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zero×騎士  作者: 朧月 燐嶺
第2章 覚醒
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未熟な心 その2

今回は短めです。

 

 予想していなかった。完全なる計算外の出来事に、全てが無謀に思えてきた。どんな攻撃も防ぐ無敵の盾、その攻略法は無いに等しい。それに盾がアレなら、恐らく剣の方も何か特殊な力があってもおかしくない。ならば尚のこと奴に手は出せない。


「来ないのか?ならこちらから行こう!」


 そう言い放つと騎士はこちらに駆け寄る。右手に持った剣を一連の動作をこなすかのように振りかざす。刃折れの剣でなんとか凌いではいるが、明らかに一撃が重い。まだ三回程度しか剣を受けていないのに、肘に着々と重みが痛みに変わっていく。これが力の差だと言うのか…! 真琴はそれでも攻撃の隙を見つけようと耐え凌ぐ。しかし予想だにもしない一撃が真琴に当たった。


「ぐふぉ・・・」


 思いもよらぬ一撃、それは盾による攻撃だった。盾先が胴体に重い一撃を与える。その衝撃で後方へ吹き飛ばされる。


「今のは効いただろう?」


 何故か今の攻撃が意味がありそうな発言だった。実際何が起こって、あの距離で盾をぶつけてきたのか頭が混乱していた。


「まさか……零距離で!?」


 するとその騎士はニヤッと笑みを浮かべた。


「ご名答。そうだよ零距離でだよ。でもなんで盾で攻撃なんかしたのか?それが君の疑問だな少年」


 心を見透かされたような、嫌な気分だった。


「教えてあげるよその訳を、君は盾を守るための道具としか思ってないだろう?」


 言われてみればそうだと思った。



「その君の固定概念が今の結果を産んだんだ。つまり未熟さ故の過ち、一つの物を一つの使い方でしか考えられない、それこそが君の敗因だ、わかったか?弱い力じゃ何も救えない。」


 自身を全否定されている気がした。


「てか、なんでそんなにベラベラと俺に能書きを垂れてんだッ……」


「……タダの気まぐれかな?」


「気まぐれ……!?」


 真琴はその瞬間に嫌な気を感じ取ってしまった。完全なる力の差。自分はあいつに勝てない…心がそう悟ってしまった。


「まぁ、強いて言うなら君に完全なる敗北を与えることかな」


「…完全なる敗北」



 痛いほどその言葉の意味がわかった。人は何かに恐怖しちまうと、それがトラウマになって、立ち直れなくなることもある。自分がいかに無力化を教えられている。そう感じとった。


「…理解したようだな、それでいい。そのまま地面にはいつくばっていろ、君の役目はそれだけだ……」


 真琴は心底後悔していた。自分の未熟さ、甘さ、弱さ。そのせいでアイリスは攫われる。全て俺のせいだ……


「…おい、あれをくれてやれ」


「はッ!」


 その騎士は、部下に命令して金の入った袋を真琴の元におかせた。気づいてはいたが、顔すら上げられなかった。


「…手荒な真似はしたくないが、万一を考えて……」


 騎士はそう言って片手を上げ部下に命令した。部下の騎士がアイリスの手足を縄で縛った。そして騎士がアイリスを担ぎ馬に跨った。


「キャンプ地はすぐ近くだ。それまでこれで間我慢してもらう。」


「……」


 アイリスは黙って指示に従った。その間真琴は地面にうつ伏せのままだった。

(いいのかこれで?あんな奴にアイリスを攫われて、俺はこのまま金を受け取ってそれで終わり・・・それで本当にいいのか?愛想悪いやつだが、ここまで来た中だろ?本当にこれでいいのか………)


「……いいわけ、ねぇだろおぉぉ!」


 真琴は勢いよく立ち上がり、その反動を生かし騎士に切りかかる。その騎士は驚いた様子だった。牙を折ったはずの犬が今こうして噛み付こうとしている。騎士の顔は怒りが顕になっていた。しかし真琴に背を向けているため、真琴は気づいていない。


「今の状況ならお前は攻撃出来ないはずだ!」


「…ぬかせッ!」


 騎士はそう放ち、アイリスを上空へ投げ。そして盾から剣を抜き、真琴を切り裂いた。真琴は見えなかった、その一撃が、その刃が、全く見えなかった。疑問を抱えたまま、地面に落ちる。

