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zero×騎士  作者: 朧月 燐嶺
第2章 覚醒
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古びた宿 その2

 ー今日という一日を俺は終える。そして朝が巡る、窓から零れる光と小鳥の囀りと共に俺は目覚める。


「ふぁ〜……」


 気だるいあくびで、意識があまり定かでない中辺りを見渡す。隣のベッドではアイリスが何やら真剣に何かに打ち込んでいるのが見えた。何をしているのか気になり直視する。視界がはっきりせず、何かは見えなかった。その時だった。


「私に何か言いたいなら、ちゃんと言葉で言ってください。口下手な所済まないけど」


「勝手に決めつけるな!確かに……あ…当たってなくはないけど……」


 やれやれとため息をついてアイリスは言う。


「それで要件は?」


「あ、そうだった。今何してんだ?」


「剣の手入れです。あなたのと違ってしっかり手入れしないとダメになってしまうので」


 完全に俺の持ってる剣をアイリスは貶した。

 この剣だって俺が折る前まで立派な剣だったのにな、などと自分から剣をおったと認めた。


「誰も好きで刃折れの剣なんてつかわないよ、だいいち武器を買う金もないし現状これしかないんだよ!」


「なら、早くお金を貯めて新しい獲物を拵えることですね」


 サラッと俺の熱情は流される。現状持ち合わせている金じゃ野営は無理だとアイリスは言っていた。なら、前みたいに依頼主を探すしかないそう思った。とりあえず俺たちわは朝食をとるために食堂へと向かった。食堂はそれに見合った広さを備えていてもやはり誰もいないともの悲しいものだった。空席に座り朝食をとることにした。朝は意外と軽食で、サンドイッチとサラダ、飲み物は牛乳と元居た世界とあまり変わらない感じだ。二人とも黙って朝食を済ませる。そして部屋えと戻りこれからの計画を練ることにした。


「なぁ、アイリス…さん。これからいったいどうするんだ?」


 アイリスに何か根端があるのだと思い、俺は質問をした。


「さぁ、どうするんでしょうね?」


「へ…?」


 思わず疑問が漏れる。


「へ…?なんて言われても私たちはギルドに所属していない身、高額なクエストは受けられません。前みたいな冒険者でも受けれるクエストがあればいいのですが…そう簡単にあるとは思えませんし」


 アイリスの言うとおりだった。


「もう一度確認しておくけど、ここからルーリットまで行くのに野営は必須なんだよな?」


「えぇ、歩いて行くなら必須です。ですが、運よくルーリットまで行く荷馬車などがあれば野営はせずに済むと思います」


「でもボディーガードとして雇ってくれるなんてうまい話はないし、ただでなんて早々ないだろうな」


 するとアイリスがぽかんとしてこちらを見ていた。とりあえず聞いてみる。


「…どうかした?」


「いえ、少し引っかかっただけです。そのボディ…ガード?」


「あぁ、こちでは言わないのか、護衛や用心棒みたいな使い方のことばだよ」


「そうですか…それともう一つ。貴方、異世界から来たと言っていたのに流暢(りゅうちょう)に公用語を話していますけど…何故です?」


 いつかは聞かれると思っていたけど、まぁ早く済んでよかったと思う。しかしどう答えていいものか、回答に困った。


「まぁ……何というか、大きな力の恩恵?みたいな感じかな、正直これに関しては説明しずらい」


「大きな力の恩恵?」


 今の説明でわかるはずがないのは俺自身分かっていた。追加で説明する。


「俺の創造…いや、生物という概念すら超越した存在。人はガヴィルと呼ぶ。そいつの恩恵だと俺は聞いた。」


「そのガヴィルという存在は、神か何かなの?」


「それは俺にもわからない」


 答えになっていなかった。しかし俺自身あいつが何なのかはわからずじまいだ。


「だいたいは分かりました。これ以上詮索はしない方がよさそうですね」


「あぁ、」


 話はこれぐらいにして、俺たち二人はとりあえずクエストを探すことにした。町で聞き込みをしても案の定クエストは見つからない。何はともあれ今日も厄介になるしかないと、とりあえず宿に戻ることにした。これは長丁場になるだろうと、そう思ったからだ。宿に戻ると、コックのジョッシュがこちらに気付き駆け寄って来た。


「あなたたちは、ちょうどよかった」


 俺とアイリスは顔を合わせ同時に答えた。


「「なんですか?」」


「実は、依頼を引き受けてくれる人を探していたんです。」


 天の助けか、タイミングよくうまい話が転がって来た。


「それで内容は?」


「はい、実はとある馴染みの問屋にサンダーバードの卵を頼んでいたんですがまだ届いていないんです。」


 意見配送をすっぽかされたかにも見えたが、彼が言うには馴染みの問屋は約束をすっぽかす人ではないそうだ。そしてその問屋が通るルートが描かれた地図を見せてもらった。


「このルートなんですが、実は最近この辺りにモンスターの出没が絶えないらしんです。数は多くないですが、何個かのキャラバンが襲われて被害にあっているそうなのでもしかしたら…」


