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感染者のことは  作者: 獅子師詩史
外伝 感染者のロクドウ
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第一話

今回は外伝の投稿となります。 ロクドウの過去話となっておりまして、本編の一章分の半分程度となります。

本編の続きに関しましては、年明けの予定となっております。

「人にはそれぞれ生き方というのがある。 例えばコトハ君のように対策部隊に捕まり、施設で過ごしてきたような奴も居れば、わたしのように数百年を生き続ける者だって居るようにね」


「……なるほどぉ」


「おいおい、そんな適当に「なるほどぉ」と言っても分かっているようには見えないだろう。 全く君という奴は馬鹿で愚か者の見本のような奴だな」


「そこまで言わなくてもっ!」


 三が日の最後、獅子女の方は前に言っていた新年祭とやらの準備があるということもあり、琴葉はその時間アジトで過ごすことが主になっていた。 獅子女が通学する際、少々の遠回りをしてアジトまで連れて行ってもらっている。 当初は「なんか子供扱いされてそうでイヤだな」と琴葉は思い言ったものの、獅子女が「子供じゃなくてお姫様扱いしてるんだよ」と冗談で言ったところ、照れながら納得したのであった。


 そして、今日アジトへ居たのはロクドウである。 珍しい人物であり、普段はアオやシズルと時間を潰している琴葉にとっては新鮮であった。 そんなアオとシズルはそれぞれ今日、別の用件があるらしくアジトには居ない。


 そこで琴葉は腹を括りロクドウへと問いを投げたのだ。 ロクドウさんは普段何をしているんですか、と。 すると返ってきたのが今の答えである。


「人の生き方は人それぞれということさ。 山もあれば谷もある、そんな人それぞれの生き方に興味を抱くとは、コトハ君は随分好奇心旺盛なようだ。 それも寄りにも寄ってわたしの生き方とは……わたしに興味を抱くのは随分奇特とも言えるね。 奇特という言葉の意味は分かるかい?」


「え、えっと……特別にすぐれていること。 また、行いが感心なこと。 殊勝」


「その通り。 テンプレートのような回答をありがとう、携帯を片手に持ったコトハ君」


「調べてないもんっ!」


「調べたことに対しては何も言ってないだろう? 褒めているのさ、コトハ君。 そしてわたしはもう一つ疑問を抱いている、そこまでわたしが気になるのなら、文字を使って見ないのはどうしてかな?」


 琴葉の持つ文字は、心象風景だ。 顔と名前さえ分かれば、その人物の今を視ることができる。 その名前は本名でなくとも、その人物と結びつきさえすれば問題にはならない。 人探しの感染者、琴葉が対策部隊にそう呼ばれる由縁でもある文字だ。


「あたしそんな覗き趣味ないもん! もう、大事なときにしか使わないって決めてるからだよ」


「純粋だねぇコトハ君は。 わたしがもしも持っていたら、気になる人のお風呂や着替えを覗きまくっているよ。 実に羨ましい文字だ」


「べ、別におにーさんのそんなの興味ないしっ!!」


「くふふ、ああコトハ君は本当にからかい甲斐があるな」


 誰も個人名は出していないというのに、琴葉は必死にそう言い切る。 ロクドウすらもこれ以上からかうと少々可哀想だと思い、そのことについては触れないで置いた。


 そして軌道を修正する。 横にずれ始めた話題を元に戻す。


「絵を描いているんだよ」


「……絵?」


「確か君のお姉さんも絵を描くのが好きだったか。 けれどわたしのは所謂人物画というものでね、その人物の内面を描いている」


 それを聞いた琴葉は身を乗り出し、ロクドウへ顔を寄せ、言った。


「あたしのこと描いてみて!!」


「ふむ、コトハ君か。 構わないけど画材がない、今すぐが良いと言うならわたしの家まで付き合ってもらうことになるけれど、それでも?」


「ロクドウさんの家……! 行く行く、いきたい!」


「……ま、良いか。 分かったよ、人の家に遠慮なく踏み込みたいという厚顔無恥なコトハ君の願いを聞くとしようか」


 こうして、一月のとある日、琴葉はロクドウの家へと赴くことになったのであった。




 二人で歩き、景色が段々と変わっていくのを琴葉は感じた。 栄えた中心部より、自らが現在暮らしている場所よりも、その地区の空気は淀んでいた感じもした。 どこか暗く、人の気配はあまり感じない街であった。


