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zero×騎士  作者: 朧月 燐嶺
第2章 覚醒
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迫る脅威 その2

 そんなことを微塵も窺わない真琴は、そそくさと宿屋へ戻り準備を始めた。


「必要なものはこれで全部かな」


「えぇ、これだけあれば十分でしょう」


 持ち物はポーション、クエスト完了を知らせる発煙筒、岩場から引き釣り出すのに使う音爆弾、そして有事の際逃走用に使う閃光弾の計四つのアイテムだ。

 クエスト場所はここからさほど遠くもない南西のペタ―平原を越えたディーン山脈の麓の岩場だ。ロックリザードは岩を主食にするモンスターらしく、近縁種にはダイヤモンドを主食とするカテゴリーBのダイヤリザードもいたりするとか、今回の目標はごく普通のロックリザード今の真琴たちには軽いクエストのはずなのだが、よもやアイリスの感が当たるとは今の真琴は思いもしていなかった。


「ここらへんだよなロックリザードが現れるって場所は」


「えぇ、この辺のはずですが妙ですね…」


「とりあえず辺りを散策してみよう」


「はい、わかりました」


 二人は辺りを散策するが一向にロックリザードが見つかることはなかった。それはおろか他の群生する動物やモンスタ―すら見かけることは一切なかった。ただ岩場には異様な静けさだけが木霊(こだま)するばかり、真琴はようやく何かおかしいと思い始めていた。そんなときアイリスが岩の影に何かが(うごめ)くのを確認した。


「真琴君あれ。」


「何かいるのか、行ってみよう」


 二人は駆け足で岩陰へ向かう、そこにはロックリザードの死体?が遺棄(いき)されていた。


「これはひどい…」


「全身傷だらけじゃないか…いったい誰が…?」


 ロックリザードの死体は全身にひどい傷を覆っていた。至る所に裂傷が見え、特徴的な背中の外殻は砕け散っている。

 腕利きの冒険者の仕業なのか、それとも圧倒的強者が弱者をねじ伏せたのだろうか、何にせよこの死体とこの岩場の静けさにはなにか関係があるはずだと二人は睨んでいた。


「このことをギルドに報告しましょう。かなりの強敵がいると思われますし」


 アイリスの判断は冷静だった。自然と生きる民だからこその忠告なのだろう。ここは引くのが無難だと真琴も承諾した。


「わかった、ひとまずギルドへ戻ろう。この異常な状況を報告しないと」


 二人がロックリザードの死体?そばからの離れようとすると、突然死んでいると思っていたロックリザードが勢いよく起き上がり、二人に襲い掛かろうとする。


「まずい!」


 その瞬間、閃光の如くロックリザードに襲い掛かる影が見えた。瞬きの瞬間に視界からロックリザードは消え近くの壁面に大きな衝撃が走り、同時に巨大な衝撃音が鳴り響く。なにかなにかと、その壁面の方向を向くがあまりの衝撃に土煙を巻き上げはっきりと姿は確認できなかった。少しづつ土煙が解け視界が安定しだすと、その猛々しい姿に唖然とする。


「あれはなんだ…ロックリザードなのか?」


「えぇ、確かにロックリザードですが、まさか…こんな所で遭遇するなんて…」


「いったい何なんだよ…」


「あれは…歴戦種です」


「歴戦種…!」


 真琴もその言葉と奴の容姿を見ておののいた。歴戦種、それは数ある個体の中でも、縄張り争いや闘争により傷を負いながらも勝ち続けてきた歴戦のモンスターに与えられる異名、それが歴戦である。


「でも、その歴戦種が今ここに?」


「それは分かりませんが、私が言えるのは歴戦種より強いモンスターの存在が影響で、歴戦種が住処から追いやられた。そして地上へ出た歴戦種が原因で他の生物が姿を現さないという事です。」


「て、事はだ。こいつを止めないといけないという事だな…」


「無茶です!いくらロックリザードとは言っても歴戦種です。カテゴリーはCいや、Bにも相当するでしょう。私たちでは力不足です!それに先ほどと言動が違いすぎます!」


「たしかに、そうかもな…けどこいつがここを離れ街に来たらそれこそ危機だ。ここは何としても食い止めるべきだと思う。」


「む…確かに一理あります。」


 アイリスは少し不満があったようだ。確かにアイリスの言うことは正しい、しかし前のゴーレムの件同様に街に来ないという事はまずないだろう。それに万一街に襲来したばわい被害が甚大になるのは必然ともいえよう。ならばここで少しでもダメージを与え進行を遅らせるのがいいだろうしあわよくば討伐ができれば至れり尽くせりだ。


