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zero×騎士  作者: 朧月 燐嶺
第2章 覚醒
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第30話 迫る脅威

 今日はこちらの世界にきて初めてワクワクしている。ゲームでは当たり前のクエストを初めてこなせるんだから、胸が高鳴らないはずはない。ここから俺の新たな冒険が始まるんだ。そう粋がっていられるのは最初だけだった。何故なら…


「なんでどれも薬草採取ばっかりなんだよ!」


 彼、神宮寺 真琴の初めてのクエストは薬草採取とごく平凡なものだった。それもそのはず真琴は駆け出し冒険者、ギルドに加入したのはつい昨日のこと、それでいきなりハイランクのクエストが受けれるなど馬のいい話があるはずもない。最初は下積みを重ねるそれが冒険者の歩む第一歩なのだ。


「たく、こうも薬草採取のクエストしかないと萎えるなぁ~」


「まぁ、そんなに気を落とさないでください。このクエスト一回分で宿代は稼げますし、数十個ほど受けましたからそれなりの利益にもなります。」


「だけどさー、やるからには討伐クエストとかしたいよ。」


「まだまだ腕はへっぽこなのに大口叩けますね」


「うるさいやい…」


「文句があるなら口ではなく手を動かして誠意を示してください真琴君。目標まであともう少しですから」


「はいよ。こんなクエストとっとと終わらせちまうかな」


 それから二人は黙々と薬草を集め始めた。それから半刻過ぎたほどに依頼分の薬草をすべて集め終わった。数にして二百、乱獲ともとれるほどの数ではあるが依頼をこなすのがギルドに身置く物の定め、環境的配慮があるならこんなに多く薬草採取のクエストをよこすことは無いはずだ。二人は足早にギルドへ帰還し納品を済ませた。


「ふぅ~終わったぁ…」


「えぇ、終わりましたね。もうお昼を回っていますしどこかで昼食と行きましょう」


「そうだな」


 二人はギルドのすぐ近くに立ち並ぶ店を回った。そして昼時込み合うなかすこし好いている店に入店することにした。そこは純喫茶ちょうの生かしたカフェだった。とりあえず開いていた窓際の開いている席に座りメニューを確認した。


「おぉ…」


 真琴の顔は曇っていった。やはりこの世界の文字は読めない。言葉に関してはガヴィルが与えた唯一の恩恵によりこの世界の言葉が真琴に馴染みのある日本語に変化されているから言葉は理解できるそうだ。逆に真琴がその国の言葉を話せているように装えているのもその恩恵のおかげで、書きだされた文字はまるで読めない。そんな状況を見てアイリスがメニューに書いてあるものを一つずつ説明する。


「これは、子羊のサンドで…こちらは山岳魚のムニエルです。他にもパスタとかありますが何か食べたいものがありますが?」


 そう言われてもあまり実感の湧かない真琴だった。


「その…ミートスパってある?」


「ミートスパ…ミートスパゲティーのことですか…でしたら、この仔牛の赤ワイン煮パスタや、粗挽きポークスパなどが良いかと」


 正直そこまでおしゃれな名前の付いた食べ物を一度も口にしたことがない真琴だった。ここは無難に攻めることにした。


「じゃぁ、粗挽きポークスパで頼む。」


「わかりました。次は飲み物ですが…」


「え?それで決まりじゃ?」


「はい?飲み物を頼まないとお口直しができませんよ。」


「いやいや、水が来るはずだろ?普通は…」


 真琴の当たり前の発言にアイリスは驚いた素振りを見せていた。


「あなたがいた世界はよほどしっかりしていたんですね…お店に入れば勝手にお水が運ばれてくるなんてこっちでは貴族の世界での話ですし」


「なんかごめん…」


「いえ、真琴君が謝る必要なんてありません。違う世界の者なら文化が異なるのは当たり前ですから、それより飲み物はなににします?」


「とりあえず水でいいかな」


「わかりました。」


 アイリスはそのあとすぐに店員を呼び二人分の注文を済ませた。


「ところでさ、この後ってなにか用事とかってあるのか?」


「いえ何もありませんが…」


「今日は依頼が早く済んだし、剣の手ほどきを受けたいと思ってな」


「そうですね…時間を有効的に使えますし、鍛錬は大切なのでこの後は稽古と行きましょう。」


「あぁ、ありがとう」


 真琴はアイリスに剣の稽古を付けてもらうことを承諾してもらった。そしてタイミングよく注文していた料理が運ばれてきた。


「おぉ、うまそう!いただきます」


 真琴は両手を合わせ合掌しフォークを手に取り無我夢中で口に頬張る。その光景をみたアイリスは少し不思議そうな顔だった。


「どうしたんだと?食べないのか。」


「いえ、前から気になっていたんですがその、いただきます?とはどういう意味なのかと疑問に思っていたんです」


 ここで本日、二回目のカルチャーショックを味わう。


「あぁ、いただきますって言うのは、食材への感謝の気持ちを込めた言葉なんだ。食後には同様のごちそう様って言うんだ。」


「それに何の意味があるんですか?」


「意味としては、食材になる前の動物や植物の命をいただくから、俺たちが生きるためには肉だったり魚だったり野菜だったりを食さないといけない。その過程で奪った命に対しての祈りを込めて感謝を送るんだ。まぁ、俺はあくまで食べる合図としか考えたことはなったけどね」


