侵入者 その2
前回の続きです。
その時だった、真琴が咄嗟に動きゴーレムへと飛びつく。
ゴーレムの右腕に飛びついた真琴は、肩に短剣を突き刺す。すると固い岩石に短剣は見事に突き刺さった。そして体重をかけ、下に思いっきり切り下ろすとゴーレムの腕は地面に落ちた。
「グウォォォ!!!」
ゴーレムの悲痛の叫びが響き渡った。真琴はその間に老練の騎士を安全なところに非難させた。他の面子はアイリスの手によって安全なところに非難された。
真琴はこれで気兼ねなく戦えると思い、剣を構えた。
ゴーレムの叫びは以前と続いており、なんと切断した腕がみるみるウチち戻って行った。これには真琴も面を食らった。
「…まじかよ」
打つ手はないのかと思ったが、少し離れた所からアイリスが大声で情報を与えてくれた。
「真琴くん。ゴーレムには動かすための術式…核があるはずです。そこを叩けばたちまち動きを停止します」
わかりやすい説明だが、一つ不明な点があった。
「わかった。だけど、その核は何処にあるんだ?」
「それは分かりません。」
つまりは戦って探せということなのだろうか、真琴はゴーレムの行動に目をやりながら戦うことにした。
ゴーレムは腕や足を多彩に伸び縮みさせ攻撃を仕掛けてくる。距離を取りすぎれば町に被害が出る。なのでできる限り間合いを取り攻撃を伺う。
「…まずはあの腕か…」
真琴は好機を見計らった。すると都合よくゴーレムが右ストレートを放ってきた。
(よし…これなら!)
真琴はゴーレムの拳に剣を合わせた。
「反撃!」
そう叫び技の発動かに思えたが、そのまま拳に押し返された。
「ぐはぁ!」
数回地面を転げたが、すぐさま第二陣が迫る。今度は両拳を真琴に放つ、一対の拳だ。それを回避し少し考えた。
(…反撃が発動しなかった……今までならなんて事はなく発動していたのに…!もしや、剣の形状が変わった事に何か意味が…?)
考えをあまり煮詰める時間など戦いの中ではなかった。ゴーレムの右腕がうねりを付けて進撃する。ならば、今度は…!
「反撃・閃」
ゴーレムの腕のうねりを逆に利用し、いなしへと派生し、重い一撃が剣先から放たれる。その一撃はゴーレムの右腕をもいだ。
「グウォォォン!」
けたたましい嗚咽がこだまする。まだ理屈は掴めてはいないが、攻めどきを見逃すわけには行かない。
一閃をゴーレムの胴体に放つが、表面を軽く磨っただけだ。駆動系には容易に剣は入るが、本体には分が悪い…。そんな時真琴は思いついた。
(…長剣ならあの硬い外殻も貫けるかもしれない。)
長剣…真琴が騎士との戦闘時に奇跡的に発現し容姿を変えたあの長剣。なぜあのような事が起きたかもわからないと言うのに、その策が可能かどうかさえ定かではない。
しかし、この状況を打破するにはそれしか思いつかなかった。
これはある意味、一か八かの賭けだ。短剣が長剣に変わらない可能性は充分ある。だがここでゴーレムを野放しにすれば町への被害は甚大なものになるかもしれない。例え今回撃退出来たとしてもまた攻めてくる可能性も否定できない。
真琴は胸の中で唱えた。自分が今どうすべきか、何を守るべきか、守る事への決意が奇跡を起こした。
「…!?」
淡い光を放ち短剣は長剣へと姿を変えた。その姿は紛うことなき姿だ。あの時の騎士との戦いとおなじ剣へと変容した。これならいけるそう確信した。束の間、ゴーレムが一撃を放つが、長剣を一振りすると拳を弾き大きくよろめいた。