(…いったい何が……)


「…命までは奪わん。だが、これで最後だ。次私に刃向かったら殺す……いいな?」


 その言葉は耳には入っていたが、刹那の一撃、焼けるような痛みが、離れることなく言葉をかき消す。


「…無理もないか……撤収だ」


 騎士の号令と共に、王国兵士達は真琴の元を去っていった。しばらくして、痛みが少し引いて真琴は腰を起こした。顔は俯いたまま、地面を見ていた。空は真琴と違って綺麗なオレンジ色の夕日が世界を染め上げていた。


「…クソォォォおおおおおおおおォォおおォォお!」


 真琴は盛大な雄叫びを上げた。真琴の叫びは虚しく草原に消えていく。王国兵士が去った今、真琴の心の中は絶望は怒りに、悔しさは憎しみ代わりつつあった。生まれて初めてこれ程個人に対して負の感情抱いた。その原因が自分だと知っているからこそ、余計に腹がったった。すると、木陰から誰かが近づいてきた。


「…お兄さん、災難でしたな」


 真琴は声の主を睨みつけた。


「誰だお前!」


 すると驚いた様子で、こちらを宥めてきた。


「ま、まぁ落ち着いて。」


「落ち着いていられるかぁ!」


「お兄さん。さっきの見てましたよ」


「何?」


 怒りの感情を抑えられず、謎の誰かに強く当たり散らす。


「そう怒んなさんなって、あんた不運だねぇ、よりにもよってべっぴんさんなエルフ連れてかれちゃって」


「うるさい!黙れ」


 そう言って、つき倒し切れないように喉元に剣をつき当てる。


「ひ、ヒィィィ!!こ、ここ殺さないでぇー!」


「……」


 真琴は無言で剣を戻した。そして深呼吸して息を整えてる。


「済まなかった。当たり散らして」


 謝罪を真意に受け止めてくれたのか、謎の男は許してくれた。


「いや、オイラが悪かったからええんよ。」


「……不躾ですまないが、アイツらがどこに行ったか分からないか?」


 謎の男は少し考え答えた。


「…多分王都に戻る途中だと思うぜ」


「王都?そこにはどうやって行けば?」


「……ここからなら、一度トルークに戻てから行くか、ルーリットまで行ってそこから1日ってとこだ、歩きなら」


「それじゃ遅すぎる、もっと早い道はないのか!?」


 真琴は肩を揺さぶった。


「…まて、待ってくれ。あるにはある………」


「本当か!」


「しかし………」


 男は黙り込んだ。真琴はその態度が不思議に思い聞いてみる。


「何かまずい事でもあるのか?」


 はっとした様子で、男は答える。


「い、いや!?ち、違うんだ。ただ……」


「ただ?」


「そのルートから行けばお兄さんは絶対帰って来れなくなる」


「曖昧だな、もっとはっきり言え!」


 少し話を急がせる。


「わ、わかった。実はその先の森は魔の森って言われてて、その森に入ったものは生きて帰って来れないって、もっぱらの噂だ」


「所詮は噂だろ?」


 真琴は疑う。


「ちがうんだって!?王国兵士の調査団が3回も調査に乗り出したが、誰一人として帰って来なかったんだよ」


 嘘だと疑おうと思ったが、その焦った様子がどうにも本当に思えた。


「そこが1番早いルートなんだな?」


 驚いた様子で男は真琴を説得する。


「やめ時なって、お兄さん死んじまうぞ!?」


「死ぬぐらいの覚悟がないと、アイリス……仲間は助けられねぇ、それに……それぐらいじゃないとアイツを倒せない………!」


「兄さん……」



 そう言い残し真琴は男の元を去り、森へ向かおうとした。その時だった、男に呼び止められる。真琴は煙たい顔をして振り向く。


「なんだ…」


「兄さんこれ忘れてるぜ」


 それは騎士が置いていった、金の入った袋だった。騎士の要求を呑んだ訳では無いため、必要なかった。


「あんたにくれてやる。情報量と、さっきの謝礼を兼ねて全部やるよ」


「し、しかし……」


「俺には無用の長物だ、それに受け取っちまったらあいつとの取引に応じたことになっちまう。だからあんたにやるよ」


 そう言い残して真琴は先を急いだ。

 意外にも森までは近い距離だが、今の状況そうも気楽に言ってはいられなかった。

明日投稿出来るか分かりません。

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