目覚める力 その3
かなり短めです。
……体が軽い。……俺はいったいどこに?……前にも確か………
「……神宮寺…真琴…」
どこからともなく聞こえる声に、囁かれ眼を開く。そこは白い空間だった。真琴はだいたいの察しが着いていた。
この場所は例のアノ……そして奴の住まう所……
その後僅か数秒後に、主が姿を現す。依然として黒い靄のようなものに覆われ、歪んだ顔に禍々しい気配、案の定がヴィルだ。
となれば、ここは夢の中だろう。ココ最近はあっていなかったが、今回はいったいどんなようなのか?
「…神宮寺 真琴よ、光を取り戻したようだな……」
唐突な質問であったが、答えは一択しかないと迷うこと無く答える。
「…あぁ、一度は見失いかけたが今はしっかりこの胸の奥にある。」
「…要らぬ問だったか…して神宮寺真琴よ、貴様は大いなる力の片鱗を感じ取ったはずだ……」
「大いなる力の片鱗?」
意味が分からず聞き返す。
「…土壇場にて騎士を負かしたあの力……それは貴様の中に眠る本来の力だ。」
「俺の本来の力…」
思わず先の戦いを思い出す。あの土壇場での力の膨張が、真琴の中に眠っていた力なのだろうかと推測する。まだガヴィルの話は終わってはいなかった。
「…そして貴様の、その大いなる力がこの世界を変えゆくだろう……」
「え?」
疑問符が思考を遮った。しかし考える暇などなかった。
「貴様と私が話せるのもこれまでのようだな、二度と光を見失うな……」
そう言い残すとガヴィルは消え、目の前が閃光に包まれた。もう一度目を開くと、第一にアイリスの泣き顔が目に映った。
「ここは……」
「良かった…意識が戻った。」
アイリスはとても喜ばしい顔をしていた。今までのアイリスの表情と真反対すぎて、真琴はなんだか蟠りが胸の辺りでつっかえてる感覚を覚えた。真琴は重たい体をベットから起こす。
何かを感じ取ってかアイリスが真琴に問いかけた。
「どうかした?」
「いや…その………」
最初は焦りを表に出した。前とは違う態様、仕草に言葉が詰まるが、胃を決する。
「…なんだが前とは雰囲気が……違うなって思って…べ、別に悪い意味じゃないんだ、断じて。い、いい意味で言ってるんだ」
いざ言い出してみてもやはり照れを隠すことは出来なかった。真琴の解答を聞いてアイリスは…
「あなたがそう思うなら、そうかもしれない。だけどあなたが変わったように、私も何か変われたのかも……そう思うの真琴くん。」
アイリスの口から放たれた最後の言葉に真琴は驚愕した。今まで名前ではなく、あなたとしか読んでこなかったアイリスが真琴の名前を口にした!
