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zero×騎士  作者: 朧月 燐嶺
第2章 覚醒
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ギルド その2

 真琴も少し言い過ぎたとは思ったが、どうにも感情的なってしまい気持ちの制御がうまくいってなかった。そこに受付嬢が割って入る。


「真琴様は何か大切なものを…例えば守るべき者とか、国に残して来たりしているんですか?」


 その問いにふと考えを寄せる。

(俺は…なにか向こうの世界で誇れるものなんてあるのか?)

 考えてみるが、受付嬢の言う守るべきものや大切なものなんてなかった。


 待っているのは孤独や嫉妬だけだ。変にかっこつけて自分から孤立してしまった真琴、人との関わり合いを持たず、ただ孤独を埋めるためゲームに時間を費やし、その世界でも次第に疎遠になって気づけば一人になっている。その世界に真琴は一秒でも早く帰りたいのか初めて疑問に思った。


「真琴君?」


「!?」


 アイリスに名前を呼ばれ、考えに老け込んでいたことに気付かされる。初めて現実と向き合ったように真琴は感じていた。今立っているこの世界は紛れもない現実で、元の世界でまともな生き方もしなかった真琴が必死になって生きている。


 元の世界に戻る…それは目標としてあっても構わない、いずれにせよ元の世界に戻ることになるのであろう。

 断定はできないが、今この瞬間、呼吸をして生を感じられるこの世界が今の現実であり、ガヴィルが真琴に言った世界が必要としている…という事も、この世界が彼を必要とし使命を与えているのかもしれない。


 魂霊剣(ソウルブレード)や今回の真琴に与えられた役職もすべてが、真琴のその世界での役割の提示…お告げだったのかもしれない。なんにせよ今は事実を真摯(しんし)に受け止め、きつく当たったことをアイリスに謝らなけらばと思った。


「アイリス。さっきは強く言い過ぎたごめん。俺は思ったんだ、元の世界に戻ることだけを必死になって願ってんだって…それって自分勝手で傲慢な考えだと気づいたよ。本当にごめん」


「い、いえ。私もつまらないことを言ったと反省してますしお相子という事で…」


 ひとまずアイリスに感謝の念を心より送った。


「初めからパーティ解散の危機が逃れてよかったです。てッ!!そんなことより、一大事ですよ一大事!」


「「?」」


 二人して頭を傾げた。受付嬢はてんやわんやといった感じであたふたとしている。


「…とりあえずマスターのところへ!」


 そう言って受付カウンタ―から大急ぎでギルドマスターのいる部屋へと向かった。しばらくして落ち着いた様子で受付嬢が戻って来た。後ろにギルドマスターもいるようだ。



「…え~まずは、真琴様。一応正式にギルドへのご登録は完了とさせていただきます。アイリス様も同じく完了とします。ですが真琴様、ギルドマスターと一緒に奥の部屋まで向かってください。」


「あの…私は?」


 アイリスが受付嬢に尋ねる。


「申し上げにくいのですがアイリス様は…」


「構わん一緒にきたまえ」


 ギルドマスターについていき奥の部屋へと着いた。


「まぁ、お掛けなさい。」


「「はい」」


 二人は言われたとおりに席に着く。少しの間、無言の状態が続き、緊張からか心臓の高鳴りがひときわ感じられた。


「真琴くんよ、単刀直入に言おう。君はこの世界の者ではないな?」


「!?…」


 初発から確信を付く質問だった。それに思わず面を食らってしまう。


「どうなんだ、神宮寺 真琴くん?」


 答えるべきかそうでないのか、返答に困った。


「あの…不躾(ぶしつけ)な質問は失礼だと思います。」


「すまん。こちらも確かめたくてな、少し強情だったか…改めて聞こう真琴くん。君はこの世界の者…つまり混血種(リジンヌ)ではなく純血の人間だな?」


 そこまで的を射た質問…いや回答は最早隠すすべがないと真琴は思い観念したように口を開いた。


「はい。ギルドマスター、あなたの言うように俺はこの世界の人間……者ではありません。それにこの世界には存在しないはずの純血の人間です」



「そうか…真琴くんよ、訂正は要らぬ。血は混じえどこの世界では混血種(リジンヌ)も人間だ。他種族との幾年にも渡る血の混じり合いで我々にも印がくまれた。しかし君には聖痕(せいこん)がないと聞いた。」


