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zero×騎士  作者: 朧月 燐嶺
第2章 覚醒
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第28話 剣

 招待された家はまるで武器屋の様な品揃えだった。いったいどこでこれほどの数の武器を集めてきたのか不思議でたまらなかった。すると老人が適当に掛けてくれと言ったが、どこへ座ればいいのやら…


「ん?そこの木箱の上にでも腰かけてくれ」


「は、はい」


 真琴とアイリスは言われた通り木箱の上に座った。


「真琴君と言ったか?君はその剣をどこで手に入れた?」


 突然の質問で回答に困った。しかし答えない訳にも行かず、大雑把ではあるが説明した。


「…ここから東に行った森です。迷いの森よりも、もっと東の…」


 言葉を言いかけた時、アイリスが割って入った。


「…目的はなんです?」


 アイリスは睨むように老人を見つめた。


「先程も説明したが、その剣についてだ。(わし)はその剣について知っておる。」


 嘘か本当か分からない情報だが、手がかりになるならなんだっていい、真琴はそういう考えだった。


「アイリス。とりあえずこの人の質問に応えよう」


「ですが…」


「嘘か本当かは、話を聞いてからでも遅くはないよ」


「……分かりました」


 アイリスは納得してくれたようだ。その様子を見て老人は質問を続けた。


「その剣をどういう経緯で手に入れたのだ?」


「台座から引き抜い……た……いや、台座から引き抜く時に折れたんだ。」


 老人は何か納得したかのような素振りを見せ続けざまに質問する。


「その剣は重く感じるか?それとも軽いくらいか?」


 極端な質問だ。真琴は今一度思い返してみる事にした。老人の言うように剣は軽いくらいだ、最初に戦った時も、しかし長剣の時は重さを感じたような気もした。



「重いか軽いかと言われれば、軽いと思う。」


「ふむ。なら長剣の時はどうだ?」


「…少し重く感じた。」


「なるほど……」


 老人はそう言うと徐に席を立ち、本棚から一冊の本を取り出した。その本は見るからに古さが分かる。この世界でも紙は普及しているが、その本は皮で出来ていた。表紙から中のページ一つひとつが皮で出来ている。


「この古文書にはこう書かれてある……カノ剣、主ヲ選ビ、資格ナキ者、万物ヲ超エル重量。資格アリシ者、羽毛ノ如キ軽量。」


「…俺が資格者」


「そう言う事じゃ」


 真琴はやはりこの剣に選ばれた者だと言う事で間違いないだろう。


「まだ続きがある……コレ、万物ヲ断ツ。コレ万物ヨリ硬ク、時ニ脆ク弱シ。コレ即チ”心”ナリ……」


「心……。」


 思わず言葉が漏れる。思い返せばこれまでの真琴の決断や、心の成長が確かに剣に現れていた。最初は弱腰だったが、次第に前へと進みだしている。そして戦いの中で奮い立つ感情に剣が答えている。


 老人の話はまだ終わっていなかった。


「…心辺りがあるようだが、まぁ聞け。ソノ剣、天地天命ノ剣にして銘ヲ魂霊剣ト称ス。」


魂霊剣(ソウルブレード)?」


 真琴は腰に携える剣に目をやった。


「…真琴君よ、君の持つ剣がまさにこの古文書に示される剣なのじゃ」


「あなたは、それを伝えるためだけに俺たちを呼び止めたのか?」


 真琴は他に何か言いたいことが隠されていると踏んでいた。すると老人は少し引きつった顔で語り始めた。


「……ここからが本題だ。その剣が目覚めたという事は…世界に災いが振りかかろうとしている予兆とも言える。」


「どういう事なんだ?」


「……近頃、各所で魔王軍と名乗るモンスターの集団が相次いで確認されているのは知っておるか?」


 真琴はそんな事があったのかと不思議そうに思っていたが、アイリスはそうではなかったようだ。


「ええ、私は知っています。ですが彼はこの国に来て日が浅いので知らないと思います。」


 確かにアイリスの言うようにそんな事は初耳だったが、ふと脳裏で記憶が蘇った。


「魔王軍って、あの時村に襲ってきた奴らみたいな奴か?」


 以外な言動だったのか、アイリスは驚きながらも答える。


「ええ……恐らくはその手のものでしょう。」


「そうか」


「話の続きだが、魔王軍は今から六百年前に先の勇者が魔王を討ち、収束した……しかし現に今、魔王軍と名乗るものが現れ世界に不穏な空気が流れておる。そして伝説の剣を携えた者が現れた……これは災いの予兆で間違いない。」


