第22話 未熟な心
最近どこもかしこも、猛暑……猛暑で、出先で死にかけてます。皆さんも熱中症や脱水症状などに、十分気を付けてください。
現在昼を過ぎたころだろう。太陽が空の頂点に来ている。朝と比べて日差しが強くなった気がする。肌にジリジリと日光が照りつけるのを感じた、そんな暑さの中アイリスから真琴への相談があった。
「そろそろお昼にしませんか?」
真琴は少し考える、すると真琴の腹の虫が急に鳴き出す。
「・・・そうだな、お昼にしようか」
空腹は思考をねじ伏せる。考える事よりも先に空腹が報せをだす、その事には体は逆らえなかった。ジョッシュの作ってくれた弁当を食べる事にした。弁当箱の中身はサンドイッチだ。それと干し肉と水をリュックから取り出し食す。道中にあった地表に突き出している、座るにはもってこいの岩に座り込み、昼食をとっているとまるでピクニックみたいだと真琴は思った。昼食を堪能していると、アイリスは完食していた。
「…もうちょっと味わって食べたらどうなの?」
少し茶々を入れてみる。その反論にアイリスはこう答えた。
「…私はこれでも味わいました。あなたが食べるのが遅すぎなだけです」
そう突き返してきた。それもそうかと急いで口にかきこむ。口にこれでもかと詰め込んだせいで、飲み込んだ時に少し喉を詰まらせたが、大事には至らなかった。
そして二人はそれから一切話をしなくなった。どうでもいい世間話、次の街のこと…何一つ口には出さずひたすら道を突き進んだ。昼食を終えて歩き始めてからどれくらいたったかは覚えてはいない。持ち運びの出来る時計などは、この世界だと貴族か魔法使いが持っているのが相場だとか、ようは高かったり、それなりの力が必要というわけだ。金銭面に全くの余裕のない現状からしたら買えるはずもなく、日の沈み用で時間を推測するしかない。理科の教科書に日照の動きによる時間の推測は書いてあったと思うがそんな事には目は通していなかった。現状真琴には時間は分からなかった。するとアイリスが呟いた。
「…だいたい午後三時半ってところかしら?」
「分かるのか?時間……」
思わず真琴はアイリスに聞いた。
「大体ですけどね、正確な時間を言えと言われれば無理ですが。」
「へぇ……」
真琴はかえって気まづくなった。ただでさえ何時間と話してないのに、いきなり話しかけるのも何だし、向こうが振ってきても何を言えばいいのかも分からない。要はへたれである。だけど、真琴の思っていることとは逆にアイリスは話を繋げる。
「もう少ししたらテントを貼りましょう。暗くなってからでは少し面倒ですし」
「そ、そうだな」
と言って、もう少し歩くことにした。驚くことにこんなにだだっ広い平原なのに、通行人は誰一人として見かけないのが気がかりだった。時間帯が時間帯なのかもしれないが、それにしても誰とも合わないのは何だか寂しいものだと、旅をしていればこんなこともあるかと済ませる。すると目の前に人影が見えた。その時真琴が抱いていた心のつっかえが少し解けた。だがまだ何か引っかかるきがした。
「アイリスさん、あそこに人影って……」
「行商人…にしては多すぎますね、行商隊でしょうか?」
「行商人ならもっと積荷や馬がいてもいいんじゃないか?」
するとアイリスが何か驚いた様子で真琴の手を引いた。真琴は驚いた様子でそのままて手招かれる。アイリスと真琴は近くにあった岩陰に隠れた。
「いったい、どうしたんだよ?急に引っ張ったりして」
「しーッ!声が大きい、あれは恐らく王国騎士よ」
「王国騎士…?」
ヒソヒソと会話を続ける。
「…ええ、奴らは表では王国騎士と名を掲げているけど、現王に変わってからはいい噂は全く聞かない。訪れた町や村から無理やり税を取り上げたりとか、顔や身なりが整った女性がいたら連れ去ってしまうとか……とにかく関わったら面倒な事になるわ。ここは事が過ぎるのを待ちましょう」
「…そうだな」
アイリスの意見に賛成し、事が済むまで岩陰に隠れることにした。少し様子を伺って見ると、何か話しているそぶりが見えた。立っている奴が馬に乗っている奴に何かを話しているのが見える。いったい、いつまでこの状況が続くのかと思っていると、思わぬ出来こどが起こってしまう。
真琴が不意に手を地面に付いたとき、運悪く木の枝か何かが折れる音がした。その音はそこまで大きい音ではなかった。ましてやここら凡そ百メートル前後は離れているはずなのに、向こうの馬に乗った騎士が勘づいたのだ。
