琴葉のクリスマス
前回書き忘れましたが、二章の本編投稿終了に伴い、おまけ話の投稿となります。
これを含めて四本となります。 本日中には投稿致します。
「クリスマスパーティしよ! おにーさん!」
「えぇ……昨日の今日でなんでそんな元気なわけ? お前ほんとすごいな」
チェイスギャングとの一件が終わりを迎え、獅子女としてはなんとか無事にゆっくりとした年末を迎えられると思った直後の出来事であった。 12月24日、クリスマスイヴの朝。 琴葉は唐突にそんなことを言い出したのだ。
「良いじゃん良いじゃん、折角のお休みなんだし、みんなでこうパーッとやりたじゃん!」
「みんながみんなパーってやりたいわけじゃないぞ。 俺はもう家でごろごろするって決めてるんだよ」
「怠け者! クリスマスに男の子が一人家でゴロゴロって、冷静に考えてちょー寂しいことだからね! このままだとパーってやる前におにーさんの生活がパーだよ!」
「いや意味分からないんだけど。 それにお前が居るから一人じゃないだろ」
「……」
獅子女に言われ、琴葉は思考する。 このままでは、クリスマスという一年に一回のビッグイベントを「獅子女の自宅でゴロゴロする」ことで終わり兼ねないと。
……いや逆にそれも良いかも。 一瞬その思考が支配しかけるも、琴葉は頭を振って振り払う。
「大体だよ、大体おにーさんって面倒臭がりが過ぎると思うんだよね。 ご飯だってコンビニだし、用事がないと家から絶対でないし、家に居るときも常にゴロゴロしてるし!」
「そっくりそのまま返して良い? 言っとくけどコタツの占有率お前のほうがよっぽど高いからな、俺がアオと連絡取ってるときとかテレビ見ながらコタツで横になってゲラゲラ笑ってたの誰?」
「……コタツは仕方ないんだよ! でもねおにーさん、それについてはあたしがコタツに入ってるんじゃなくて、コタツがあたしを吸い込んでるに過ぎないからね」
「そんな危ないコタツ家に置いとくの怖いから捨てとくぞ」
「それはだめっ! と、とにかくだよ。 とにかくおにーさんは参加ってことで、あたしは今から皆に声をかけてくるから、準備しといて! アジトでやるから!」
琴葉はそう告げると、そそくさと家を出て行く。 いつの間に参加することになっていたかは定かではないが、それよりも獅子女の頭を埋め尽くしたのは次の疑問だった。
「準備って……何を?」
それからしばらく悩んだのち、渋々とりあえずはアジトへと向かうことにした獅子女であった。
「というわけで雀さん、今日の夜、クリスマスパーティしようと思ってるんだけど……」
「良いですよ、琴葉さんの頼みとなれば喜んで」
「ほんとにっ! やったぁ! やっぱり雀さんは話が分かるよー、おにーさんとは大違い!」
雀の手を両手で掴み、琴葉は笑顔で言う。 そんな琴葉の様子を微笑みながら見た後、雀は口を開いた。
「では、私は料理でも作りましょう。 ガスがあればアジトでも火は使えますし、電気もアオさんがどうにかしてくれると思いますし」
「あ、お料理ならあたしも手伝うよ!」
「……あ、いえ、琴葉さんは皆さんにお声掛けしてもらって、疲れるでしょうから大丈夫ですよ」
危険を察知し、雀は言った。 以前、琴葉の世話を家でしていたときに料理を共に作ったことがあるのだ。 その際、少し目を離した好きに何か禍々しいものが出来上がっていたことを思い出す。 そのことから琴葉に料理を作らせた場合、それはクリスマスパーティではなくハロウィンパーティにするべきだとの結論に至ったのだ。
そういえば、琴葉が作る料理の危険性に置いて獅子女に伝え忘れていたことを今更ながら思い出す。 なるべく早めに知らせておこうと、雀は心の中で思うも時既に遅しである。
「うん、おっけぃ! えーっと、これでおにーさんと雀さんは参加っと……」
琴葉は言うと、メモ帳を開いて確認する。 神人の家メンバーの名前が並んでおり、たった今雀の名前の横に参加マークが付いたところだ。
「アオさんとシズルさんは絶対来るだろうし、桐生院さんはどうなんだろ。 難しそうな人は……軽井沢さん、楠木さん、あとやっぱ我原さんだよね」
「全員に声を掛けるんですか?」
「もちろん! だって皆の方が楽しいし!」
「ふむ……。 では、我原さんの方は私がどうにかしましょう」
「え、ほんとに!? でも大丈夫なの? 雀さんと我原さんって、ほら」
「なんとか話してみますよ。 琴葉さんは他の方に声をかけてください」
「……よーし、それならあたし頑張るよ! 折角雀さんも協力してくれるし、クリスマスだし! 後でまた連絡するねー!」
ともあれ、琴葉の働きかけと、雀の呼びかけにより、神人の家のアジトはその夜、騒がしいものとなるのであった。