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zero×騎士  作者: 朧月 燐嶺
第2章 覚醒
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第20話 古びた宿

今回はいつもより気持ち多めです。

 

 光が隙間を縫うように、俺をあちらの世界に誘う。本当はこのまま、暗闇の中に閉じこもっていれば何も起きず平和なのだろう。でも好奇心など、興味への感情によりついつい光の方へ足を向けてしまう。そうやっていつも光の世界へ身を投じる………。


 目を開けると現実世界に引き戻される。今、目の前に見えている映像が現実と言えるのか、はたまた夢ではないのか?毎朝そんな事を考えてしまう。ここに来て数日、もう近々ここに来て1週間が経とうと言う頃だ。進展はゼロ。何をすればいいのかも、何から手をつければいいのかも分からないこの胸中で、元の世界に思いを馳せる。空調設備が整った個室、電子モニターに映し出される壮大な世界、その世界を客観的に冒険する自分。今となっては懐かしばかりだ。一刻も早く元の世界に戻りたいものだ。ベッドから体を起こし、立ち上がろうとする。


 すると何を思ったのか、徐にベッド脇に置いた剣を掴む。右手でグリップを持ち、鞘から剣を引き抜く。いつ見ても不格好でダメな剣だと痛感する。たまたま森で見つけてへし折った聖剣?刃が折れ短剣にも引けを取らない刃の短さの刃折れの剣。今までの戦闘で、運良く勝ち進んで来てはいるが、これから先どれだけこの刃折れの剣で通用するのか? オークの時に発動したあの力………あれがまぐれでなく、制御ができれば少しは展望が見えてくるかもしれない。


 刃に映る自分の顔を見つめ、考えを煮詰める。だが、頭で考えてもこの状況は打破出来ないだろう。実戦でも試してみるしかないし。ベッドから立ち上がりドアへと向かいドアを開ける。居間には元依頼人の婦人の娘と、アイリスがいた。楽しそうにお喋りをしていた。するとアイリスが俺の存在に気づき声をかけてきた。


「そこで突っ立ってないで、座るなら席に座ったらどうですか?」


 別にそんな気はなかったんだが、言われたならしょうがない気がし、席に座る。


「……あなた、お昼過ぎまで寝てましたけど…冒険者としての自覚あるんですか?」


 俺を貶す言い方でアイリスは罵倒する。確かに言われてみればという事もある。こっちの世界では油断が命取りになるのかもしれない、それでも言い方ってものがあるんじゃないかと渋々思う。だが正論には変わりなくその言葉に反論は出来なかった。照れ隠ししか俺には出来なかった。


「いつもの癖ってやつかな……ごめん」


 分かればいいと言う表情をして、元依頼の娘にカップをもう1つとお願いしていた。娘は席を外し、カップと、新しく紅茶を入れに行った。俺はアイリスと対極の椅子に座った。するとアイリスが話し出す。


「ところで、次の街への話ですが……」


「え?今…なんて」


 思わず聞き返してしまう。


「ですから次の街への話がしたいと言っているんです。」


「いや……その、この前まで、俺と旅はココで終わりだ。とか、色々言ってたからさ……つい聞き返してしまった」


 冷たい目でこちらを見てからアイリスは言った。


「別に旅の仲間になるとは言っていません。ただ貸しがあるから…それを返すだけです」


 アイリスは昨日の事を貸しだと思ってるのか……そんな事俺自身全く気にしていなかった。ただ突っ込んだ結果勝利を収めた。それだけの結果論だ。

 なにわともあれ、このまま”ギルド”まで連れて行ってくれると、助かるんだが…そう、上手くは行かないだろう。

 考えが過ぎた事を自粛する。とりあえず本題に入る事にする。


「それで、次の街って?」


「……次の街は此処から北西に進んだ先にあるルーリットって言う街よ。此処から一番近くのギルドはここしかないわ」


 要点を抑えてなお、簡潔でわかりやすい説明だった。


「ところでいつ出発するつもりなんだ?」


「もうそろそろよ」


「え?もう行くのか?」


 以外にも出発時間は早く、もう少し休息が得られるかと思ったがそうは行かないようだ。単純なリアクションではあったが、それが返っていつものアイリスへのスイッチをいれた。