「わかりました、俺たちで何とかします。」


「ありがとうございます」


 ジョッシュは深く礼をした。


「ところで、何故そこまで焦っていたのか気になるのですが?」


 アイリスが鋭い指摘をした。


「馴染みの問屋が心配なのもあります。それよりも僕は、サンダーバードの卵で祖父、祖母に食べてもらいたいんです。オムレツを…」


「「オムレツ?」」


 二人して、疑問視する。するとジョッシュは語りだした。


「…僕がまだ幼いころ、喧嘩に負けて傷だらけで泣きじゃくっていた時に、祖父が作ってくれたオムレツ。あの頃は宿が繁盛していて、忙しい中そっと作ってくれたオムレツは、僕にとっての思い出の味なんです。そして今日は二人の結婚記念日なんです。だから、あの頃のように盛んだった時を思い出してほしくて作ってあげようと思ったんです。」


 彼の回想から、真意が伝わった。アイリスと顔を合わせる。


「俺たち行ってきます」


「あぁ、頼んだよ。くれぐれも気をつけて」


 真琴とアイリスはジョッシュから教えられた問屋のルートの地図を持ち、ポイントに向かった。町を出たすぐの草原の端のようだ。

 いったて普通で長閑(のどか)な風景が映るだけかと思ったが、それらしき物が目の前に映る。

 その光景は荷馬車を囲っているモンスターの群れのようだった。前に戦ったオークよりも小柄で形は類似するものがあった。するとアイリスは話し出す。


「あれはゴブリンの群れですね」


「ゴブリンの群れ?」


 アイリスの言ったことを復唱した。


「えぇ、亜人種の中には群れをなして略奪を働く輩もいると聞きました」


「なら早く助けに行かないと!」


 すぐさま問屋を助けに行こうと言う気持ちで真琴は走り出そうとしたが、アイリスによって止められる。


「待ってください。」


「なんだよ!」


 興奮のあまり口調が強めになる。


「よく見てください、ゴブリンの群れは武装をしています」


「あぁ、」


「軽鎧ではありますが私たちの獲物が容易く通用するとは限りません。」


「ならどうするんだ?」


「貴方の土壇場でのあの力があれば何とかなるかも知れません」


 アイリスが言おうとしていることを真琴は理解したその上で答える。


「しかし、俺自身あの力を制御出来ないエルフの村の時だってまぐれだ、ドスマタンゴの時も勝てたのはアイリスの剣が刺さってたおかげだ。俺自身こういう時非力なんだ……」


 アイリスは呆れた顔をしてこう言った。


「貴方に期待を寄せた私が馬鹿でした。

 そんなにもひ弱で情けない人だったとは……失望にも程があります。そんなに自分を無力と感じて何一つ出来ないと言うなら……町に戻るかどこぞでのたれ死ぬのがお似合いです!」


 そう言ってアイリスはゴブリンの群れに突撃する。


「そこの蛮族どもその荷馬車から離れなさい!」


(馬鹿な、自分で迂闊だと言っておいて敵に突っ込むなんて……いったい何考えてんだ?)真琴は理解できなかった。アイリスは馬鹿ではないはず、なのになぜむやみに敵に突っ込む真似をしたのか、考えがあってのことなのか、それとも苦肉の策か…どちらにしろほっておくわけにはいかない。真琴も後を追うようにしてゴブリンの群れに突撃する。


 一方アイリスは宣戦布告に気が付き襲い掛かるゴブリンを次々と薙ぎ払う。しかし、敵が軽鎧を着ていたことと獲物が細剣だったことが要因となりさほど傷はを負ってはいなかった。


「なんだぁ今の攻撃、蚊ほども痛くねぇぜ」


 ゴブリン達からはそんな声が上がる。もし大ぶりな大剣なら軽く胴を切断していただろう。本来細剣は素早い剣裁きで相手に継続してダメージを負わす武器、その分一撃が軽い。特に囲まれた状態だとそれを裁くのは至難だろう。その時真琴が叫んだ。


「蛮族どもぉ、お前らの相手はそいつだけじゃねぇ!」


 そう叫びながら刃折れの剣を片手に切り込む。


「だぁははッ!なんだぁあのみっともない剣。あれで俺らをやるだってよ」「馬鹿はてめぇの糞にでも言ってろ」


 屈辱と言わざるがえないほど、コケにされる。


「あの馬鹿は俺に任せろ、お前らはあのエルフの女だ、あんまり痛めつけんなよ」「「おう!」」


 そう言って一体のゴブリンが近づいてきた。


「馬鹿な混血種(リジンヌ)もいたもんだな、記念に名前聞いといてやるよ。ほれいってみろ」


「お前たちに名乗る名なんてないよ」


「そうかい、じゃあ名無し、さっさとあの世に行きな!」


 ゴブリンは勢いよく切りかかってくる。それを寸前でかわす。


「ちょこまかと…」


 横振りが応酬する。それを間一髪よけたが勢い余って後方へコケる。


「やっとおとなしくなったなぁ、死にやがれぇ!」


 天高く掲げ上げられた剣を振り下ろそうとする刹那、とっさに刃折れの剣で薙ぎ払う。短剣ほどしかない刃で当たるはずもないのに無意味に剣をふった。そう思えたが次の瞬間ゴブリンが胴と足を境に真っ二つになった。またも不思議な感覚だった。今度は無いはずの刃があるように見えた。ゴブリンはというと……


