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zero×騎士  作者: 朧月 燐嶺
第2章 覚醒
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未熟な心 その3

二日ぶりの投稿です。

 


 昼間は穏やかな平原も、夜になればモンスターが蔓延る危険な場所に変わる。なぜ夜に行動を避けるのか痛いほど身にしみた。騎士との戦闘のダメージもまだ抜けておらず、ひっきりなしに野盗のゴブリンやコボルト、他にもマタンゴやダークウルフなどのモンスターが襲いかかる。森の中に入って今も尚逃げ続けている。倒そうにも数が多く、多勢に無勢。おまけに妙な連携も取ってくる。真向から勝負を仕掛ければ、間違いなく死ぬ。


 それに走り続けてどれぐらいが経ったか……そろそろ体力の限界だ。その時だった、真琴が木の根っこに足を躓かせた。



「あっ!?いってぇ〜」



 流暢にリアクションを取っている場合ではないが、この状況はまずい。真琴が躓いてから、足音は急に止んだ。草原から森の中までひっきりなしに追いかけてきた、モンスター達は夜でも目がみえ、確実に真琴の居場所を把握している。足音が止んだと言うことは、諦めたと考えたいが、万に一つその可能性は無いだろう。おそらく、モンスター達はいつでも真琴を襲えるように構えているのだ。夜の静寂が、妙に悪寒を走らせ、静かなる時は、体の底から恐怖を生み出す。何もしてこないと言う疑惑、いつ襲ってくるかの緊張。神経をむき出しにして、今か今かと伺う。その一瞬真琴は気配を感じ取り後方にあった木に背中をくっつける。


(やっぱりいる……だがこれで背中は狙えない筈だ。さぁ、来い!)


「!?」



 その時だった、真琴の体に強い衝撃が走った。暗闇の中で微かに見えた大きな手……人のものでは無いことは一目でわかった。獣の腕……!その腕が大木ごと真琴を掴んだ。


「あぁぁぁ……」


 肋が、背骨が軋む?!今にも骨が砕かれそうだった。獣の腕は大木ごと真琴を掴み潰そうとする。直感的に真琴は刃折れの剣をその獣の腕に突き刺した。


「グウォォォン!」


 獣は叫んだ、その時一瞬掴んでいた腕の力が緩み、辛くも脱出できた。今も叫び続ける獣を見ると、その姿に真琴は驚いた。全長三メートルを優に超えるクマ型のモンスターだった。あのとき獣の腕に剣を突き刺していなかったらおそらく死んでいただろう、全身の骨を砕かれ……しかし真琴には、想像の余裕すらなかった。


「ちぃッ!?」


 一瞬のうちに何かに腕を裂かれた。思わず傷口に手を当てる。左腕に、三本の傷跡が付いている。引っ掻き傷だ。おそらくダークウルフのものだろう。すると傷をつけた主が喉を鳴らし、こちらに飛びかかってきた!?その一瞬、白く輝く牙が見え、剣で受け止める。反動で体制を崩し、仰向けの状態になる。ダークウルフは剣を噛んでいた。真琴の読みは正しく、首元を一噛みで仕留めるつもりだったらしい。間一髪のところで、それは阻止できた。剣に噛み付いて尚、離れようとはしない、そこで真琴はダークウルフの腹を蹴り、攻撃を凌ぐ。


「クソォ!いったいどれだけ数がいるんだっ!」


 剣を視線の方向へ向け、警戒する。するとそこまで遠くない距離で大きな声が聞こえた。



「かかれぇ!」


 何かの合図のようだたった。その合図と共に、槍や矢などが真琴の周りを囲むモンスターに降り注ぐ。数本の槍や矢が真琴に飛んできたのはさて置き、槍と矢の雨は的確にモンスターを仕留めた。そして茂みから数人の男が出てきた。


「あんた達いったい誰なんだよ?」


「………」



 男達は答えなかった。その瞬間だった突然男の1人が真琴を抱え走り出した。それに着いていく形で残りの男達も走っていく。当然ながら自分が運ばれていることに不信感を抱いた真琴は声を上げる。


「下ろせ!いったいなんなんだよあんた達は?」



 依然として男達は黙ったままだった。すると木々の間から微かな光が見えた。その光の正体は小さな集落だった。アイリスのいたエルフの村よりも更に規模は小さい。つまり少数の人数で構成されているのだろうか・・・考えを煮詰めていると、乱暴に地面に下される。


「いてッ!!」



 乱暴に地面に下ろされた真琴は、起き上がる暇も、これから少しの行動すらも起こす猶予もなく、そのまま腕を後ろ向きに縄で縛られ、間に棒を挟まれ、逃げれない状況のなか集落の中でもひときわ存在感を放つ家の中に押し込まれた。床に胡坐をかき無理やり頭を下げさせられた。するととてもきれいな声が囁いた。


