から抜け出ようと羽を広げるかと思いきや、狭い谷に阻まれ翼を広げることができない。その間にも水位はどんどん増していく。そして…


「落石放て!」


「「おお!」」


真琴とアイリスが組みする落石班が止めとばかりに大量の岩を谷から落とす。水面から時折顔を出していたグランドラゴンだったが数百個近くの大小さまざまな岩を放り込まれ、あえなく水底へと沈む。


「やったのか…」


「おそらくは…」


「マスターどうなんだ?」


「気を抜くな、これしきでくたばる様な龍なら、誰も恐怖はせん。龍の脅威はおそらくこれから…」



ギルドマスターの不審な言動にみな不安を抱いた。その予感はすぐさま現実と化す。水で満たされた谷からふつふつと湯気が立ち込める。だんだんと水位が下がっていく、水が蒸発しているのだ。


「これはいったい!?」


ギルドマスターやその場に居合わせる冒険者が一同にその異常さに驚く。そしてあっという間に谷いっぱいに満たされた水をすべて蒸発させた。


「なんと!?」


「一瞬であれだけの水量を蒸発させるなんて…」


「…やはり手ごわいですね。」


これだけで済むと誰もが思っていたかもしれない。しかし自然の体現と謳われる龍の力はそれだけではない。


「おいアレはなんだ!」


冒険者の一人が何か異変に気付いた。一同が谷底をのぞき込む。グランドラゴンの翼がゆっくりと開き始めていた。しかしこの狭い地形では、先ほどと同じく翼を羽ばたかせることなどできるはずがない、しかし!


「ん!?…皆伏せろぉぉ!!」


ギルドマスターのいち早い危機感地にしたがい。皆地面に伏せる。その瞬間に地面が大きく唸りを上げ鼓動する。一度も立つことのできないこの重圧感。力を振り絞り対岸を見ると何故だか伏せる以前より距離が遠ざかっている気がした。


「なんか向こうの岸ってこんなに遠かったけ…俺の気のせいか?」


「いえ、気のせいではありません真琴君。谷の幅が広がっているんです…!?」


これがグランドラゴンの力、しかしそれはあくまで力の一端に過ぎない。これからが龍たる所以(ゆえん)の力だ。


「あれは…!?」


龍の口元にエネルギーが凝縮される。おそらくその力こそ谷いっぱいの水を一瞬にして蒸発させた原因なのだろう。その破壊力は推定でもここにいる全員を一瞬にして消し炭にできるほど、もしこの場に放たれればこの場は壊滅的状況に陥る。


「グウォォォ!!」


だが、グランドラゴンの顔面に爆炎が直撃する。その爆炎が点火元となり凝縮されたエネルギー体を起爆させる。規模は小さいもののそれなりの威力となり、グランドラゴンにダメージを与える。いったい誰が攻撃を仕掛けたのかそれはすぐに判明した。


「ここは我々が引き受ける!」


グランドラゴンの正面に中隊程度の人数の冒険者たちがいた。その先頭に立ち雄祐と剣を構える男…ルードだ。ルード率いる戦闘部隊が、危ういあの場面を救ってくれた。

谷上にいる皆は歓喜した。まるで英雄が来たと言わんばかりに声援を送る。悔しいがこの場はルード達、戦闘班の仕事だ。真琴は戦いたい欲求をぐっと抑え込みルード率いる戦闘班に声援を送る。


「がんばれ戦闘班!」


皆の声援を受け、それに応えるべく剣をグランドラゴンに突き立てる。


「ふん…こうも声援を送られては負けるにまけれんなぁ!皆行くぞ、己の渾身の武技であの龍を殲滅しようぞ!!」


「「おおお!!」」


「雷鳴剣!」


「アクア・ブレイク!」「聖なる矢(ホーリー・アロー)!」「サンダーブラスト!」「ロックマグナム!」「爆裂拳!」「ボムショット!」


戦闘班の精鋭たちの渾身の武技が炸裂する。辺りにグランドラゴンの攻撃並みの衝撃が走りそれに伴い発生した土煙に思わず視界を遮られる冒険者一同。


土煙が収まると呆然と立ち尽くすグランドラゴンの姿があった。ついにやったのか…皆に緊張が走る。異様な静けさだ。倒したのかそうでないのか、白黒はっきりつかないこの状況のなかかつてないほどの緊張はとてももどかしく警戒することしかできなかった。


「…やったのか?」


「いえ…おそらくはまだです。何か嫌な予感が…」


アイリスの予感は今まで何度か的中している。確かに攻撃を喰らったまま微動だに動かないグランドラゴン。何かがおかしいという事には間違いないのだろうが、その異変にまだこの場にいる誰も気づいてはいなかった。


「なぜ奴は動かない…」


「ルード何か変よ。」


「あぁ、分かっている。」


ルードは内心不安に駆られていた。渾身の武技を放ちかなりのダメージを与えたはずなのに、当ててみればその場を動かなくなるだけ、仲間内に石化魔法や痺れ魔法が使える者はいない。


