第29話 ギルド
久々の投稿です。
老人の元を去ってからしばらく後、真琴たちはこの町のギルド協会でいよいよ冒険者としてのまくを開こうとしていた。町の北西に位置するアルべナ街ギルド、ここでひとまずは申請ができるという事で急ぎ足でギルドに向かった。
相変わらず人通りが多く、人込みをかき分けながら目的の場所へ向かうのは少ししんどく思えた。それに加えて町人たちから所狭しと声を脚気られる始末で、お礼だったり、感謝だったり時には食べ物やポーションまで貰えるときた。まるで英雄のような扱いを受けている気分だった。
今更ながらリュックを置いてきたことを心底後悔している、目が合うたびに声を掛けられ、とあるゲームさながら一人ひとり対処していきやっとこさギルドにたどり着くことができた。手には道中貰った手提げに山のようにポーションやパンに干し肉、葡萄酒まである。正直当面は食べ物や薬には困らないと思った。
「…ここがギルドか…」
「…そうですね…」
二人ともどうやら疲れているようだ。あらだけのことがあれば無理はないが…それはさておき、ギルドは真琴の創造道理だった。表には堂々とこの国の文字でギルドとでも書いてあるのだろう。
建物の傍らに軽から大鎧と、いかにもな風格を漂わせる者たちから、いかにも新米といった風格のものまで、様々な者たちが仲間と立ち話をしている。するとそのうちの一人が真琴の存在に気づいたのか、仲間内でひそひそと話し始めている。
おそらくCクラスのモンスターを冒険者に成りたての子供が倒したことが、のこのこと返っていったギルドの使いが話を漏らしたのだろう。周囲からひそひそと声が聞こえ、冷たい視線が真琴に向けられる。しかし一切動じることなく真琴は前に進んだ…こういった風当たりは慣れているからだ。そして扉を開けた。ドアベルが来客の訪問を告げ、がやがやとにぎやかだったその場の雰囲気は一気に凍り付き静寂だけがその場に残った。
一歩一歩足を進める、床のきしむ音がよく分かった。とりあえず受付嬢と思しき女性に声を掛けることにしたのだが、目の前に冒険者のパーティが立ちふさがった。真琴よりも身長が高く、顔を見上げた。
「…何か用ですか?」
第一声を放ったのは真琴だった。
「…君があのゴーレムを倒した。無名の冒険者かい?」
いかにもこちらを見下しているかのような態度だった。それでもかまわず答える。
「…そうですが…それが何か?」
「…ふ~ん、君みたいなおこちゃまがねぇ、まぁ良いけど」
何かを言いたげな、口ぶりだった。おそらく口車に乗せるための言動だろう、そのことは真琴も十分わかっていた。だからあえて相手の口車に乗ることにした。
「…あんた、俺に言いたいことがあるんだろ?言いたいことがあるならちゃんと自分の口で言った方が…いいですよ」
冒険者は、舌打ちをして真琴の胸倉を掴んで吐き捨てた。
「…冒険者ですらないお前に、仕事奪われてこっちは頭に来ている!おまけにCクラスだ?普通なら腕の立つパーティでも苦戦を強いられる強敵だ!?なのに君みたいなガキがたった一人で、たちばをわきまえたまえ!!」
激昂しそのまま胸倉を強く放した。
「…それがなんだって言うんだ?困っている人を助けることの何が悪いんだ!…何ならやるか?」
真琴も冷静とは言い切れなかった。その結果喧嘩を吹っかけてしまう。
「いいだろう。受けてたとう!!」
二人の間に火花が散りあう。その時だった。奥から大きな声で、二人の一触即発を止めるいわば救いの声が、響き渡った。その声に冒険者はいち早く身を退いた。真琴は声の先を見る。そこにはいかにもここの長と言わんばりの白髭を生やした老人が風変わりな杖を付きこちらに歩いてきていた。
「…二人とも喧嘩はそこまでまだ。冒険者どうしのいざこざなど見たくもない!」
「マスター、こいつは冒険者なんかじy…」
「黙れと言っている!ルードよ、ギルドは来るものは拒まぬ!お主も冒険者の端くれならそれは知っておろう?」