「表を上げなさい……」



 そう言われ、無理やり頭を押さえつけていた男たちが力を緩めた。真琴はゆっくりと頭を上げた。するとそこにはとてつもなくきれいな女性が椅子に腰かけていた。まさに立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花。そのことわざ事態が目の前の女性を象徴するかのように思えた。


「…どうかしましたか?」



 美しさに我を忘れていたことに気が付く。



「…いえ、あなたがあまりにもきれいだったので、つい見とれてしまいました」



「そうですか、確かに私は美しい。しかし、賊にもそういう目があるとは意外ですね…」



「ぞ、賊!?俺が・・・?」


 どうやら真琴は賊と勘違いされている。当然ながら真琴は賊などではない。



「あなたは賊でしょう?」



「いえ、違います!俺はただ旅をしているだけです」


 率直に賊でないと証明しようとするが…



「賊でないと言うなら、なぜこの森に足を踏み入れた?普通の冒険者ならまずここに足を踏み入れない。足を踏み入れるのは命知らずか、賊のどちらかです!」



 女生とは思えないほどのに、覇気のある喋りかただった。真琴はその言葉に威圧感を覚えた。だが、話はまだ終わっていなかった。



「賊でないとしらを切るなら、この森に足を踏み入れた理由を聞かせてもらいましょうか?」



 真琴は息を整え、自分が伝えたい理由を頭の中に思い浮べ整理し、いざ言葉に表す。



「…俺がここに来た理由は、この森を抜け、仲間を助け出すためだ!」



「仲間というのは賊の仲間か?」



 この期に及んで真琴を賊扱いする。すぐさま言葉で返す。


「違う!俺と旅を共にした大切な仲間だ。だけど…」



 真琴は下を向き恨めしそうに歯を噛みしめる。



「だけど、俺の力が未熟なばっかりに、仲間は連れ去られてしまった…だからもう一度立ち上がって、今度こそ仲間を助けたいんだ!」


 俺を問いただした女性も、後ろにいるギャラリーたちも皆に何かを思わせるような、空気を作ってしまう。そんな空気の中女性はこう告げたのだ。



「…あなたが賊でないことは信じましょう。ですが、この森を抜けさせる訳にはいきません」


 思わぬ言葉に、体が奮い立つ。



「なんでだよ!分かってくれたなら、俺を行かせてくれ!」


 言動以外の行動を取ったせいか、後ろに立っていた男に後ろから抑え込まれる。


「おやめ!」



 女性の一言で、男達の圧迫から解かれる。


「残念だけど、ここから先に足を踏み入れさせない、それが私たち一族の決まり事なのです。わかってください」


「わからねぇ、そんな説明で納得できるか!」



 一族の決まり、それだけで済まされたって納得いくはずがない。すると女性は全容を語りだす。


「我々、コウガの一族は代々、森に足を踏み入れる者を追い返すのが役目です。もし禁を破り足を踏み入れたものがいたら、その者を殺すのも役目です。ですのであなたをこれより先には向かわせることはできません」


 理由は分かった。だけど真琴は命に代えてもアイリスを救う気でいた。禁を犯すくらいの覚悟は備わっていた。



「あなた達の理由は分かった。だけど、俺はそれでも行く。たとえ命に代えてでも、仲間を助けたい」


「意志は変わらないのですね?」


「あぁ…」


 この流れはと思ったが、現実はそうも甘くなかった。


「お心は確かに分かりました。ですが...ここは長として、一族の為にも掟は曲げれません」


「長?あんたがか」


 うすうすは分かっていたが、あえてオーバーリアクションを取る。



「そういえば、名乗るのがまだでしたね。私はコウガ一族の長、リョウヒです。先ほども言いましたが、掟は曲げれません…」


「どうしてもか?」


「ええ、いぞんはありません」



 少し黙り込む。もはや策は尽き、これまでかという状況だった。あきらめようとするたびに、アイリスの表情が、悲しい目が頭をよぎる。その時の悔しさが、真琴の感情を爆発させた。


「いいわけなぇだろおォォッォ!」



 あきらめようとした自分の迷いを根っこから消していく。叫ぶと同時に額を床に思いっきり叩きつけた。あたりの観衆やリョウヒは面を食らったかのように、静まり返っていた。途中から黙り込んでいた観衆はざわつき始めた。真琴は頭を上げ話始める。


「掟が破られたら殺す?ふん…上等だ。俺は仲間の為に命を懸ける…!もしも道半ばで死んじまったら、俺が甘かったって思うよ。だけどあきらめねぇ…たとえ死んでも食らいつく!それが俺の人間としての覚悟だァ!」



 その言葉の直後に後ろの男たちにまた押さえつけられる。だが今度は食い下がらず、顔をリョウヒの方へ向ける。そして真琴は最後にこんなことを口走る。



「…掟って大切なものだよ、掟を破るのは馬鹿野郎のやることだ…あんたらもそう思ってんだろ?だけどな…掟以上に、仲間を守ろうとしないのは大馬鹿野郎のすることだ…ガッハ!?」