 老人は淡々と話すが、真琴はそれをうまく呑み込めていなかった。


「…しかし、そんなものが当てにできるのか?ただの絵空事じゃ…」


 言葉をとぎるように老人が話す。


「絵空事?君は伝説や逸話(いつわ)の類いは全て嘘だと言うのか?」


「いや……」


 思わず言葉を失う。それは反論ができないほど、険しい表情に気おされたからだ。

「沈黙が答えか……覚えて置くといい、伝説や逸話は絵空事なんかじゃない。その世界で実際に起きた出来事なのだ。」


「………」


 真琴はただ黙って聞いていることしか出来ない。


「この世界には逸話をそのまま残したい者、不都合なところを書き換えたい者の二種類の者に別れる。その派閥の中で生まれたのが我々に伝わる伝説だ。その中には明確な真実がある……確固たる証拠がある……その全てを簡単に嘘だと断言できるか?それは無理な話だ…」


「……」

 真琴は以前として黙って聞いているしかなかった。


「…おっと。少し熱く話過ぎたか、要は全てを嘘だと決めつけたらそれまでだと言う事だ。」


 あまりにも話が脱線しすぎてしまった。そこにアイリスがつっこむ。


「話を戻しましょうか、貴方は私たちになんの用があってここへ?昔話がしたいなら私たちは先を急ぎますので…」


「す、すまんかった。話を戻す!」


「ではお願いします。」


 老人は喉を整え話し出した。


(わし)が言いたいのは、真琴君と言ったな、君はこの世界を変えうる存在だと言うことなのだよ!」


 その時真琴にとてつもない衝撃が走った。


「あまりにも規模が大きすぎて何を言っているのか分からない。一般人の俺がそんな大それた事あるわけ……」


「いや、古文書には更にこう記してある。…魂霊剣ヲ携エシ者、天ヨリ力ヲ借リ、混沌ニ染マル世ヲ晴ラサン。」


 真琴が持っている剣が魂霊剣(ソウルブレード)だとして、この古文書が伝える事と確かに類似点はある。しかしそれは剣に限ったことだけだ。


「まだ信じられない。」


 話す度にスケールがどんどん大きくなり、本来の目的から遠く離れているがした。もしこの世界の変革者だとしても、用事が済んでしまえばこの世界とはおさらばだというのに、真琴の心に少しの迷いが生じていた。


「ならば君が選ばれし者だとこの場で証明出来れば信じてもらえるかな?」


「どうやって?」


 証明すると言ってもいったい何を根拠にそう言っているのか疑問だった。すると剣を指さしこう言った。


魂霊剣(ソウルブレード)は選ばれた者にしか持てぬ。つまりこの場にいるエルフの娘、そして(わし)には持てぬと言うわけじゃ」


 確かに古文書どうりならそうなる。ダメでもともとだ…


「わかった。なら試そう」


 そう言って真琴は剣を抜き、とりあえずアイリスに渡した。アイリスは何気ないように剣を受け取ろうとしたが、真琴が手を話した瞬間に剣を手放した。


「!?」


 間近にいた真琴は驚いた。そして剣は大きな音を立て、床を突き破り地面に落ち、大きく砂埃を撒き散らす。


「おい、アイリス。いきなり手放すなよビックリするだろ?」


「いえ、この剣…見かけによらず物凄い重量でつい……」


「え?」


 そんなはずはないと思いながら地面から剣を持ち上げる。やはり真琴は普通に持ち上げられる。試しに今度は剣を床に置き、それを持ち上げてもらう事にした。


「なら今度は床から持ち上げてくれ」


「はい」


 アイリスは言われた通り剣を持ち上げようとするが、剣はびくともしない。それどころか微動だにせず、まるで床にへばりついているかのように動く事はなかった。


「そんな馬鹿な…今度はあんたが試してくれ」


 老人は真琴の言う通り剣を持ち上げようとするも、結果はアイリスと同様だった。


「二人ともふざけていないよな?」


「もちろん」「ええ、」


 ふざけたつもりで言った台詞(セリフ)だったが、返ってきた返答は真面目(まじめ)なものだった。


「これでこの剣は君にしか持てぬと言う事が分かったじゃろ?そして動かぬ証拠は剣の形の変容じゃ」


 この結果をやはり認めざるおえなかった。しかし真琴が何故選ばれたのかは訳が分からない。…ガヴィルが言っていた 「いずれ分かる」と…まさにこれから先、真琴の選ばれし理由が表向きになっていくのかもしれない。真琴は思った…考えているだけでは前には進めないと、力があるなら使わせて貰うだけのことだと。遅かれ早かれ本当の“理由”は見えてくるはず…だから今は受け入れようと。