背後を見せたゴーレム。ここが攻め時か、いや違う……右手を大きく振るう、バックブロウだ。しかし真琴はそう来ると踏んでいた。見事にゴーレムは真琴の読みにはまったのだ。
そこで真琴がとった行動は、剣で受け止める?攻撃をいなす?否!上空へ飛翔した。そしてタイミングを合わせ、ゴーレムの腕に乗り腕を伝って、ゴーレムの首を刎ねた。ゴーレムの首は宙を舞い地面に転げ落ちる。本体は膝から地に崩れ落ちた。
行動は完全に停止。町人は倒したのだと思い、真琴に歓喜を捧げたが、党の本人は黙ったままだった。倒したのなら喜んでもいいはず?そう町人誰しもが思っていた。しかしゴーレムの体はひとりでに動き出した。そして落ちた首を拾い上げ元の位置に装着した。
「グウゥォォォォン!!」
復活を告げる怒号が鳴り響き、さっきまでの攻撃がまるで効いていないかのように、真琴を敵視し続けた。そんなピンチともとれる状況で真琴は何かを呟いた。
「…そういうことか」
一体全体その言葉が何を意味しているのか見当がつかない。だがそこには彼なりに導き出した答えがあった。
一方アイリスの方では、老練の騎士が意義を申し立てていた。
「やはりあの若造には無理だ。」
傍から見ればそう思えるだろう。一度倒したゴーレムが蘇る。つまり倒しきれなかったようにも見えるが、アイリスは何となく分かっていた。
「彼を信じて上げてください。」
「根拠も無しに何を言う!」
そう言いたくなるのも分からなくはなかった。その説明をアイリスは語りどした
「私が先程言ったように、ゴーレムには核が存在します。彼は核が頭にあると踏んで首を切り落としました。」
「しかし奴は倒れなかった。」
「はい、ですがそれで新たな可能性が生まれました。」
「可能性?」
老練の騎士は首を傾げた。
「はい。その可能性とは核が二つ存在すること……失敗作のゴーレム…」
「失敗作のゴーレムだと!?」
老練の騎士も驚いた失敗作のゴーレムとは、本来一つの核に施された術を元にゴーレムは活動を行う。しかし何かの失敗により核が二つ存在する状態になり、互いがそれぞれ命令を出し、本来ならその段階で核は両方とも破壊されるが、稀に二つの核が相対…互いの形成を保つ働きをする事があるらしい。その万に一つない偶然により生まれるのが失敗作のゴーレムという事だ。
「何を根拠に失敗作のゴーレムだと?」
「刎ねられた頭を拾いに行く体、そして頭がつくや否や共鳴し、彼を襲った。本来核は一つしかありません。仮に核が頭にあれば体は動きませんが今回は頭体が両方とも起動状態にありました。」
「…確かにそうかもしれない。それにゴーレムの暴走?にも説明がつく」
老練の騎士は納得したようだった。続けざまに老練の騎士はこう言った。
「このことを彼は知っているのか?」
「ええ、恐らくは」
そう言い放ち真琴の方へ眼をやった。
現在真琴は、防戦一方だった。しかしそれには理由があった。もう一つ存在する核の場所を検討していた。場所は三か所に絞られ、左胸、右胸、胸中央。この三択だ。ここで考えを整理した。左胸や右胸は何度か攻撃チャンスがあった。しかし奴はその二部位をかばう様子はなかった。そして暴走を引き起こす原因とするなら、頭から一直線に並ぶ中央胸部しかない。真琴は好機を伺った。すると好機は巡る!