「なら、好きにしてください。私は問答無用で貴方を置いていきますから…ご勝手に!」


 アイリスの事だ、本当にやりかねない。最悪の状況を避けるため、少し御機嫌を取る。


「分かった、俺が悪かったから置いてけぼりにしないでくれ」


「分かればいいんです」


 突っぱねた態度で自室に戻る。その直後、紅茶を入れに行っていた依頼人の娘が戻ってきて俺に匙を投げた。


「お兄さん、やっちゃったね。聴いてたけどデリカシー無さすぎ」


 モンスターの攻撃よりも鋭い一撃が胸に刺さる。当然と言えば当然の結果なのだろう。


「紅茶飲む?」


「いただきます……」


 砂糖やミルクすら入れず、ストレートで紅茶を一気に飲みほす。紅茶独特の苦味が心の傷に染み渡った。なんともほろ苦いのだろうか、人との付き合いとは…と呆然として自室に戻り身支度を済ませた。


 身支度を済ませてから数分後、元依頼主が隣の街まで品物を届けに行くということで、俺とアイリスは乗せてもらい、隣町のトルークまでゆったりと馬車の短路を辿った。工業化や産業化があまり進んでいないこの世界は見渡す限り緑地が広がり、景観はとてものどかだった。この世界で工業化が進んでいないのは、魔法が存在し生活に併用されているからだろう。


 元の世界とは景観がこれ程までに違う事が動かぬ証拠とも言えるだろう。そうこうしているうちに、トルークに着いたようだ。この町は前の街よりかは格段に規模も小さく建物も、木造の古民家が立ち並んでいるしょんぼりとした町のようだ。馬車を降りた俺たち二人は、とりあえず今日の宿を探すことにした。


 ルーリットまではここから歩いて言っても数日はかかる。何よりもうじき日が暮れ、夜が来る。金もあんまり持っていないし野営するのにはまだ危ない気がする。そこで町人たちに話を聞き、とりあえず格安の宿や見つけることができた。その宿は町の端に位置し、いかにもと言う雰囲気を醸し出していた。


「ここが格安の宿屋だよな…?」


「そのようですね…」


 これから先こんなにも言葉が詰まることが、数多く訪れるのかとそう思った。理由は口にしてはいけないだろう。この宿屋、よくも宿屋と名乗れると物議したくなるほどに、外見がみすぼらしくもぼろい。確かに看板に書いてあるとおり、一泊の宿泊料が450メガルという格安のお値段らしい。アイリスによれば、基本は900メガル~1ギガルが相場らしいが、それと比べても半額で宿泊ができる嬉しさは感無量だ。しかし、こういうものには落とし穴がつきものだ。きっと飯なしとか…時間…単…位とか…


「まじかぁ!」


「ど、どうしたの!?」


 どうやら急な叫びでアイリスを驚かせてしまったようだ。「いや…ごめん」とりあえず善処する。そして理由を述べる。


「この宿値段が安すぎるから、なんか…その、落とし穴的な?…うん。一時間でこの料金?的な事じゃないかと思ったんだ。…けどそんなこと全然なくてつい口に出ちまった」


「あなた、相当口下手でしょ?」


 痛いところを指摘される。


「べ、別にそんなんじゃねーって!」


「図星のようですね。まぁ、言いたい事が言えたのは良しとして、次は分かりやすく頼むわ」


 アイリスは、宿屋へと入って行った。俺も後を追うようにして中に入る。中は思ったよりもきれいだった。だがすす汚れた壁や天井、いたるところに傷が入りささくれが目立つ床。だけど、それが長い歴史を感じさせ、良い雰囲気だと思った。入って左側にフロントがあった。昔ながらの呼び鈴で、小鐘を振ると、懐かしいような、古びた鐘の音が宿に響く。フロントの奥から老婆が出てきた。


