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感染者のことは  作者: 獅子師詩史
外伝 感染者のロクドウ
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エピローグ

「……」


 ロクドウの話が終わり、琴葉はその話を受け、天窓を見つめる。 変わらずそこからは日が射しており、暖かく心地良い日射しだった。


 目を瞑り、自身が座る椅子へと触れる。 やはりそこは暖かく、想いがこれでもかというほどに込められていた。 ロクドウの記憶に残る、ただ一人の人物。 その人の想いは確かに残されていた。


「……ロクドウさん、寝ちゃってる」


 小さく寝息を立て、話疲れてしまったのか、ロクドウは寝ている様子だった。 琴葉はそんなロクドウを見ると、笑って立ち上がった。 ロクドウには悪いが、どんな絵を描いていたのか覗いて見てしまおうという魂胆である。 好奇心旺盛、それが四条琴葉であった。


「と、その前に」


 琴葉は独り呟くと、一度家の中へと足を踏み入れた。 乱雑に物は置かれており、必要最低限の物しかその部屋には残されていない。 そんな部屋の中、ソファーの上にあった毛布を手に取ると、再度中庭へと出て行く。


「よいしょ……っと」


 寝息をたてるロクドウの肩から毛布を掛けた琴葉は、いつもは若干怖い印象を受けるロクドウの無防備な姿に、また笑ってしまった。


 そこでふと、ロクドウの描いていた絵が目に入った。


「……む。 また難しい注文だなぁ、ロクドウさん」


 綺麗な絵だった。


 そこに描かれているのは、いつの日か訪れるであろう琴葉の姿だった。


 丸椅子に座り、天窓を見つめる琴葉の姿。 しかしそれは、今の姿ではない。 今よりももっと歳を重ね、大人びた風貌の琴葉の姿だった。 髪は長く、顔付きも今よりも大人っぽく、清楚な雰囲気が漂う綺麗な絵だ。


「頑張らないと、あたし」


 ロクドウのそれを果たすためにも、そうならないといけない。 ロクドウが望んでいるかは定かではないが、死なずに生き、そのときまで歩き続けなければならない。 そしてこの絵に追いついたそのとき、また絵を描いてもらおう。


 そう思い、琴葉はロクドウの横で天窓を見つめる。 きっと、小夜という人物もこうして幾度となくロクドウの横でこの天窓を眺めたのだろう。 そう想いながら。




 独りの話。 独りと独りの話。 そして少女と少女の話は、こうして幕を閉じる。 誰も彼もが、出会いと別れという物語を築いており、それは時に面白可笑しく、それは時に切なく儚い物語。 誰もがきっと、そんな出会と別れを重ねて生きている。 一年に一度、十年に十度、そして数百年であれば、数百度の出会いと別れを繰り返す。


 けれど、その一つ一つは特別だ。 同じ出会いと別れなど、ただの一つも存在せず、同じ物語もただの一つも存在しない。 全てが特別で、全てがまた奇跡とも呼べる出会いと別れたちなのだ。


「皆に会えて、良かったよ」


 琴葉は呟く。 彼女が果たした出会いもまた、特別だ。 そしていつか訪れる別れの日をまだ惜しむことはできない。 今はただ、この出会いに感謝をしながら謳歌していくのだ。


 きっと、自分とロクドウが出会えたことも、いつかは必ず良い想い出となると信じて。

以上で、年内の投稿終了となります。

感想書いてくれた方、お気に入りしてくださった方、評価してくださった方、ありがとうございます。


それでは、よいお年を。

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