「…い、いま俺の名前読んだよな?」
「えぇ、それがどうかしました?」
「い、いや何でもない。ところでなんだが、ここはどこなんだ?」
いろんなことが先行して大事なことを聞けていなかった。
「ここは、クーデリアから少し離れた町よ。私たちはその宿屋にいるの、それであなたはあの戦いからまる二日はベットから起きなかったわ。」
とても簡略で分かりやすい説明で現状を把握できた。
「…二日間もの間、俺を介抱してくれたのか?」
アイリスは言葉に出さず頷く。それを知った真琴は素直に礼を言う。
「あいがとう。」
アイリスの頬が上がり、少し嬉しそうな雰囲気だった。そして真琴はここで思わぬ提案を提示した。
「…アイリス……さん」
「敬称は無しでいいです。」
言葉を挟む形でアイリスが真琴に言葉をかけた。気を取り直し真琴は話し出す。
「アイリス、実は頼みたい事があるんだ。」
「はい?」
「…俺は死に物狂いで君を取り戻した。でも……今のままではダメなんだ…強くならなきゃ行けないと思う。だから!俺に剣を教えてくれ!」
真琴はアイリスに深く頭を下げた。
「何を言うかと思えば、そんか事ですか……もちろん断りません。私の教えられる事をしっかり教えます」
「ありがとう。」
もう一度深く頭を下げる。
「ところで、ひとつ聞きたい事があるんです。」
「何?」
「…包帯を取り替えるときに背中に大きな傷があったのが気になって……」
真琴はアイリスに王都クーデリアまでの経緯を語った……
「…そうだったんですか…真琴君はそこまで苦労して……私を助けてくれたのですね」
「…うん。だから今度はしっかりとこの手で誰かを守りたいんだ。最初っから多くの人を守れるかは分からない。けど、まずは目の前にいる君を守れるように強くなりたい。」
「それじゃ、まずは英気を養うところからですね。まだ傷も完治してませんしね」
「わかった。お言葉に甘えて眠らせて貰う、おやすみ」
そう言葉を告げると真琴は深い眠りに落ちていった。その後を追うようにアイリスも就寝する。
〜〜一方その頃〜〜
真琴とアイリスが去った後のクーデリア城では、騎士長のシュバルツの称号が今回の真琴との戦いの敗北により剥奪。その罪を王ベルナールは咎めていた。
時刻は夜が老けた頃、静まり返る宮殿内にけたたましい怒号が散々とする。
「シュバルツゥ!貴様の行動は取るに余る!負けた事は我は問わん、しかしあの状況で我に刃を向けるなど許せぬ!」
王の顔から蒸気が出そうなほど顔が赤く火照らせ、血管がうきでている。それを見るだけでどれだけご立腹が窺えた。
「…騎士の戦いにおいて、約束事は守る。それだけの事……」
シュバルツは王とは一転、冷静で尚且つ澄ました態度で王の言葉をあしらう。その態度にベルナールは気に食わないらしく強く反発する。
「何が約束事だ!主君である我よりも、どこのぞの野良犬との約束がそんなに大事か!?」
「…あぁ、そうさ…こんな言い方をするのもあれだが王よ、貴方の行動は目に余る。」
「なんだと?」
「…妃探しだので、国中から女を掻っ攫う……自分の欲を満たすがために騎士を顎で使う。この国で一番醜いのはあんただベルナール!」
面をくらったかのようにベルナールは驚きを隠せなかった。今まで使えた者に手のひらを返され、挙句の果てに自信が醜態であると告げられる。
彼にとってそれは火に油を注がれただけだったが。
「…この我が醜いと、よく言うたシュバルツゥ!貴様は即刻死けぇ……ぃぃ…!?」
シュバルツはただ無言に圧力をかける。あの時広間で掛けたあの殺気を今一度ベルナールに放つ。
まさに蛇に睨まれた蛙、身動きすは取る事が出来ず奥歯が震え、膝は笑う。そして恐怖のあまり小便を漏らすほど恐怖に慄いていた。そして恐怖に支配されたベルナールに拍車を掛ける。
「ひぃ……!?」
まるで女子のように声を上げ驚きのあまり、床に尻餅を搗く。なんとベルナールに向かって新たな刃の切っ先を向けた。
ベルナールの顔は涙や鼻水でぐしゃぐしゃになっていった。
「今この場で、貴様を殺すことだってできる。」
「こ、こ、、殺さないでくれぇ!頼む我がすべて悪かったぁぁぁ!」
ベルナールは自分より身分の低いシュバルツに四つん這いになり、これでもかと言うほど媚び、許しをこいた。その姿は最早王の影すらもない、余りにも醜かった。シュバルツはその姿に呆れ、剣を盾に納刀する。そしてそのままベルナールの後を去る。興味深いことにこの時シュバルツはこんな言葉を吐き捨て、あとを去った。
「貴様のような愚者には嫌気がさす。この世に絶対的王など最早不要……絶対なる力が世を治める……。」
シュバルツ吐き捨てた言葉にはいったいどんな意味が秘められるのか、それは分からない。シュバルツは王都クーデリアを後にしどこかへ姿をくらました。