「今日はどうされました?旅のお方。」


 アイリスは手短に述べる。


「寝床は二つ開いているかしら?」


 老婆はアイリスの言葉を聞いて叫んだ。


「爺さんや、部屋は二つ開いとるかねぇ!?」


 ご老体とは思えないほどの声量だった。すると二回の奥の部屋から亭主と思わしき老人が出てきて…こちらも大声で叫んだ。


「空いてねー!!だが、一部屋ならあいておる!」


「ありがとー爺さん!」


声色を優しく直し、女将は話し出す。


「残念だけど一部屋しか空いてないみたいなのよ、それでもええかい?」


 その直後アイリスの目が少しくもった。俺は容易に予想ができた。一部屋しか空いていない、つまりアイリスと相部屋になるということだ。現状アイリスはそれを許すはずもない、逆に反抗するはずだ。


「こ…この人と同じ部屋なんて死んでもごめんです!」


 案の定、アイリスの反応は思った通りだった。しかし、幾らものを言ったところで現状は変わるはずがない。ここは説得を試みる。


「泊まるところないんだし、相部屋ぐらい別に構わないだろ?」


「嫌です。あなたはまだ信用できません!寝込みを襲ってくる可能性だって否定できません!」


 そこまで言われるとこちらも黙ってはいられなかった。


「誰がそんなことするかぁ!俺はそこまで野蛮じゃねぇ!」


「ふん…そんなことおいそれと信用できません!」


「なッ!第一お前だってなッ……」


「やめんか!若いもんがぎゃあぎゃあと、ここは宿屋じゃ、喧嘩は外でおやり!」


 俺とアイリスは少し冷静さを失っていたことを反省した。なんとも見苦しいところを見せてしまい少し不甲斐なく感じた。二人で顔を合わせ、「「すみませんでした」」と、謝る。


「ほれ、頭をお上げ」


 二人ともゆっくり頭を上げる。


「若いから口論になる事も、やるせなくなって、ついかっとなることもあるじゃろう。でもそこで冷静さを失っちゃいかんよ、ちょっとした拍子に大事なもんなくしちまうかもしれないし、何よりそうやって大人に近ずくんやからねぇ」


 年季?と例えればいいのか、この女将さんの言葉はとても重みがあって、心に響く言葉だった。気分的にアイリスに謝らなくては、そう思った。



「ついかっとぉ……」「少しあなたを謙遜し過ぎていました。その…ご、ごめんなさい。」


 以外にもアイリスの方から先に謝罪をしてきたことに少し驚いた。彼女にも素直な一面があるのだとしった。向こうから謝られてこちらが謝らないわけにはいかない、さっき言いかけた言葉を告げる。


「いや、俺の方こそごめん。ついかっとなって、怒りを顕わにしちまった。確かにまだ信用できない面が俺にはあるのかもしれない……俺がそれに気づいていなかったのが悪い、本当に、ごめんなさい」


 なんだかアイリスも以外!?と言いたそうな顔をしてこちらを見ている。すると女将が中を割って入る。


「お二人の仲直りができたことだし、部屋は相部屋でもええかね」


「「はい」」


 アイリスの気持ちを考えると、申し訳ない気もする。なんだか貸を作った気分だった。


「そうと決まれば、ジョッシュ、ジョッシュやー!」


 女将は、大声で人の名前を呼んだ。するとカウンターから少し離れた扉から、二十歳前後の青年が出てきた。


「どうしたの?ばーちゃん?」


 青年は、やる気のなさそうな声で女将に質問した。


「ジョッシュや、ここでは女将と呼べとあれ程言ったじゃろうが」


「ごめんよ、女将。それで何?」


「客人じゃよ、たんと美味いもん振舞っておやり」


 コックの彼は、頭をボリボリと掻いて、「あいよ」と、けだるそうな返事をし、厨房へと戻っていった。


「いつからあんなにやる気がなくなっちまったんだろうね。でも腕はピカ一だよ、あたしが保証するよ。」


「へ、へぇ~」


 軽く、女将の話を流す。だが、女将の自慢は止まらなかった。


「実はあれで、元王宮直属の料理人だったんだよ。」


「そ、それはすごいっすね…」


 個人的にはもうギブアップだった。元の世界では、交友関係なんてろくに持たなかったから、こういった雑談?とか、会話に対してどう答えていいのかがさっぱりわからない。そんな時アイリスがとある質問を投げかけた。