「…そこの岩陰におる者よ出て来い!…魔物か?それとも混血種か?」
確実に場所はバレ、そこに何者かがいることを問われている。だが行こうとするとアイリスは首を横に振った。ほとぼりが冷めるまで待つことにした。しかし……
「そちらが素性を現さないのなら、こちらから行くまでの事だ…」
そう行ってこちらにゆっくりと歩いてくる足音が聞こえたが、途中で足音は途絶え、金属音が微かに聞こえた。その瞬間だった、真琴は何か嫌な気を感じ取り、すかさず大声を上げアイリスを押し飛ばし自分はその勢いで後方へ下がる。
「アイリス!危ない!?」
すると真琴の予感は的中し、隠れていた岩が真っ二つに割れた。驚く事に割られたと思った岩は、真っ二つに両断されたていた。切断面からは微かに湯気が立ち込み、研磨剤で削ったかのような光沢のある断面。それを見ただけで相手の力量が嫌でも分かった。
直感的に力の優劣を悟ってしまった。
(…恐るべき剣さばきだ。俺なんかが、適う相手じゃねぇ……)
「ほう……今のを避けるか、大したものだ」
真琴はそっと声の主を見つめた。ここでもまた驚かされた。年は真琴よりも上だが、如何せん若い、ざっと二十歳前後だろう。そんな青年の放った剣戟は岩をも断ち切る。次元の差、核の差を実感すると共に、死をも恐怖した。その真琴の態度にその者はこう告げた。
「そう、恐縮する事も無い。下手な事をしなければ殺しはしない」
そう言われたものの、警戒はおこたらないように、意識した。まだ嫌な気は依然として残土のように残っているからだ。
「ところで、岩陰で何をコソコソとしていたのか………聞かせてもらおうか?」
真琴はどう答えればいいのか困った。するとアイリスの方から話し出した。
「ここら辺に野営用のテントを貼ろうとしていたんです。」
簡潔ではあるが場は繋がった。だが、向こうの騎士はまだ質問を続けた。
「ならばなぜ投降に応じなかった?結果的に実力行使になったが……その理由を聞かせてもらおうか。」
「誠に御無礼かもしれませんが、盗賊と勘違いしてしまい投降には応じませんでした」
「ふむ。そうか・・・」
上手い、とは言い難いが切り抜けられたと思った。
「それにしても、混血種とエルフがともに旅をするとは……誠に珍しいなぁ、混血種を嫌うはずのエルフがともに旅を………その理由を聞きたいものだ。」
真琴は顔には出さなかったが、その騎士の言葉に驚いた。“混血種を嫌うエルフ”今までのアイリスの冷めた態度は全てそう言う意味合いがあって、冷たく接していたのか。真琴の心の中にモヤのようなものが立ち込めた。
「成り行きです。他に深い理由はありません」
なんのためらいもなく、アイリスは即答した。真琴は依然として黙っていたままだった。
「なら話は早いな、アレを……」
その騎士は部下らしき騎士に何かを持ってくるように指示した。そして一人の騎士が近寄り、革製の袋を手渡した。それを受け取り、その騎士はこう真琴に告げた。
「混血種の少年よ、これで引いてはくれないか?」
その騎士は金の入った袋を突き出してきた。賄賂と言うべきか。みるからにして、相当な額が入っているに違いない。受け取っていいものなのか、しばし真琴は固まった。
「何をためらう?エルフの女を渡せばお前には多額の金がてにはいるんだぞ。」
真琴は唖然とした。受け取ろうか迷った金は、アイリスとの交換の金だった。そんな人身売買みたいなことするものかと真琴は思った。そしてアイリスの方へ徐に視線を向けると……濁った表情をしていた。まるで金を受け取るのが正しいとか、こうなってしまっては仕方がないと、覚悟とは逆に諦めが表情に映った。
(もともとは俺の責任だ、例えアイリスが諦めていても俺は……)
真琴は意を決し逆らうことを選んだ。
「その件は断る!」
その騎士の顔が一瞬歪み、元に戻ったかと思えば、凄まじい殺気をこちらに飛ばしてきた。そのプレッシャーは今まで味わった事の無いほどの威圧感だった。蛇に睨まれた蛙とはまさにこの事だと体で痛感した。反論の後から、その場を一歩も動けず、背筋が凍るほど、身体中から汗が湧き出てくる。つまり真琴は弱者なのだ。この張り詰めた緊張感の中で、力の優劣を悟る。そして戦う前から、勝敗を知る。それらの提示から弱者と知れば体は思考の伝達に逆らう。真琴は粋がったはいいが、ただ立ち尽くすだけだった。
「さっきの威勢はどうした?さっきの失言……今ならまだ許してやる。取り消すならいまのうちだ」