「その行い素晴らしいですね。命に感謝を捧げる…この辺りではあまり見かけませんが、その心意気はとても気に入りました。そのいただきますと言う行いは私もしてよろしんでしょうか?」


「食べ物に感謝の気持ちがあるなら誰だってしてもいいし、そこにましてや人種なんて関係ないよ。」


「そうですか…では、いただきます」


 そうして二人は昼食のひと時を楽しんだ。そして食後に二人で手を合わせ。


「「ごちそうさまでした」」


 料理に感謝の意を込める。


「少し、休憩してから、草原に出てみましょう。」


「そうだな」


 しばし食後の休憩を取った。食事の後の急な運動は体にあまりよくない。およそ三十分程度の休憩を終え二人はペタ―平原に来ていた。


「風が気持ちいなぁ~」


「えぇ、微風(そよかぜ)が肌に触れるこの感覚はすがすがしいです。」


「それじゃ、まずは手合わせ願おうか!」


 真琴は鞘から剣を抜く、意気揚々とアイリスを待ち構える。


「じゃ遠慮なくいきますよ…とその前に剣をしまってください」


「なんでだ?」


「できるものなら、真剣を用いて試合はしたいのですが、基本が疎かな真琴君にはこれで充分です」


 そう言ってアイリスは真琴に何かを投げつけた。


「おっと、なんだよ!…これって木刀じゃないか」


 そう真琴に渡されたのは木でできた木刀ならぬ、木剣だ。


「これで戦うのか?」


「ええ、いまの貴方と試合うならこれで充分です」


「言ってくれるな!目にもの見せてやる!」


 数分後~


「はぁ…はぁ、はぁもう駄目だ。一歩も動けねぇ!」


「やはり対人戦となるとこの程度ですか…」


「にしても、一振りも剣が当たらないなんて、さすがアイリスだな」


「ほめても何も出ませんよ。単に真琴君の剣が直線すぎるんです。」


「どういうことだ?」


 真琴はさっぱりわからないといった表情だった。仕方ないようにアイリスは説明する。


「つまり動きが読みやすいという事です。もっとわかりやすく言うと単純馬鹿といったところですかね」


「おう言ってくれるじゃないか」


「真っ向から突っ込むのは嫌いじゃありません。ですが戦いにおいて動きが単調なのはお粗末にも餌食になります。ですからもっと相手の動きをみて先を読んで剣を振るうんです」


「相手の動きを読むね…口では言うのは簡単だけどそれって結構むずかしいぞ」


「そうです、だからこそ日々鍛錬するんですよ」


「そうだな」


 納得せざる終えなかった、真琴は剣の天才でも申し子でもない、ただの凡人だ。ならいかに腕を磨くかそれはたゆまない努力しかないのだ。自分から進んで剣の道を選んだのだ泣き言などいえるわけもなかった。


「そうと決まればまずは基礎からですね、まずは剣を振るところから、そうなれば素振りです!」


「わかった」


 真琴は木剣を構えた。しかしその姿勢はいかにも素人といった構えだった。


「しっかり腰を入れて!そしてもっと脇を占める!」


「はい。」


「ではテンポよく、はい!…1、2、3、4…」


「1、2、3、4…」


「その調子で、テンポに合わせて一歩進んで一歩下がる。その繰り返しです!」


「わかった。」


 真琴はアイリスの言ったとおりに剣を振り続けた。


「なぁ、いつまで降り続ければいいんだ?」


「私がいいというまでです。」


 仕方なく真琴はアイリスの合図が出るまで剣を振り続けた。それから半刻ほど過ぎたころにやっと合図が出された。


「そこまで!」


「だぁぁぁ、終わったぁ~」


「お疲れ様です。少し休憩したら次に行きますよ」


「え!?ほかにもまだあるの?」


「当たり前です。あのくらいは肩慣らし程度です」


 真琴はアイリスのスパルタ教育を身をもって体験するのだった。この後すぐに更なるトレーニングへといそしんだ。今度は横切り、木剣を左右に振り続ける。


「剣を振る際脇を開かずにしっかりと占めて!」


 何度となくダメ出しを受けながら基本を体に叩き込んでいく、横振りが終われば今度は斜め、袈裟切だ。先ほどと同様にこれも半刻ほど実施した。そして今度は今までやった事を含め動きを入れたトレーニングへと移った。基本の三つを織り交ぜながら、一人見えぬ相手と舞う。