「それでなにか作戦が?」


「ない。とりあえず戦って考えるしかない。」


「だったらなおさら逃げた方が…」


「そうもいかないみたいだぜ…」


 どうやら向こうは次の標的を真琴たちに定めたようだ。最早戦うしか選択肢はなさそうだ。


「はぁ~、あなたといるとこうもピンチに巻き込まれるなんて、もう後戻りはできませんね!」


「やっとやる気なった。よし行くぞ!」


 いざ真琴、アイリス対ロックリザード歴戦種による戦いが始まった。まず先に仕掛けたのは真琴だった。


「先制は貰った!」


 しかし、その厚い外殻に容易く刃は受け止められる。魂霊剣であっても立つことができないほどにその外殻は固い、打つ手はあるのだろうか。


「くッ…硬い!」


「真琴君引いて、次は私が!」


「あぁ。」


 アイリスに指示され真琴は後退する。アイリスは何やら剣に呪文を唱えていた。細剣の細い剣身に揺らめく炎を纏う、そして閃光の如く一閃を与える。更に剣身に付与した炎はさざめく風の刃へと変わる。同時に目視できな程の速度で連続的に標的を切りるける。攻撃はこれで終わりに思えたがまだ終わりではなかった。


「これで最後よ!」


 今度は先ほど発動した風と炎を合わせた。風という風力源を得た炎は燃え盛る烈火の炎へと変貌を遂げる。烈火の剣は今までの素早さという名の(あで)やかさ捨て、力という名の豪快さへと心機一転切り替わる。上空へ高く飛び剣身に集った烈火の炎を急降下と共に一気に解き放った。その威力は小さな爆炎を生み出すほどの高密度の炎の集合体。まさかこれほどまでにアイリスが力を秘匿していたとは思いにもよらなかった。


「す…すげぇ」


 真琴からは小学生と同等の感想しか出なかった。アイリスは颯爽と戻って来た。最後に髪を撫でおろした姿はまさに凛々しく同時に尊敬しなおしたのだ。今までは自分が守らないといけないそう思うようになっていた真琴だったがどうも今の状況を見てその逆が今の現状だと理解する。


「アイリス…今のなんだよスゲーな!」


「ざっとこんなものです。」


「というか今の技なんだよすごすぎだろ!」


「まぁ…加護と剣のちょっとした応用です。元々の私のエレメントである風と、この剣に秘められた火属性を使ったまでのことです」


 もはやそれ程の技を見せられると、実力差は相当の物だと思い知らされるのだが、今は触れないでおこう。


「それよりも、まさか一人で歴戦種を倒すなんて、やっぱり…これからは師匠と呼ばせてください!」


「却下です!それにあなたの両手剣…あの絶大な力と比べたらこの程度の技、どうという事はありません」


「またまた行ってくれちゃってぇ~」


 その時急に地鳴りが二人を襲う。


「なんだ!?」


 ロックリザード歴戦種はアイリスの連撃を食らってもまだ倒れる様子はなく、自身に降り積もった砂や岩を跳ね除け、クエイクという技を繰り出した。地鳴りは次第に強さを増し、しゃがんでいるのがいるのがやっとといったところだった。


「くそ…動けねぇ」


「これは…キツイ。」


 二人は苦しんだ。同様にアイリスの攻撃をもろに食らったロックリザード歴戦種も痛みに(もだ)えクエイクを発動している。腕からは出血をし外殻は焼(ただ)れている。二人はもう限界だと地面に倒れる寸前だった。そんなとき決して予想だにしなかった出来事が待ち受ける。

 地震は止んだ。しかし二人はまだ立つことができない。相当あの地震が答えたのだろう。


 しかし非常にもロックリザード歴戦種は待ってくれない。次の一手に出始めていた。口を大きく開くと、そこに鋼色の粒子が集まり始め球体を形成し始めた。メタルカノン、土と火二つの属性を合わせた技だ。現在クエイクの効果で動けない二人はメタルカノンをよける術はない。最早万事休すか、そう思い瞳を閉じると、真琴たちより先にロックリザード歴戦種の方で着弾音が聞こえた。


「いったい何が!」


 突然目の前のロックリザードが視界から消えた。いったい何が起こったのかわからなかった。誰かの支援なのか、しかしロックリザードはまだ生きている。これは好機と真琴は立ち上がろうと全身に力を込めた時だった。頭上を巨大な何かが通り過ぎる影が見えた。その直後に地鳴りを起こすほどの巨体が地面に着地したのだ。


