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感染者のことは  作者: 獅子師詩史
第三章
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第十三話

「俺たち鴉はあんま大きい組織じゃねえ。 北部、北海道を拠点としているんだが、人数は五人だ。 俺と響、笹枝って奴と、ハヤト。 あともう一人の小せえ組織が俺たち鴉だ」


「そりゃ確かに大きくはねえな。 俺たちも人のことを言えはしないけど……それよりも気になってること聞いていいか?」


 真也の話を遮り、獅子女は言う。 聞こうと思いつつも、真也が妙なマジックなどを始める所為でタイミングを逃した疑問だ。


「お前ら、どうやって俺たちのところまで来た? 情報は外に漏れてないはずだ」


 アオにより、その辺りは万全である。 このアジトも所在も、普通にばれるような隠し方はしていない。 よって生まれるその疑問を獅子女は二人へとぶつける。


「ああそれな。 こいつの文字は合縁奇縁って言って、半径五十キロくらいなら全ての感染者の場所を割り出せるんだ。 感染者探しならこいつの右に出る奴はいねぇ」


「合縁奇縁、感染者限定の割り出しか。 琴葉と似たようなタイプだな」


 琴葉に関して言えば、条件さえ整えば人間であろうと感染者であろうと、たとえ地球の裏側に居ようと見つけるのが琴葉の文字、心象風景だ。 それに対し、響の合縁奇縁は感染者限定であるものの、自身の半径五十キロ内に居る感染者を無作為に見つけることができる、というものだ。 似たような文字であるものの、絶対的に異なるそれらが存在する。


 更に言えば、響の文字はあくまでも「そこに感染者がいる」ということを割り出せるのみ。 琴葉の場合は名前及び顔を知ることが条件であるものの、その者の今を景色として視ることができるのだ。 それらの違いもまた存在する。


「へぇ、そこの子も似たタイプなのか。 おい響、仲良くしとけよ? 同年代で感染者の友達とか将来超大事になるからよ!」


「龍宮寺って言ったっけ? そいつ何歳なの?」


 獅子女が尋ねると、真也に代わり響が手を出して答えた。 両手を前に、その指の数が歳ということだろう。


「十歳か。 良かったな琴葉、同年代の友達ができて」


「あたし十五歳なんだけどっ!? おにーさん絶対分かってて言ってるでしょ! 意地悪だよ!」


「……お前ロリコンなのか?」


「ぶっ殺すぞ人間冷凍庫、言っておくけど俺も十六だからな。 話の腰を途中で折ったのは謝ってやるから、早く続き話せ」


「どう見ても悪いと思ってる態度じゃねえよな……。 まぁいい、それで俺たちは小学校からの仲でな。 俺が最初に感染者になって、それに釣られたのか知らねえが、連れも全員が感染者になっちまった。 それだけで笑い話にもならねえんだけどよ、どうせなら集まって面白いことでもしようって話になったんだ」


「それで鴉って組織を立ち上げたってことか」


「ああ。 けど、当然そんな集まりは対策部隊に目を付けられる」


 それを聞き、獅子女は若干顔を顰めた。 対策部隊を恐れ、自分たちに助けを求める感染者は多く居る。 が、そのような者に手を貸す気など獅子女にはなかった。 逃げるのではなく殺す、恐れるのではなく殺す、殺されるのであれば殺し返す。 それが、獅子女結城のやり方だ。


「対策部隊だけならなんも問題はねぇ。俺一人で余裕なくらいにはな。 田舎の対策部隊は貧弱そのものっつう話よ」


「……ん。 それなら用事は?」


「人権維持機構って知ってるか? 頭の中に花が咲いちまってる愉快な連中を」


「機構か。 確かに北海道に拠点を置いてるって話は知ってるけど、あいつらこそゴミだろ。 対策部隊よりもよっぽど力はないはずだ」


 腕組みをし話す真也に向け、獅子女は相変わらず頬杖を突き、暇そうな顔で耳を傾けている。 その横には琴葉とアオがおり、村雨は本格的な内容になった話に興味がないのか、室内の掃除を始めていた。