 西洋風の建物が多くありつつ、この街だけどこか違う国から引っ張ってきたかのような雰囲気も同時に受けた。 レンガを使い建てられた建造物、車一台がやっと通れそうなほどの坂道、煙突が付いた家。 ファンタジーで見るような光景は広がっている。


「今現在、この街は立入禁止区域に指定されている。 人は一人も住んでいない、感染者ですらね」


「へ? そうなの?」


「そうか、コトハ君は知らないのか。 今から丁度、ぴったり三年前に特定区域掃討作戦というのが行われてね。 その際にこの街から生き物は居なくなったんだよ」


 それは、感染者が多数この街で暮らしていたことから行われた掃討作戦であった。 街は完全に包囲され、感染者識別機が多数設置された。 それにより内部に居た人間は保護され、感染者は全て殲滅されたという作戦だ。


 が、当然その作戦に置いては人間の犠牲者も出ており、作戦展開後数日は問題視もされていた事件だ。


 それに対し、対策部隊の言い分は一貫している。 我々は最善の注意を払っており、民間人の被害者が出てしまったことは心が痛む。 だが、感染者の絶滅のために致し方ない犠牲だとも考えている。 というものだ。


 対策部隊が優先するのは人命ではない。 あくまでも感染者の討伐、それが最優先事項なのだ。


「ま、わたしが生き残っているから作戦は成功したとは言えないんだけど。 彼らもプライドがあるから成功ってことにしたんだろうさ。 極論、わたしを捕らえるために彼らはあの大規模作戦を実行したんだろうし」


「ロクドウさんを捕らえるために?」


「そうさ。 その少し前にわたしは施設から自力で抜け出したからね。 ほら、あそこ」


 ロクドウが指差す先にあるのは、感染者管理施設というプレートが掲げられた巨大な施設だった。 が、今では使われていないのか、所々が廃れており、そこからもまた人の気配は感じない。


 まるで刑務所のような外観をしており、感染者であるだけで罪だと言わんばかりの施設だ。


「上にもあるんだ、こういう場所」


「そりゃあるさ。 ま、今では大分数も減ってきているし、大部分はコトハ君が捕まっていたような地下施設へと移されているよ。 その切っ掛けが掃討作戦っていうのもあるしね」


「そうなの? でも、作戦って成功したんじゃ」


「後日談だよ。 あの頃からシシ君は活発に行動していて、あの施設はシシ君が壊滅させたんだ。 正確に言えばわたしもだけれど……ああ、そういえばわたしが神人の家に入ったのもあの時期だったか」


 ロクドウは言いつつ、前を見て歩いている。 まるで今思い出したかのような口振りではあったものの、琴葉から見てそれはそう見えなかった。 ずっと覚えていることを今思い出したかのように語った、そう映っていた。


「あれ、ロクドウさんって結構最近なの? おにーさんの仲間になったのって」


「ビンゴだコトハ君。 わたしが加わったのは今から丁度三年前、今日この日なんだよ。 シシ君は既に仲間を引き入れていたしね。 一応言っておくとガハラ君が加わったのは二年前だよ」


「やった!」


 琴葉が問いかけた疑問が、琴葉の予想と大体合っていた嬉しさから言うも、ロクドウは冷たい視線を送る。 そのことに琴葉自身は気付かない。


「何がやったなのか良く分からないがね。 もののついでだ、わたしの昔話でもしようか? あまり聞いていてオモシロイ話でもないかもだけれど……ああ、コトハ君なら楽しみを見出だせるかもしれない」


「なんか、あんま良くない話の予感が……」


「そんなことはないさ。 だってコトハ君、君の座右の銘は人の不幸は蜜の味、だろ?」


「そんなんじゃないし!?」


 言う琴葉の言葉を無視し、ロクドウは琴葉の前を歩きながら語り出す。 自身がまだ、対策部隊に捕まる前の話。 今から数えて約四年前、そんな昔話をゆっくりと語り出した。


「始まりは、そうだね。 わたしが対策部隊に捕まったところからにしようか」

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