「はい。」


 真琴は左袖をまくり腕の全体を見せた。


「確かに……どこにも聖痕が見当たらない…」

「あの……ギルドマスター、あなたはさっき誰かに聞いたのようにおっしゃたのですが、いったい誰からです?」


 ギルドマスターは驚いた表情を見せた。するといきなり笑い声を上げ答えた。

「はっはははッ! 君は噂通り鋭い観察力を持った子だ。情報提供者は、アイリス君の村の村長さ」


「え!?」


 アイリスは驚いているようだ。真琴も同じく驚いていた。


「実は彼とは昔の馴染みでな、儂の所に手紙が届いて、いずれ君たちが此処に来ると記されておった。」


「長老はこの事を予期していたのですか!?」


 アイリスが驚いたように聞き返す。


「あぁ…あやつは昔っからそういった感覚が鋭くてなぁ、儂のギルドに訪れる事も予め知り手紙を寄越したらしい。」


 あの長老にそんな力があったとは真琴は知りもせず驚くばかりであった。


「まぁ、なんにせよ。二人は儂が責任を持つ、これからなんの気兼ねなくクエストをこなしてくれ。もし他の管轄のギルドでクエストを受けたければ、そのギルドの受付嬢にギルドマスターに儂の管轄のギルドから来たと伝えるよう言うのじゃ、そうすればお主の正体も隠せる。」


「…この世界で俺が人間である事は、隠さなければいけないことなんですか?」


 ギルドマスターは少し黙り込み渋々と言った感じに話し出す。


「…この世界では、既に純血の人間はいない。異界からの使者など、この世界民は信じてもくれん。それに純血の人間がいては都合が悪いと思う者も少なからずおる……悲しい事だが、身の安全の為にも伏せて置いた方がいいと儂は思う。」


 真琴はなぜそこまで自分たちを勝ってくれるのか不思議だった。


「…失礼かもしれませんが、何故俺の事情をそこまで組んでくれるんですか?」


 ギルドマスターは少しニヤけた顔をした。そして赤裸々に語りだした。


「…あやつの予言?見たなものもあるが、異界より来た者がこの世界をどう変えるのか儂は見てみたいのだ。真琴君、君は選ばれし者……この世界には無き新たな旋風を巻き起こす客人(まれびと)と儂は思っておる。今の世はどうにもおかしな世の中になりつつある。新王に変わってからの徴収制作、獣の両国での戦争。他種族での反発。魔王軍と名乗るものの出現…この淀んだ世界を君は、変えうる存在だと儂は見ておる。」


 あまりにもスケールの大きな話に真琴は意義を申した。


「俺には、そんな世界を変える力なんてありませんよ。」


「…今はそう思っていても仕方なかろう。だがいずれその時が来れば、君がなぜ勇者(ブレイブ)と言う役職を与えられたのか分かるはずだ…」


「…こんな事を申し上げるのもあれですが…この勇者(ブレイブ)って職業は決して転職する事は出来ないんですか?」


 唐突に言い放たれる質問にギルドマスターは呆れ顔をしていたが、仕方なさそうに答える。


「…それは今の儂らには不可能だ。だが、ここからずっと北に行った果ての山脈に元老院がある。そこの司祭様ならもしかしたら出来るかも知れないが……」


 言葉を詰まらせるマスターの言動に違和感を覚えていた。


「知れないがってどう言う事ですか?」


「…元老院に迎えられるほどの資格があるかどうか…そこが重要だ。」


「資格?」


 いったいその資格とはなんなのだろうか…


「それは、言わば功績のようなものだ。元老院に入る事を許される力と身分はもちろんの事、一定の功績を上げた者にしか入る事は許されないと聞く。君にその冴えたる物は…ないと言えよう。」