「少し気になったんですが、この宿は見た感じだと、ご夫婦とお孫さんで営んでいるように見えるんですが?」


 女将は開いているのか開いていないかよくわからない細目をパッチリと開き「ほう…」と聞こえないぐらいの小声を発し、目は元の細目へと戻り、話しだした。


「お嬢さん、あんた良く気が付いたねぇ。実はそのとうりなのよ、息子夫婦は他の街で余生を過ごしとるそうじゃが、最近は顔をあまり見せに来ないんじゃ」


「そうだったんですか」


「まぁ、でも今は、こうして孫と一緒に宿屋を営むことができて幸せじゃがね」


 その言葉を言うときの女将さんはとてもにこやかな顔をしていた。


「婆さんや、話はそれぐらいにしとき、旅のお方も疲れとるだろうしな」


「それもそうじゃな、爺さん」


「客人よ、改めましてようこそ、わが宿へ。わしはこの宿『グリム・ハット』の亭主を務めるドラスじゃ」


 年老いた亭主だが、俺よりははるかに筋力はありそうな体格をしていて、顔はとてもダンディーな顔つきだった。それともう一つ、店の前のあの薄汚れた看板は宿屋の名前で、『グリム・ハット』と読むのだと少しばかり驚いた。


 そして、亭主に案内され2階の部屋に向かった。感覚が少し離されて、ベッドが二つ設置されていて角に机、その右どなりに窓が一つある小さな個室だった。


「では、後はごゆっくり……」


 部屋には俺とアイリスの2人だけになった……………

 とりあえず一番端のベットを選び、腰に携えた剣を脇に置き、ベッドに大の字に寝転がる。ベッドには全くと言ってクッション性はない。使い古されてくたびれたのか、とても硬かった。今日は疲れたなどと、しみじみ思う。実際そんなに疲れてはいない、気分的にそう思っただけだ。すると、アイリスがこんな言葉を掛けてきた。


「貴方、みっともないですよ」


 全くその通りで、ぐうの音すら出なかった。すると、いきなりドアが開いた。亭主のドラスだ。俺は少し驚いたが、アイリスは微動だにしていなかった。


「客人よ、夕食の支度が出来たようじゃ、1階の食堂に行ってくれるかね?」


「はい」と返事をして、1階の食堂へと向かった。意外と食堂は広く、ちょっとした居酒屋ぐらいの広さはあろう食堂には、俺とアイリス以外は誰もいなかった。


「あ…あれ?俺たち以外誰もいないの?」


「そのようですね」


 こんなにも広い食堂がガラ空きで、少々驚く。すると、ドラスが何かを言い始めた。


「昔はここも賑わったんだが、今は外に酒場や飯屋が増えて、見ての通りの有様じゃ」


 この世界の事情はほとんど知らないが、言っていることは分かった。


「でも、お客さんは止まってるんですよね?」


「そうなんじゃが………泊まるだけで、飯は一向に食わないんじゃ。せっかく孫が腕を奮ってくれるのに残念じゃよ」


 聞いているこちらも何だか、切なくなった。


「おっと、せっかくの客人にこんな話をしたら、飯が不味くなってしまうな、さぁたんと食べてくれ」


 厨房からジョッシュが料理を運んで来る。見た事のあるものからないものまで、所狭しと美味しそうな料理が並んでいる。そして、しばしの間、ジョッシュが作る料理に舌づつみしながら、今日という一日を俺は終える。


できるだけ読みやすく、多く書けるように精進して行こうと思います。なにとぞ温かい目で見守ってくれると幸いです。

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