 何とか顔だけは保てていたが、それもついに限界が訪れ、三度地面に顔を付ける。そしてリョウヒは男に命令を出した。



「この少年の腕の拘束を外して…」



 その言葉に男たちは戸惑う。


「…し、しかし」


「いいからやって、解いたあとも押さえつけておいて」



 真琴の拘束は腕だけが解放された。しかし現状は変わらなかった。そしてリョウヒ次の命令を出した。


「その少年の左腕の袖を捲れ……」


 言われるがまま、男たちは真琴の袖をめくり、見えるように腕を半回転させ、掲げる。その場にいた一同は驚いた。言わずもがな真琴の腕には、生痕(せいこん)がない。



「あなたはさっき、自分が人間であるかのような発言をしましたが、それはどういうことか説明してくれますか?」



 真琴はしょうがなく答える。


「左腕に生痕(せいこん)がない時点で気づいているとおもうが、俺は混血種(リジンヌ)じゃない…人間だ」


「あなたは人間なのですね、この世界は人という原種が既にほろんでいる。あなたはそれを知っていますか?」


「あぁ、知ってる」


「そうですか…その少年を離してあげて」



 真琴は驚いた、自分が人間であることが知れたとたんに、拘束が解けることの意味が分からなかったからだ。


「…なんで、拘束をといたん…ですか」


 真琴はだんだん冷静さを取り戻し始めた。


「あなた名前は?」


 何故名前をこの場で尋ねられたかは分からなかったが、向こうが名乗っておいてこちらが名乗らないのはおかしいと思い、名乗る。



「…神宮寺…真琴」


 観衆はざわつきだす。



「…真琴さん、あなたに生痕(せいこん)がないということにここにいる誰しもが驚いています。ですがあなたのその左腕が真実を物語っている。それは動かぬ証拠、ならば認めるしかありません…」


「待ってくれ、リョウヒさんは何を一人で口走ってる?俺には全くわからないんだが…」



 真琴が人間であることがここで何を意味するのか、いったい何を認められたのか見当がつかなかった。するとリョウヒは真琴にこんなことを話し始めた。



「…今から数百年前に、この村を救った英雄は言いました。『…我はこの地で人を待つ、その代わりにこの森を我の手で守る。待ち人以外は何人たりともこの森に近づけさせないと…』そう言い残しこの森を守り抜いた英雄がいたと、先祖代々語り継がれ、今もなお、この森は守りつづけられている。…あなたが人間であるなら、この森の奥地を進む権利はあると私は考えます」



 真琴はリョウヒから予想もしていなかった言葉を耳にし、驚いていた。人間であるからその資格がある。もしそうだとしても、今までの言葉を覆す理由にはならない。まだその理由がわからなかった。



「それだけが理由じゃないはずだ、人間だとか権利だとか、そんなもの云々(うんぬん)に…さっきまでの言葉を覆した訳が分からない……」


 リョウヒは少し呆れた顔をした。



「…単純です。あなたの仲間への思いに心を突き動かされたからです。自分の命に代えても他者を守ろうとするその意志、それがあなたの人としての在り方だと、私は思ったからです…これでは不満ですか?」



 リョウヒは分かっていたのだ。真琴の思いが本物であることを、真琴は少し慎重になりすぎていたことを自覚した。


「いえ、そんな…感謝しかないです」


 その言葉を聞いてリョウヒはうなずいた。



「みんな、私の決定に不服はありますか?」


 観衆はそれぞれ顔を見合わせた。そして互いにうなずき…


「「異議なし!!」」


 と、口を揃えて言った。その言葉を聞いてリョウヒは真琴にこう切り出してきた。


「真琴さん、今日はもう夜も遅いし泊まって行ってください。森は夜の方が牙を剥きます……」



 ゆっくりしている猶予はないが、焦りすぎるのも逆効果だと思った。それにアイリスを連れ去った騎士との戦闘でダメージをおった状態で、モンスターから逃げ回った分の体力は回復しておいて損はないと思う。真琴はリョウヒの言葉に甘えることにした。


「分かりました。お言葉に甘えて今日は休みます。」


「うん、そうしてください」



 真琴はリョウヒの家に泊まることになり、夜の間安らかなひと時を味わった。

 森に向かう時気が立っていたせいで、荷物を草原に置いてきたことに今更ながら気づいた。普通は気づくはずだとは思うが、どうも真琴はそういった面で少し抜けているのかもしれない。リョウヒ宅で食事をとり、それから直ぐに床に就いた。一日分の疲れがどっとシミ出した。



 床に就くやいなや、気絶するかのように眠りに落ちた。アイリス奪還のためしばし英気を養うのであった。














次回もお楽しみに。

(感想もどんどん書いてもらえると嬉しいです。それと、誤字脱字報告も気づき次第、ご報告お願いします)


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