 マスターの言葉は躊躇のない否定的言動といえよう。しかしそれは正しいとしか捉えられない。何故なら幾ら選ばれし者でも、勇者と謳われようとも、それを証明する為の証拠はない。誰かの証言を易々と信じるほど甘い組織ではあるまいし、今の時点で力も何もかも劣る真琴には到底立ち入りを許されるはずもないだろう。


「…確かにその冴えたる物は俺にはない…力も弱いし、ダメダメだ。」


 今まで何とかなってきた事が、逆に凄いと言えるのだろう。この世界では元の世界の理屈なんてほとんど通用しない。そんな環境の中で優先されるのはやはり力の優劣であり、弱いものから落ちていく。本来の節理が強く根付くこの世界では致命的に真琴は底辺なのだろう。そんな事を考えれば落胆するのも当たり前のことなのだ。



「…まぁ、気を病むな真琴君よ。君には誰にも無い君だけの力がある。しかし、圧倒的に経験が君には足りない…異界はさぞや平和であったのだな?」


「…まぁ、一応は…」


「…ならば強くなるしかあるまい。戦闘の中で己の力を技を磨くのだ。武芸に鍛錬を重ねてようやく一歩前進できる。その繰り返しだ。悩んで、悔やんで、それでも抗って強くなっていくのではないのか?」


「…ぁ……」


 真琴は根本的な事を見失っていたのかもしれない。楽をしようとすればする程実は遠回りで、一歩一歩前進していくことが目標を達成する為の最も早い手段なのだと、基本がなってなければ結局空回りを続けるという事を……


「ありがとうございます。俺は近道をする事ばかり考えて、実は前が見えてませんでした。まずは剣の腕を磨く事、その過程で魔物を討伐し俺が相応しい器に慣れるよう努力するしかないんだと、」


「そう言う事になるな、日々精進だ。」


「はい!」


 真琴は少し心域が変わったような気がした。現実から避け続ける自分を乗り越えよう真琴は今、とてつもなく燃えていた。


「…あの、でしたらクエストの方を受けたいのですが?」


 アイリスは話の軌道をすんなりと戻した。


「…クエストか、すまんなライセンスの発行当日は使えない仕様なのだ。また後日に起こし願おう。何心配することはない、この街は周辺から多くクエストが寄せられる。だから仕事にありつけないことはまず無いと思っていてもらって構わない。」


「「ありがとうございます」」


 真琴とアイリス二人で礼をする。ここに残っていても今日のところは何もないと、二人は宿屋へ帰ることにした。気が付けば既にお昼を過ぎた時間となっていた。朝からいろいろな事の遭遇に食事をとる余裕など全くなかった二人は、近くの飯屋に入りひととき昼食を堪能したのであった。その後、二人は宿屋へと足を進めていると野太い声に呼ばれ足を止めた。


「あんたらかい、この街を守ってくれたのは?」


「そうですが…何か?」


 真琴はまた例の連中だと思い、うんざりした態度で声の主の方向を見る。


「んッ…?」


 思っていたものとは全くといった違っていたことに多少驚きを感じた。真琴が目にしたのは鍛冶屋だった。


「こんなところで話をするのもなんだ、奥に来てくれ。」


 二人は言われるがままおくの工房へと向かった。


「あッつ!?」


 中は外とは比べ物にならないほどの暑さだった。常に火をくべ続け、鉱石を製錬し続けるためその熱は凄まじい。この世界は比較的に一年のを通して住みやすい気候らしく、寒暖差をあまり感じられないらしい。