「ああ、間違いはねぇ。 けど、最近厄介なのが一人入って状況が大きく変わった」


「厄介なの?」


「すぐに人を殴り付けるクソ野郎のクソガキだ。 クソムカつくガキで、俺の氷壁を軽々しくぶっ壊しやがった。 あいつは絶対許さねぇ……」


「お前話がぶっ飛びすぎ。 そいつはどんな奴なんだ? んでお前の目的は? まさかお前じゃ勝てないから俺に殺ってくれとか言わないよな?」


「ああ、わりい。 熱くなってた」


「……周りの温度下げてるのに熱くなるんだ」


「琴葉ちょっと黙ってろ」


 空気を読まずに言う琴葉に向け獅子女が言うと、琴葉は慌てて自身の口を両手で抑える。 思わず口を突いて出た言葉なのかもしれない。


「いや、俺の頼みは……俺の仲間、笹枝を助けるために協力して欲しいってことだ。 正直、俺じゃああのクソガキに勝てるかは分からねえ、俺が組織のリーダーとしてやるべきことは、何が何でも仲間を助けるってことだ」


「なるほどね」


 つまり、個人的にそいつを恨んでいるのは否定しないが、組織をまとめる立場として仲間は助けなければならないと言っている。 そのため、こうして本来であれば絶対にしないであろう他の感染者の集まりに声をかけているのだ。


「ここに来るまでの間、いくつか見つけた連中に声をかけた。 けど、そいつらは「そんな化け物の相手なんてできるか」の一点張りだ。 正直、もうここしか頼れる場所がねぇ。 あんたら神人の家は俺たちの地元にまで届くほど有名な感染者集団だからな」


「自分の力でどうにもできないから、他の奴の力を借りたいってことか。 プライドとかないわけ?」


「仲間を見捨てて守られるプライドなんか、こっちから願い下げだ。 笹枝は……紡は、俺の家族みたいなもんなんだよ。 俺たちはただ集まって、ただ自衛のために組織としてやってるだけだってのに……あのクソ野郎ども、目の敵のように扱いやがってッ!!」


「……その化け物って奴は? お前が負けたって奴と一緒だよな?」


 獅子女はその言葉を聞いて数秒思考した後、口を開く。 曲りなりにも龍宮寺真也という男は、今まで来たような力だけを頼りにしてきた連中とは違う。 自分自身が強力な力を持ちながらも、相対する者との力量の区別はしっかりと付いている。 勢いに任せ我原と戦ったのは馬鹿としか言いようがないが、それでも仲間を助けたいという一心でここまで来たのは評価すべきところである。


 獅子女もまた、同様だからだ。 獅子女にとっても仲間というのは、家族も同様であり守るべき対象でもある。 故に、どこか似ているこの男に少しだけ興味が沸いた。


「名前は……なんだったっけか? 覚えてるか? 響」


「……知らない」


「おい」


「だ、大丈夫だ問題ねぇ! 顔見りゃ一発で「あーこいつぶん殴りてぇ」って思うような顔だからよ!」


「んな奴俺は今まで一度も見たことねえぞ……。 それで、そいつは人間か? 感染者か?」


「感染者だ。 文字は『誇大妄想』、自分で言ってたから間違いじゃねぇ。 どんな妄想でも現実に変える、そういう文字だ」


「……わーお」


 驚きの表情を浮かべるのは、アオだ。 彼女はその内容を聞いただけで、その文字が如何に強力なのか即座に答えを導き出した。


「あんたなら勝てるか? 獅子女結城」


「さーな、分からない」


 その言葉を聞き、アオは少しだけ焦る。 獅子女は絶対の自信があるならば、そんな曖昧な返事をしない。 そんな獅子女が、勝てるかどうかを分からないと言った。 それがどれほどのことか、神人の家の者たちにとって、獅子女結城は最強の感染者だと思っている。 そんな彼が勝てるかどうか分からないというのは、よっぽどのことだ。


「けど興味が沸いた。 つっても来週には予定が入ってるから、それまでに間に合わなかったら手を引く」


「……協力してくれるのか!?」


「世の中ってのはギブアンドテイクだ。 俺はお前の仲間を助ける、代わりにお前の力が必要になったとき無条件で貸せ。 お前の絶対零度はそこそこ使えそうだし」


「ああ、ああそんくらいなら構わねえ! よっし、よっし! 響、ハヤトに連絡だ! 協力者が見つかったって!」


「……りょーかい」


 こうして、龍宮寺真也率いる鴉は、神人の家と一時的に手を結ぶこととなる。 人権維持機構に囚われた笹枝紡を助けるために。


「……楽しみだな」


 そして、強力な感染者との戦いのために。

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