「で、でけぇ…」


 言葉が詰まるほどの巨体に真琴は唖然とする。全身は岩肌のようにゴツゴツとしていて四肢があり長いしっぽが垂れ下がり、背中には折りたたんでいるが翼がある。このシルエットでいやでも理解した。(ドラゴン)だ…この世界に来て初めて目撃する(ドラゴン)。アイリスの攻撃を食らっても平然としていたロックリザードが今は立つことがやっとといったような瀕死に近い状態だった。ロックリザードは(ドラゴン)を睨み威嚇する。そんなさなかアイリスが、くぐもった声で何かを言っていた。


「そんな…あれは…グランドラゴン…」


「グランドラゴン?」


「はい…グランドラゴンはカテゴリーAロックリザードに勝ち目などありません…」


「カテゴリーAだって…!?」


 カテゴリーA、それはギルドが定めたモンスターの強さをS~Eにまで分けた。位の二番目なのだが、カテゴリーSは伝説や逸話の類でしか記されない。そのため実質的な最強クラスというわけだ。


「これはまずいです…」


 アイリスは最悪の状況を想定していた。もしこの場で戦闘になればまず勝ち目はない。しかし逃げれる確率もそう高くはない。いまやっと胸の突っかかりの正体がこの(ドラゴン)なのだとアイリスは理解した。時季外れのロックリザードの出現、それよりも屈強な歴戦種の出現により閑散とする岩場、その又後ろには更なる強者であるグランドラゴンが歴戦種を住処から追いやった。これが事の顛末だろう。


「くそ…どうしたら…?」


 真琴も薄々気づいていた。グランドラゴンからにじみ出るオーラが桁違いの強さであると、流石にこれ程の相手に出しゃばる真似はできなかった。


「動かないで…じっと待ちましょう」


 ここはアイリスの指示に従うことにした。額から汗が流れ落ちるのを感じる。固唾を飲んでその場に踏みとどまる。そしてロックリザードの首元を一嚙みするとあえなく力尽きる。次にグランドラゴンはゆっくりとこちらを向いた。しばしこちらを凝視し続ける様を二人はじっと見ている事しかできなかった。このままグランドラゴンにやられるのか二人は死すら覚悟した。だが…


「あれ…」


 グランドラゴンは翼を広げ真琴たちの元を去って行ったのだ。


「た、助かったのか…」


「そのようですね…」


 九死に一生を得た二人、しかしそううかうかとしてはいられなかった。


「にしても奴はなぜ俺たちをやらなかったんだ?」


「おそらくは、取るに足らないと判断したのでしょう」


 差し詰めアイリスの言うことで間違いないだろう。強者故の余韻、取るに足らぬ相手をしても意味がないとそういう腹なのだろう。

 まずはこの事をギルドへ連絡することが大事だろう、念のためロックリザードの死体を確認する。外殻はボロボロでこの状態でよく立っていられたと称賛したくなるほどのタフさだ。真琴はギルドから支給された発煙筒を使用した。


「これでとりあえずクエストは完了。そして一刻もはやくグランドラゴンのことを報告しないとな」


「えぇ、この件が大事にならないといいのですが…」


 程なくしてギルドからの、使いがきた。ロックリザードの死体を回収し、街へと返った。そしてすぐさまギルドマスターにグランドラゴンの事やことの顛末を説明した。


「なるほど…これはかなり深刻な問題だな。」


「といいますと?」


「ディーン山脈の麓の岩場は商人たちのルートでもある。そこに出没するとなれば甚大な被害が出る。この街にも商人たちにも…」


「じゃぁ、どうすれば…?」


 ギルドマスターは暗い表情を窺わせ話し出す。


「…ひとまず討伐体を派遣する。そしてこのことを近くの街や商人に伝えるのじゃ。迂闊に近づいてはならんとな…」


「ですがそれでは根本的な解決にはならないのでは?」


 鋭い質問だ。アイリスの言う通り、ギルドマスターの提示した策案で、この現況を拭い去ることはできない。では何故そのような策を提示したのだろうか?


「…わかっておる。だが今のままでは龍になど到底かなわぬ。まずはできることからだ。奴の様子を窺い、被害を最小に抑えつつ、奴を打つ手立てを考える。」


 とても利口な考えだ。下手に戦力を投入して負ければその分だけどんどん勝率を低くするもの、できるだけの注意喚起を促し、ときを待つ。

 しぶしぶ二人はギルドマスターの意向に従い。その時が来るのを待つのだった。





次回へ続く。

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