「確かにこの中は暑いですね…耐えきれないなら魔法をかけますが?」


「え?魔法使えたの…」


 今日一番驚いたという様な顔を向ける。


「前にも言いましたが、使わないだけです。」


「…頼む。」


 真琴の了解の後にアイリスは聞こえないほど小さな声で詠唱を始めた。そして詠唱が終わったのか少し暑さが和らいだ気がした。


「これでいやと言うほど熱くはなくなったはずです。」


「ありがとう」


 お礼を告げ言えると二人は更に奥へと進んだ。


「ここで待っていてくれ」


 鍛冶屋の主人がそう告げ二人はその場所に待機した。そこから一分ほどで主人は戻って来た。手には鎧を持っていた。


「それは?」


 興味本位に主人に尋ねた。


「あぁ、俺達からのささやかなプレゼントだ。」


「え?」


 一瞬その言葉を疑ったがどうやら本当のことらしい。この街はどうにも人情あふれる人が多いいと思えてしまう。


「とりあえず、合わせてみてくれ」


「はっ…はい!」


 真琴は鎧を装着してみる。主人が持ってきたのは胸元を覆い隠す板金の軽鎧と肩鎧の二つだ。生身の時よりも重みを実感する。中世の騎士はこれよりも重い大鎧を全身に身にまとい戦に向かっていたと考えると恐ろしいものだと思える。


「ん~、少し脇が甘いか…こっちはよさそうだな」


 真琴に胴鎧を脱ぐように言い、手直しに向かった。それから数分後に完成した鎧を身にまとう。


 先ほどよりも引き締まり、だれた重さはあまり感じられなかった。むしろ先ほどよりかは動きやすく邪魔にならない感じであった。


「うん。これならいい。」


 主人は満足そうだった。


「あの…ありがとうございます。それとアイ…彼女には、この鎧みたいなものはないんですか?」


「エルフの嬢ちゃん。あんた鎧は必要か?」


 主人の問いかけにアイリスは即座に答えた。


「いえ、必要ありません。」


 真琴は何故?と疑問に思った。少しは鎧などの武装を纏っていた方が物理的攻撃のダメージは防げるはずだと思うはずなのに、何故鎧が必要ないのか疑問のようだった。


「なぜ、必要ないんだ?」


 真琴はこの疑問を考えても分からない、ならば聞くほかないとアイリスに質問した。


「真琴君言いましたよね?エルフは魔法を使う種族じゃないのかと。私はそれは偏見だとは言いましたが、あながち間違っているとは言えません。つまりは防御魔法や、加護による恩恵で鎧はあってもなくても変わらないのです。」


 真琴はなるほどと、手を搗くように理解する。主人はそのことを知っていたからアイリスには必要ないと真琴の分しか鎧を持ってこなかったという事だ。


「そうだったのか…それは失礼なことを聞いてしまったな」


「いえ、種族に関心がなければそういうことはあまり知る機会すらありませんから」


「ま、そういうこった。それよかお二人さんこの街を被害から守ってくれてありがとさん。」


 主人にうまくまとめられた。感謝されその見返り受け取った真琴はとてもいい気持に心があふれていたが、肝心なことに気が付き声を張る。


「そういえば、この鎧の代金!?……あのォ…お幾らですか?」


「ガッハハ。あんちゃんはまじめだなぁ、代金?街を守ってもらったんだ、せめてものお礼だよ。俺にはこれぐらいしかできねぇからな」


 どこまでもこの街はお人よしが過ぎると真琴は思った。だがそれと同時に、その善意を心の底から受け取ろうとも思った。程なくして真琴たちは鍛冶屋を後にし街の人々に大量に貰った物を抱えて宿屋へと戻った。宿屋に着くや否や、店主に感謝され宿代は只、おまけに飲食代も今日の分は払わなくていいと店主から申し出があった。今日は至れり尽くせりな日々となったのだった。







次回へ続く

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