「……出すぎたマネをしました」
そう言ってギルドマスターと、不覚ながら真琴に頭を下げ仲間と共にギルドから出ていった。
「君が、例のゴーレムを倒したという少年か」
終わるやいなや話が切り替わった。
「は、はい。」
「さっきはうちのもんがすまんかったなぁ」
「いえ、気にしていませんからご心配なく」
少しでも顔を立たせるためにあえて仕立てに出る。ギルドマスターは真琴にある事を告げた。
「そうじゃ、お前さんが助けた村の自警団から預かりもんをしておる。アレを…」
ギルドマスターが受付嬢に何かを持ってくるよう促した。受付嬢は小袋を二つ持ち出した。それを一度ギルドマスターに手渡す。
「自警団からの責めてものお礼だそうだ。ほれ、」
そう言って渡された小袋には金貨が入っていた。そしてもう一つ袋にも同じく金貨だ。額にして三万メガルだ。価値にするなら上等の防具を一式揃えられる程の勝ちなようだ。しかし何故二つもあるのか、そして片方だけ重さが異なるのか、その理由を聞いてみた。
「あの、何故小袋二つなんですか?それに同じ重さじゃないって、いったいどう言う事なんですか?」
「…それは片方はギルドからの討伐報酬だよ。仮にもゴーレムを討伐してくれたお礼だよ」
真琴の中で納得が言った。するとアイリスが口を開き始めた。
「それよりも、私たちは申請をしに来たのですが…」
「そうじゃな、すっかり話が脱線していた。この子たちの申請お願いするよ」
ギルドマスターが受付嬢にそう告げた。
「かしこまりました。ではこちらへ」
受付嬢に案内され、受付のカウンター前に着いた。そしてついに申請の時が来た。
「ではまず、この紙にお名前と年齢、種族を記入してください。」
そう言われ真琴とアイリスは取り掛かる。アイリスは手早く記入を済ませた。一方真琴は…この世界の字が一切読めず悪戦苦闘していた。
「あ…ぁ…ぁ……」
「ここには自分の名前を記入します。」
アイリスがどこに何を書くか教えてくれるが、この世界の文字を知らない真琴はなんと書けば良いのかわからずじまいだ。
「はぁ…仕方ないですね」
そう言ってアイリスは真琴の書類に必要事項を書き出す。しかしある所でペンは止まった。真琴もその光景をを見て察した。それは種族だ。真琴はこの世界では既に滅んだ純血の人間だ。
大抵は混血種と言うのがこの世界で言う人間の現在の立ち位置だ。アイリスは迷い真琴の顔を見る。真琴は本当の事は書くなと心で唱えた。アイリスにそれが伝わっているかは分からないがとりあえず混血種と記入してくれた。
「はい確かに受け取りました。えぇ…アイリス・ナランキュラス様。それと……えっと、じん…ぐう…じ、ま、まこと様ですね」
カタコトのように真琴の名前を読んだ。それは仕方ないのかも知れない。
「では次に役職を決めていただきます。」
そう受付嬢は言った。おそらくゲームでよくあるジョブと言う奴で、そのジョブによって覚えられるスキルなどがあるのだろうと、少し胸をわくわくさせながら聞いた。
「まず、役職とは何かについてご説明をさせていただきます。役職はあくまで認識の為の肩書きですので悪しからず。」
真琴は驚いた。期待をそうそうに裏切られたような気分だった。思わず質問を投げかけていた。
「え?肩書きだけって、技とか役職のメリットとかそう言うのはないの?」
「はい。そう言うのは全く持ってありません。技は現在この世界でもまだ謎多き代物です。たまに発掘される武器や防具などに付与されている固有技はありますが、あくまで技とは自身で磨きあげるものとマスターが仰っていました。役職に着いたから特定の技が覚えられるなんて事はありません。全ては自分次第です!」
それを聞いて役職に着く事にそこまでのメリットを感じなくなってしまった。
「ですが、メリットはあります。パーティを組む際必要とされる人材を見つけるのに役職制度は役立っています」
