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zero×騎士  作者: 朧月 燐嶺
第2章 覚醒
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洞穴の猛者2

 巨漢のゴブリンは歯ぎしりをしていた。よほど真琴のことが腹に来たんだろう。しかし真琴は(おく)することはなかった。むしろ余裕すらあった。真琴は巨漢のゴブリンの怒りに、更に油を注ぐ。


「正直、お前は仲間のゴブリンシャーマンがいないと、何にもできない。防御(アーマー)が剥げたいま、お前に勝ち目なんかない。」


 これでもかと巨漢のゴブリンに対して怒りを誘発させる。もちろんその言葉に対して巨漢のゴブリンは相当、頭にきているだろう。しかし、激昂とは少し違った起こり方が巨漢のゴブリンから感じられた。


「……おまえだけは……ぜっ……たいに許さん!!」


 その怒りはさっきまでの荒ぶるような怒りではなく、純粋な殺気を帯びた静かな怒りだった。


 真琴は肝が冷えた。まがまがしぃとか、怖いとかそんな風な殺気はここに来て感じ取ったことはあっても、心の芯まで冷えるような、冷たい殺気を感じたのは初めてだった。


「……」


 あまりの圧迫感に身動きが止まる。巨漢のゴブリンはじりじりと真琴のもとに野太刀を引きずりながらゆっくりと歩いてくる。しかし体は動かない、辛うじて手が動くかどうかだ。その間も巨漢のゴブリンは迫りくる。


(…俺はいったい、どうしたらいいんだ。このままでは死ぬ……罪悪感に押されている場合じゃない…!?)



 内心ではわかっていても、体は応答しない。真琴は確かに卑怯な手を使ったかもしれない、だけど向こうが先に使ったからこちらも汚い手を使った。それで一応は理由にはなる。だが巨漢のゴブリンが見せたあの、静かな怒りが真琴に罪悪感を植え付けた。



 巨漢のゴブリンの怒りは、真琴へ向けた怒りでもあるが、仲間を殺めた自分絵への怒りでもある。


 つい一週間前まで、傷つくことなんて全くない平和な世界で暮らしていた真琴にとっては、どうにも吐き出すことができず、泥みたいに詰まってしまっている。ただ蛮族だと見下した面もあった巨漢のゴブリンは、真琴よりも今に抗っている。そんな気も合ってか体は動こうとしない。


「これで終わりだ……!!」


 巨漢のゴブリンは勢いよく剣を振り下ろした。このままでは真琴は真っ二つに割かれ死ぬ!!だが真琴は微動だに動こうとしなかたった。その瞬間真琴は諦めていたのかもしれない。たった一回の悪乗りが異世界(こっち)では、こんな結果を招くんだと。



 現実世界(あっち)でろくに人と話したり遊んだりしてこなかった真琴は、他人との距離感、されて嫌な事、それがどんなことか分かっているようで分かっていなかった。節度というものが分からなかった。



 そんな基本的な事のミスが、作戦が、今すべてその身に仇となって帰ろうとしていた。



 他人を理解しようとしないそれが自分の罪だったんだと真琴は悟り、全てが終わるんだと思っていた。



 その時だった。ふいにどこからか声が聞こえた。いったいどこの誰が何を言っているのかと思ったが、次第にその言葉がなんといっているのかわかり始めた。


「……私は…なたを……ています」


 まだはっきりと聞こえない。


「……私はあなたを……しん…ています」


 肝心なところが聞こえない。


「私はあなたを信じています」


 その言葉を聞き取った瞬間、またアイリスとの旅が頭の中によみがえった。その言葉に生気の灯っていなかった目がいきなり火が付いたかのように光を取り戻した。



 それと同時に真琴の頭の中で、生きるという言葉(ワード)がはじき出された。



「…俺はお前よりかは、ダメでどうしようもないクズ野郎かもしれない……だが」



 急な真琴の立ち上がりに巨漢のゴブリンは野太刀を真琴の頭の上で止めた。


「今の俺は負けられねぇ、やらなきゃいけないことがある。そのためにも俺はここで死ぬわけにはいかない!!」


 真琴の強い意志に巨漢のゴブリンは面を食らった。


「……ふ、ふざけんじゃねぇ、お前はここで死ぬんだよぉ!」


 そう言ってもう一度野太刀を天に掲げ振り下ろす。今度は迷うことなく刃折れの剣で受け止め、(スキル)を発動した。


反撃(カウンター)!!」


 今度は真琴の反撃(カウンター)の衝撃はが直撃する。巨漢のゴブリンは倒れるかに思えたが……!?


 今度ばかりは自力で反撃(カウンター)を受け止めた。そしてもう一度剣を振り下ろす。反撃(カウンター)を使った反動で回避行動が少し遅れた。


「ぐあぁぁぁっ!」


 巨体から放たれる豪快な一撃で後方の壁に吹き飛ばされる。とてつもない衝撃が体に走った。



 寸前の回避だったが完全によけきれず、むしろ大きな傷を負わされてしまった。胸元から斜めに切られ前の戦闘も合わせ背中と胸元に傷を負った。




 壁に突き飛ばされた衝撃で背中の傷も痛みだす。多少は痛い、おそらく痛覚がおかしくなっているのだろう。けど今は好都合だと真琴は立ち上がり、巨漢のゴブリンに歩み寄る。




「……今のは効いたぜ、だけどこればっかりは負けられない!」



「……こっちだって負けたくねぇんだよ、クソガキがぁぁぁっ!」



 渾身の一発を巨漢のゴブリンは放つ、真琴もそれに向かい打つ。この状況、真琴が反撃(カウンター)を発動すれば、勝利を収めるだろう。



 しかしいままであれだけの数の(スキル)を放てばそれなりに体力を消耗する。現状出すに出せない状況にいた。



 ではいったいどうやって真琴は総合的において勝る巨漢のゴブリンに太刀打ちするのか……!?



 両者ともこの攻撃にすべてを掛ける!しかしそれでは真琴には部が悪い。単純な力比べなら確実に負ける。だが真琴は……!?



 巨漢のゴブリンの攻撃をいなす!そしていなすと同時に内側に入り込み、そのまま攻撃を巨漢のゴブリンに叩き込んだ!



「はあぁぁぁっ!!」


「グウォオォォォ!」


 決着はついた。巨漢のゴブリンがゆっくりと地面を背にして倒れる。

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