では何故奴は何人たりともその場を動かない。普通なら向きになって攻撃を仕掛けてくるのが筋のはず。なにかがおかしい。


人以上の知能を備えると言われる龍なら、何かしらの策合ってことなのか…未だその謎は解けづにいたのだがようやく小さな異変に気が付く。


「ん!?…小石が揺れている…地震…いやこれは!?」


ルードはその場に起こる異変にいち早く気が付いた。皆に伝えねばそう思っていた。いまなら回避する術があるはずだと。だがしかし時すでに遅し、小さな異変とは言ってもそれは予兆だ。


もう何かが来ると言う合図なのだ。グランドラゴンは手を打っていたのだ。まず目障りな目の前の蛆虫どもを消す手立てを…


「グウォォォ!!」


グランドラゴンの咆哮と共に地面が揺れ始め、空気振動のように不況和音が響き渡り、体がだるく重く感じる。中隊程度の冒険者たちが一堂に地面にうずくまる。

まるで体に何十キロと重りをつけられたように体が重く、手足はおろか首も指すらも、体の何一つ動かすことができない。いったいこれは何なのか、クエイクとはまた違った重圧感これはまさか…!


「くぅ…こ、これは…重力魔法(グラビティ)…か…!」



ルードが口にした。重力魔法(グラビティ)は文字道理この星に等しくかかる重力を意のままに操る魔法だ。この世で禁忌とされる魔法の一つに入る重力魔法はその強大な力と、一度の使用に消費するマナの量から、魔法を心得る者には禁忌とされる魔法だ。


しかし悠久の時を生き蓄積されたマナの量が計り知れない龍にはさほど苦ではない。逆にできて当たり前なのかもしれない。


だがこれだけで終わるほど龍は甘くはない。次の一手を打って出ていた。


「…おいあれは…」


戦闘班の一人が何かに気が付く。それは龍の口元に先ほどと似たエネルギー体が集まりつつあった。しかし今度は全体的に赤黒く、マグマを集めたような見た目だった。もしこの攻撃が戦闘班に直撃したらまず助かることはないだろう。


このまま目の前で誰かが死ぬのを見ている事しかできないのか?強大な力の前に誰もが恐怖にかられその場から動くことはない。このままただ傍観者になりはてるのか?


怖い、確かに怖い。たった一人でこの窮地に突っ込むのは無謀としか言いようがない。しかしこのままじっと傍観者気取りはごめんだと動き出そうとする真琴。



「…なんでだ…体が震えて、動けねぇ…」



(俺は誓ったんじゃないのか?変わるんじゃないのか?仲間を守れるそんな自分に…結局は綺麗ごとだけを垂れ流していただけなんじゃないのか…違うと思うなら動けよ俺の体!ただ突っ立てるだけじゃなくて前に踏み出せよ!)



すると何かに背を押されるように真琴は谷底に転落する。それは神のいたずらか、一陣の風が真琴の背を押した。これを吉とみるか凶とみるのかは彼次第だが吉とみる方が俄然ついている。グランドラゴンはエネルギーの集中と重力魔法の併用に一切周りが見えていない。



谷底に落下する真琴になど気づきやしない。これは好機だ無警戒の状態から攻撃を与えられるのはそうあることではない。背後にはこれでもかと隙があるそこを今この場で突くしかない!あとは真琴の思い次第…



(…何故だか分からないが、体は谷の間に…この瞬間しかルード達を助ける時間はない。俺にできる事…決意を…仲間を守り抜く決意を剣に託すだけ!俺にできるのはそれだけだ!)



「はぁァァァァぁッ!!」



真琴の決意に答え短剣は長剣(ロングソード)へと姿を変える。思いを糧に力を増大させる剣…それが真琴の持つ魂霊剣(ソウルブレード)。真琴の大いなる決意が剣に力を宿す。



あとはグランドラゴンにこの力を突き立て、ルード達を救う番だ。真琴の思い乗せた剣はグランドラゴンの硬い外殻を背負う背中に突き刺さる。辺りに衝撃波を散らすほどの威力に流石のグランドラゴンも空を見上げ天高く凝縮されたエネルギーをブレスとして解き放つ。



その威力は雲を軽々と分裂させるほどの威力。そして遥か上空で途轍(とてつ)もない爆炎を発生させ、その余波が地上でも感じられるほどにあのエネルギーの集合体は恐るべき代物だったらしい。仮にこの場に放っていたなら、この場にいる全員はおろか、山一つ消し去ることができたかもしれない。これが龍の本気なのだろう。



「…ルード!ぼさっとしてないで今だ!もういっちょ武技をお見舞いしてやれ!」


依然と剣をグランドラゴンの背に突き刺す真琴に後れを取るまいと、戦闘班はもう一度一斉攻撃を仕掛ける。


「奴に後れを取るな!我々の意地を龍に思い知らせてやろうぞ!」


そう号令を放つやいなや、戦闘班はすぐさま行動で示す。先ほどと同様に各々が武技を放つ!全弾グランドラゴンに直撃する。何より先ほどよりも手ごたえがあり、予想以上にグランドラゴンは痛みを感じているようだ。


つまりグランドラゴンも限界が近いという事、もう一押しでこの戦いは終わる。誰もがそう確信していた。この機会は逃すまいと谷の上にいるアイリスは動き出そうとしていたが。


その3に続きます。

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