「………」
真琴は黙り込む。何か策を考えようにも、頭の中は真っ白だった。するとアイリスのは真琴にこういった。
「…私のことは気にせず、あの騎士に謝って旅を続けてください。私とあなたはなんの関係もありません。だから……だから、ここは引いてください」
真琴にはアイリスが本当は助けて欲しいと思っているそう感じ取れた。そして表情には出さないが、心の中では涙を流しているのだと。
「エルフの女もそう言っている。さぁ、どうする!」
「ふん、決まってんだろ……断る!それと同時に俺はあんたと戦う。それしかアイリスを取り戻す手段がないから。」
真琴は鞘から刃折れ剣を抜いた。
「どこまでも愚かな奴だよ少年。君に勇気と無謀は違うという事を教えてやろう、それと同時に格の差をな。」
真琴は迷いなく飛びかかるが、軽くかわされる。着地して直ぐに、相手の間合いに飛び込み、間合いをつめ一振攻撃を与えようとするが、手首を掴まれ攻撃は阻止され、挙句の果てに膝蹴りを鳩尾に貰う。
「ぁぁ………」
声すらも出ないほどの苦痛だった。
「君相手なら剣も、盾も使う必要はない」
実戦経験がほとんどなく、体術にも心得がないズブの素人の真琴が適う相手ではないのか?だが真琴はまだ諦めてはいなかった。オークやゴブリンを葬ったあの力なら一泡吹かせられるかもしれない。
「その言葉、直ぐに取り消させてやる!」
真琴は昂る感情を相手にぶつけた。
「はァァ!」
横薙ぎに刃折れの剣を豪快に振る。咄嗟に騎士は後方へ避けたが異変に気づいた。
(鎧に傷が!?さっきの攻撃をかわし損ねたか……いや、あの使い物にすらならない剣で、ここまでの傷がつく筈がない…)
鎧の傷はまるで、高熱を帯びた刃か、熱光線がかすったかのような、溶解した跡になっていた。
「いいだろう、今度は手加減しない」
真琴の宣言通り、騎士に剣を抜かせた。珍しい事にその騎士は、盾に剣が収められてた、風変わりな物を持っていた。
真琴は、さっきと同じく勢いよく斬りかかる。騎士はさっきの不思議な一撃を警戒してか、盾で受け止める。真琴はひるむ事なく剣を振り、攻撃の隙を作らせないほどに、連続攻撃を仕掛ける。
その攻撃は容易く盾で受け止められ、一方的に攻撃を仕掛ける真琴は体力を奪われ続ける。このままではまずいと分かってはいるが、引くに引けない状況だった。攻撃を緩めればその隙に一撃をもらう。このまま攻撃を続けても、体力が尽きればその時点でやられる。
するとこの状況下で、真琴の攻撃が運良く騎士のガードを弾いた。勿論その瞬間を見逃さず、もう一撃仕掛ける。刃折れの剣を豪快に振り下ろす。微かに視界に映った刃折れの刃は、刃折れの部分から透明な刃があるように見えた。これならいける!そう思った。だが!?振り下ろす半ばで騎士の剣が進路を阻もうとした。だけど、それも真琴の計算のうちだった。オークを倒したあの技ならダイレクトに攻撃を与えられる。
真琴はあの不思議な攻撃を自分の記憶とアイリスの証言から照らし合わせ、分析した。そして導き出した答えが、反撃だ。しかも特殊な事に、相手の攻撃を衝撃波として返す。それが真琴が振るった攻撃。このチートにも思える攻撃なら肉体にダイレクトに攻撃できるはずが…………
キィンッ!!
剣と剣は互いにぶつかり合い、確かに真琴の反撃は事実上成立した。しかし真琴の計算外の一面を騎士は持っていた。
「…反撃…を受け止めた…!?」
すると、その騎士は笑い声を上げ話し出した。
「ふっふふッ……君の剣には何かあると思って、発動しておいてよかったよ」
発動?いったい何を言っているのか真琴には分からなかった。
「…なんの事だ!」
「…技だよ」
「技?」
思わず疑問符を浮かべる。その騎士はご丁寧に“技”の事を説明してくれた。
「その表情からすると、技を見るのは初めてのようだな。ならおしえてあげるよ、私が君の攻撃を防いだ訳を……私が君の攻撃を防いだのは、この盾の固有技だ。このイージスの盾には、『神の盾』という技がある。この技はどんな攻撃も防ぐ。単純明快な技だ」
風変わりな盾だとは思っていたが、まさかその盾にそんな力があるなんて、予想していなかった。完全なる計算外の出来事に、全てが無謀に思えてきた。
明日も同じ時間に投稿するので、ぜひ見ていってください<(_ _)>
(誤字脱字などありましたら、積極的に報告してもらえると、大変助かります)