「うぎゃぁああ!」


 壮絶な悲鳴を上げ絶命した。


 一方でアイリスと戦うゴブリンはというと。五人の内二体が既にやられていた。


「くそぉこの女バカ強いぞ」「さっきの悲鳴はおそらくあの混血種(リジンヌ)のガキだ。俺たちもさっさとやっちまうぞ」「おいあれ……」「なんだ?」「あれを見てくれ」


 一体のゴブリンが震え声で仲間に伝えた。


「隊長が死んでんだよ…」「こんな時に何寝ぼけてんだ…んなわけ……嘘だろ……………隊長が…隊長ぉお!」


 アイリスはその隙を見逃さなかった。


「はぁぁあッ!」


 刺突が鎧を貫き心臓に突き刺さる。


「ギにゃぁぁ!」


 素早く抜き取り、もう一体の首元を掻き切る。そして後方へ下がり一度体制を立て直す。


「くそぉ、残りは俺たちだけか…」「あぁ、せめて隊長の(かたき)を取らないか?」「そうだな、ならお前あのエルフと戦ってくれるか?」「わかった。お前たち二人はあのガキを」「「おう」」


 二手に分かれ、各々がやくめを果たす。


「ここはい一歩も通さん!」


混血種(リジンヌ)のガキ、俺達が相手だ!」


 二体の剣戟を受け止める。それをいなし、そのまま切り払う。


「たぁああ!」


 襲ってきた二体も隊長と呼ばれていた奴と同じく胴から真っ二つになる。


「ぞ…ぞんな…バ…かな……」


「おれじゃぁ、こいつは荷がおもいぜ……」


 アイリスもきっちり片をつけたようだった。


「アイリスなんとかなったな」


「別にあなたが加担しなくても一人でやれましたけど、一応礼は言っておきます。ありがとう…」


「あぁ、それよりも…荷馬車」


「そうですね、商人が無事だといいのですが」


 急いで商人の元へと向かう。積み荷はほとんど荒らされていなかった。そして積み荷の奥に体を丸めておびえた青年がいた。


「あの……」


「ひィ……!」


 とても驚いた様子で辺りを見渡していた。こちらに気付き恐る恐る話し始めた。


「あ…あなた達は?」


「俺は真琴、こっちはアイリス。あなたの知り合いから頼まれて捜索していたんです」


「そ…そうだったのか、ところで奴らは?」


「外のゴブリンの集団なら俺たちが倒しましたよ」


「そうかそれは良かった」


 とても安心した顔をして話し出す。


「ところで誰から頼まれて僕を探していたんだい?」


「ジョッシュさんです、グリム・ハットのコックの」


「あぁ彼か、それなら君たちがこれを届けてあげてくれ。あいにく馬が怯えて歩いてくれそうにないからね」


「わかりました」


 そういって例の品を受け取る。想像していたよりもはるかに大きかった。卵と言っていたから片手で持てる程度を想像していたが、抱えるほど大きな卵は生まれて初めてだった。


「サンダーバードの卵を見るのは初めてかい?」


「はい、初めてです」


「そうか、なら覚えておいてくれこの対電の布から離さないで持ち運んでくれ、サンダーバードの卵は微弱ながら電気を帯びている。しかしその電気は普通の人ならまずは即死だからそれだけは気を付けてくれ」


 真琴は固唾を飲んだ。その後すぐに出発しジョッシュの元へ依頼の品を届けた。そのお礼として今日の宿泊費がただとなり、ほんの少しの依頼達成料を受け取った。


 ほどなくして問屋のヘンリーは町まで戻ってこれたらしい、討伐量として資金とポーションをそれぞれ三つももらった。そしていよいよジョッシュからのサプライズが決行された。主と女将はとても喜んでいた。そして俺達もお礼にとサンダーバードの卵で作ったオムレツを食べた。今まで食べたどんなオムレツよりも、暖かく愛が感じられた心にしみ渡るひと品だった。そして同じ部屋、同じベッドで今日一日の疲れを取る。

 

  明日はいよいよ、出発の日だ。朝一でテントなどの野営品を整え、出発するのが理想だがどうなるかは分からない。まぁ何とかなるそう思うばかりだ。しかし、この後彼はまだ知るよしもない、目の前に立ち塞がる壁と迫り来る現実に彼の心揺らぐ…………







近々第2章に話は移り変わる予定なので長い目でお待ちください。

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