ゴーレムは両拳を握り垂直に振り下ろしてきた。ここしかない!真琴は一度後へ下がり攻撃を避けたあと、地面にめり込んだゴーレムの拳を踏み台にして天高くまいあがっる。長剣を頭上に構え、勢いよくゴーレムの頭へ振り下ろす。
「おりゃぁぁッ!」
ゴーレムは抵抗する間もなく、頭から胴体に掛けて真っ二つに両断されたが、手応えが薄かった。しかしそれも読んでのうちで、真琴は横薙ぎに剣をはらう。
すると胸部が横方向に両断された。これには手応えを感じた。
真琴は軽く剣をはらった。決めポーズのような行動のようだ。ゴーレムは核を破壊され機能を停止し影も形もない岩に変貌する。その時白いオーラの様なものが天へと帰っていくのが確認できた。
見事にゴーレムを討伐できた。
町人たちは、歓喜に包まれた。皆が見知らぬ少年…真琴を称えた。真琴はその歓声を聞き歓喜した。初めてといっていいのかも知れない。大勢の人々に感謝されたのは、だから心の底からうれしかったのである。
そのすぐ後にアイリスや、自警団たちが真琴のもとに集まった。
「君にはここにいる者全員が感謝している。代表として私が礼を捧げよう。ありがとう」
「いえ、そんな…」
この場に居合わせた者たちからの謝辞の途中になって、ギルドからの要請員が訪れた。
「皆さんお怪我は…」
目の前の光景は既にことが済んでいる。という状況だった。見るからに武装をした数十人程度の冒険者たちがいるのだが、真琴の活躍でお役御免といったところだ。
「あれ…ゴーレムは?」
冒険者の一人が状況が呑み込めず、間の抜けた言葉を発した。その言葉に対し老練の騎士が返す。
「そこにいる、少年が討伐してくれた。」
冒険者たちは、きょとんとした顔をしたがすぐさま腹を抱えて笑い出した。
「そんな、ご冗談をww!」
「こんな幼い少年にゴーレムは無理ですよ」
老練の騎士は更に言葉を添えた。
「このゴーレムが失敗作のゴーレムだとしたら?」
冒険者たちは一斉に顔を合わせ、更に笑みを浮かべ爆笑した。
「そんな、余計にこの少年には無理ですよww」
「なら、皆に聞いてみよう。この少年がゴーレムを倒したよな?」
老練の騎士の言葉に、町人たちは一斉に声を上げ頷いた。その声を聴いて冒険者たちは驚いていた。
「でも、皆さんで倒したんですよね?」
老練の騎士は俯て答えた。
「不覚ながら、私はやられたよ。ここにいる面子も…そこに彼が颯爽と現れ退治してくれた言うわけだ。しかもカテゴリーCを一人で討伐してしまうんだからな、参ったよ」
「…」
老練の騎士の言葉を聞いて冒険者たちは途端に黙り込んだ。おそらく老練の騎士の言葉を真に受けたからだろう。最早施すほどの対処がないと悟ると、のこのこと冒険者たちは帰っていった。
そののち改めて町人たちから拍手万歳、盛大にたたえられた後に老練の騎士の号令によって町人たちは散り散りとなった。自警団たちも傷の手当てのためこの場を去った。
真琴たちも本来の目標に戻ろうと足を進めようとしたとき、誰かに呼び止められそちらへ振り向いた。
「そこのお方…」
「何か御用ですか?」
アイリスがすぐさま反応した。
「御用というほどではありませんが…ちょいとお耳に入れておいてもらおうと思って…」
なんだか怪しい雰囲気だ。ローブに身を包み、顔は見えないが何だか不気味におもえる。真琴たちは警戒心を抱いた。
「何が言いたいんだ?」
「…私は、あなたが持つその剣について知っていることがあります」
そう言い放ち、ローブに身を包んだ者は、真琴に指をさした。
「…この剣について」
真琴は思わず固唾を飲んだ。どうも胡散臭く見えるかもしれないが、どこかその言葉には信憑性が感じられた。そのことをアイリスにアイコンタクトを取った。アイリスはどう見ても怪しいといった眼差しだった。しかし真琴はこの者の言うことを信じる意向だった。
「あんたはいったい、この剣の何を知っているというんだ?」
真琴は探りを入れてみた。
「その剣の性質…来歴…名前も存じているよ?」
やはり何かを知っている。真琴が持つ剣について、確かなことをこの者は知っているのだ。となれば確かめるしかないと真琴は思った。その時アイリスが口を開いた。
「そんなに勿体ぶるなら、この場で教えてはくれませんか?」
「…ここでは言えない。話を聞きたければついて来い」
アイリスは反対の様だったが、真琴の意向により止む追えずその者についていった_
次回に続く…