そうだろうと予想がつくメリットだった。
「説明はこれまでで、役職をお選びください。」
そう言われ紙を一枚手渡された。そこには役職がビッシリとこの国の文字で書かれていた。もうお手上げ状態の真琴にアイリスは手を差し伸べる。
「真琴くんは、戦士か剣士この二つのどちらかがいいと思います。」
「戦士と剣士か……」
言われて見れば、剣以外目立った装備は付けていない真琴ならそこが無難だと言える。
「ところでアイリスはどの職業に就くんだ?」
アイリスはこちらを向いた。
「剣士です…」
即答だった。それに対して真琴が突っ込みを入れる。
「アイリスもかよ…」
「なにか不満でも?」
アイリスは至って真剣だった。少しじれったくなった真琴はこんなことを言い出した。
「…アイリスってさ、種族的にはエルフだろ?俺のイメージだと魔法使いとか、弓使いの方が印象に強いんだが」
「それは偏見です!エルフだって剣を携えますし、ときには槍や斧だって持ちます。何を使うかは個人の自由です!偏見で決めつけられるのは、いただけないだけです。」
少しむくれた態度取るアイリスに対し真琴は自分の発言の愚かさを実感した。
「ごめん。俺のくだらない偏見をアイリスに押し付けるよう真似をして、本当にごめん」
そういって深々と頭を下げる真琴に対しアイリスは言った。
「わかってくれればいいんです。それに…使えないわけではなく、使わないだけです。」
「う、うん…」
真琴は深くは追求しなかった。
とりあえず役職の決まった二人は受付嬢に声を掛けた。
「これを…」
「はい、承りました。え~っと、二人の役職は…お二人とも剣士ですね。では登録を行いますのでそちらの蒼い石に手を触れてください。」
言われたとおりに石に手を触れる。すると石は光だした。
「はい、完了しまし…あのぉ、申し上げにくいのですが、真琴様は既に役職についておられるようです」
その言葉に二人は耳を疑った。
「真琴君、いつ役職に就いたの?」
真っ先にアイリスから問いにかかった。
「いや、俺も初耳だよ!」
真琴自身もそんなこと知らないし、そういうのも当然のことだ。だがそれにはれっきとした理由がありそれはある意味運命のようなものなのだ…
「その役職っていったい何なんですか?」
「…その役職は”ブレイブ”です…」
何か重たげな口ぶりで受付嬢は答えた。今までの笑顔が消え、思いもよらないといった表情だった。
「ブレイブ?なんだそれ?」
すかさずアイリスは補足を入れる。
「ブレイブとはつまり、”勇者”という事です。世界を魔王の手から救った先代勇者と同じという事です。」
真琴の頭は少しの間思考を停止した。物事の整理が追い付いていなかった。そして爆発するかのような勢いで一気に思考が回転を始め、事の重大さにいよいよ理解が追い付いた。
「ええええええええぇッ!!」
盛大な叫びとなって事実を受け入れる。今までそういった話はなんどかあった。しかしまともに考えることなく鵜呑みにしていた。今まで点でしかなかったものが一点に繋がり線となったのだ。俗に言う伏線回収と言うやつだ。
「真琴君落ち着いてください!」
必死にアイリスが真琴をなだめていた。その甲斐あってとりあえず落ち着く事ができた。
「…今まで言われて来た事って本当だったんだ。つまり魔王と戦うのは宿命って事か…この俺が……マジかよぉ…」
てっきり燃えるものだと思ったが、そうではなく逆に萎えたのだ。正直な話し真琴の本来の目標を達成することのみが彼にとっての終着点だ。
しかしその道のりに魔王討伐が課せられたとなれば、道は長く険しくなるという事を暗示している。それに内心では無理だと既に諦めムードだった。
「魔王討伐なんて名誉な事他にありませんよ!」
真琴に対して希望を与えようと思ったのだろうしかし…
「名誉なんて興味ないし、俺は失った元の世界での時間を早く取り戻したいだけだ。」
「…」
アイリスは黙り込んでしまった。
次回へ続く