「そのようですね。理由がどうであれこの剣を手に、必ず盟約を果たすだけだ…」


「ん?盟約…何じゃそれは?」


 ボソッと零れた言葉を老人はしっかりと拾っていた。しかしこの場であのことを言ったって老人は信じなはず。ここはごまかし通すことにした。


「い、いや…何でもない、き、気のせいだ。気のせい…」


 下手な嘘だと誰がどう見てもわかる。だが老人は…


「ま、興味はないが…そうじゃ、話は変わるが君ら冒険者なんだろ?」


 とても急な振りだ。話が百八十度も変わりほんの少しだが戸惑った。そこをアイリスが補ってくれた。


「はい、そうですがそれが何か?」


 真琴も同意見だった。


「真琴君、君はいいが…エルフのお嬢さん。君は武器を持っていないようだが?」


 アイリスは話すかどうか一度考えた。おそらく不利益な事ではないと思い、答えた。


「実はかくかくしかじかで、武器がない状態ということです。」


「なるほどの~、それは大変だったなぁ。うむなら(わし)が君に武器を譲ろう」


 その言葉に真琴とアイリスは二人して驚く。


「し、しかし…本当にいいのでしょうか?」


「いいんじゃよ。(わし)は自身の追い求めていたものに出会えた。その礼に値するかは分らんが、まぁ…気持ちとして受け取ってくれ」


 その後行為にアイリスは感謝を述べた。


「ありがとうございます」


「礼など及ばないよ。それより獲物を持ってくる待っておれ」


 そいって扉を開け、別の部屋に武器を取りに行った。


「遅いですね…」


 アイリスがボソッと呟いた。確かに少し時間がかかりすぎているようにも思えた。もしかしたら、感覚的に長いと感じているだけかもしれないが……

 そうこうしているうちに、老人が戻って来た。両手に大きな木箱を抱えて、ゆっくりゆっくりと歩いてきて机に木箱を勢いよく置いた。


「ふぅ~重かったわい」


 老人の行動から見ると、とても重い剣らしい。そんな重い剣をアイリスが扱えるのか真琴は心配だった。


「それじゃ、お披露目(ひろめ)といこう」


 アイリスと真琴に緊張が走った。


 木箱の蓋を開けると、白色の布が最初に日の目を見た。そして、白い布をまくるとそこには、一振りの剣が収められていた。柄や持ち手がいかにも風格のあるデザインで、鞘に隠れてはいるが刀身は細めだ。


「手に取ってみなさい」


「…」


 アイリスは言葉を発することはなかった。おそらく剣に魅入(みい)られていたからだろう。ようやく剣を手に取り鞘から剣を引き抜く。


「これは…」


 アイリスは言葉を失った。その剣は、まるで炎が揺らめくかのうな刀身をしており、全体的にうっすらではあるが、切っ先は赤く、刃元は青く輝いていた。燃え盛る炎をそのまま映したかのように美しかった。


「どうじゃ、その剣は?」


「…す、すごいです。手にしただけでこの剣から途轍もないものを感じます。」


「この剣の(めい)だが…フランベルクという名前じゃ」


「フランベルク…」


 真琴はただその剣に見とれているだけだった。すると老人が提案をしてきた。


「その剣の力試してみんか?」


「え…でもどこで?」


「まぁ、ついて来い」


 真琴たちは老人についていった。すると屋外に出た。そこは全面が芝に覆われ、いたるところに(わら)で作られた稽古用(けいこよう)の人形がいたるところに配置されている。見て分かる通り試し切りをさせてくれるようだ。


「その剣がいかほどの物か、自分の手で確かめよ」


 案の定といったことはさておき、アイリスは鞘から剣を抜き、構えた。体を横に向け右手に持った剣を下に向ける。少し変わった構えだ。今までに見たことのない構えに真琴は驚きつつも、刮目してその場を見た。


 風になびく草花の音が聞こえ、風がやむと同時にアイリスは動いた。そして次々と(わら)で出来た人形を切り裂いていく、その剣裁きは前よりも威力速度共に上がっていることが目に見える。次々と切り伏せられる藁たち、最後の一つを横なぎに切り払うと剣を納刀した。


「…この剣すごいです…正直お飾りの剣ではないかと内心思っていたけど…これ程までとは…」


 あまりのすごさにアイリスは驚いている様子だった。そこに老人が切り伏せられた藁を手に取って見せた。



「これを見てみなさい。藁の断面に一つもささくれがない」


「本当だ。」


「ささくれができないという事は、それだけ切れ味が優れていること、特にこの剣のように刀身が細身なものは正確に切るのが難しい…エルフの娘よ大したものだ」



 アイリスはまんざらでもないといった顔だった。


「こんなに素晴らしい剣を私に譲っていただき感謝します。」


 アイリスは会釈をして、お礼を告げる。老人は構わないといった素振りをみせこういった。



「剣は観賞用の代物(しろもの)じゃない。戦うための道具だ。この剣は長い間眠っておった、剣の本望を忘れて…しかし君が来た時、この子にしかこの剣は扱えないと思ったよ」


「そんな、私なんかが…」


謙遜(けんそん)する必要はない。道具にだって使われるものを選ぶ権利はあると(わし)は思う。現にその剣の力を発揮できたのもエルフの少女の技量あってこそじゃ。真琴君の持つ魂霊剣(ソウルブレード)のように君も(あるじ)として選ばれたという事じゃな」


 その言葉を聞いて場の空気はとてもほっこりした。だけどあまり(ひた)っていくことはできないと、二人は老人の元を去ることにした。今日は急ぎでギルドの申請(しんせい)に行かないといけないからだ。老人に別れを告げ、ギルドへと足を進めた。








次回につづく…

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