 真琴にとっては目の前に相手を思い浮べ組み手を行うかのように木剣を振るう、しかしそれはただ空を切るだけ、しかしその行動にこそ意味があるのだが、真琴はまだ気づいてはいない。


「ぁぁ…はぁ…はぁ…、なんでだれと戦ってるわけでもないのにこんなに疲れるんだ…はぁ…」


「それが今回の狙いなんですよ真琴君。」


「え?いったいどういう事なんだ。俺にはさっぱりだ」


「空を切るってどんなどんな気持ちですか?」


「どういうって…」


 突然投げかけられた質問に戸惑う。


「…単純に何も無いものを切っている感じかな、敵なんてそこにいないのに、いるような気がして我武者羅に切っても切ってもきりのない感じかな…」


「まさにその通りですね、素振りや空を切ると言いた行為にはしっかりとした意味があるんです。何か獲物を切った際ある程度の間隔で力加減が分かりますが、何もないもの切るってつい力んでしまうものなんです。だから余計な力がかかってすぐに疲れてしまう…ここまで言えばわかりませんか?」


「そうか…俺はまだ変に固まってんだな、その分無駄な体力を使っていると」


「正解です。真琴君はまだ力の制御がうまくいっていない。だからこそ基本を学び自分の悪い点に気付く必要があった。私はあくまでその手助けをしただけです。」


「そうだったのか…ありがとう」


 真琴はアイリスに対して深く頭を下げた。


「頭を上げてください。私は真琴君の剣の修行に付き合うそう決めただけですから」


「本当にありがとう。ならさっそく次も頼む!」


「わかりましたと言いたいところですが…もう夕暮れ時ですし今日はこの辺にしましょう。」


「そっかぁ~もうこんな時間だったのか」


 真琴は午後から時間さえ忘れるほど剣に明け暮れていたのだった。


「それじゃ今日は帰ろう。明日もクエストはこなさないといけないしな」


「ええ、今晩は早く寝ないとですね」


 二人は宿のある、街へと返っていったのだった。そしてあくる日も午前はクエストをこなし、残った時間で素振りとアイリスとの組手を繰り返していった。時にはE級モンスターを討伐しながら着々と真琴は腕を磨いていった。そして…


「きゃぁ!」


 アイリスの剣が宙を舞い、地面に刺さる。


「よっしゃ!」


 あれから一週間が経過していた。真琴は遂に組手でアイリスに及ぶまでに成長していた。しかしそれはあくまで短剣時の場合であって、時折変化する両手剣はほとんど訓練ができていない状況だった。


「まさか、私が撃ち負けるなんて成長しましたね真琴君」


「あぁ、おかげさまでな。でもまだ本気じゃないんだろ?」


「おや、気づいていましたか」


「まぁ、手合わせすれば何となくね」


「私と本気で試合うのは両手剣(ロングソード)を使いこなせてからです。」


 まさにその通りと納得する真琴。


「おっしゃる通りで」


「さて朝の稽古はこれまでにしてギルドに行きましょう」


「そうだな」


 二人はギルドへむかうのだった。街の活気は未だ衰える気配はない。聞くところによるとこの街は商人の通り道…貿易路になっているらしい。そのため年中このような活気づいているのだとか、さて真琴たちはギルドにたどり着いたようだ。いつものようにクエストの掲示板を確認する。


「ん~やっぱり薬草採取や、小物の討伐が多いいなぁ」


「真琴君これって…」


「なになに…ロックリザードの討伐、聞いたことないな、そんなモンスター」


「ロックリザードは主に岩場に生息する中型の爬虫類モンスターです。しかし妙ですね今の時期は巣穴から出てこないはずなのですが…」


「なんにせよそこに依頼があるなら受けるだけだろ?」


「えぇ、そうですね」


 アイリスはなにか特借があったようだが、そのことは今のところ伏せておくことにした。


「よし、申請は完了したしさっそく行くとするか…」


「そうですね…」


 クエスト内容はこうだ。ロックリザードの討伐、単純明快で分かりやすい内容なのだが、ロックリザードはカテゴリーDに属し、並みの冒険者なら討伐できてしまう。しかしこの程度のモンスターなら駆け出しやいっぱしの冒険者を多く抱えるこのギルドなら既に他のパーティに取られていてもおかしくは無いはず、ただの見過ごしからの幸運かはたまた災いごとへの悪運なのか、アイリスは何かが引っ掛かっていた。

その2へ続く…

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