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感染者のことは  作者: 獅子師詩史
第一章
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第三話

 ――――――――感染者対策部隊本部――――――――


「第四拠点にて神人の家と思われる者たちによる襲撃が発生しました。 死者多数、負傷者もいるようですが、この分だと持ちはしないでしょう」


「クズ共が。 同じ報告が拠点二、六、八からも来ている。 奴らの狙い、分かるか?」


 感染者対策部隊本部と書かれた場所に、神童(しんどう)(れい)は居た。 今回厳戒態勢を敷くにあたっての隊長であり、政府の幹部部隊隊員だ。 その実力はかなりのもので、俗に言う対感染者に置いて『文字刈り』と言われる者の内の一人でもある。 特殊加工された武器を用い、感染者が持つ文字に対抗できるほどの力を有した武器、それを持つことが許されたのが文字刈りと呼ばれる者たちだ。


 その横に立つ女もまた、文字刈りだ。 名は四条(しじょう)(しおり)、あの四条香織の実の姉である。


「いえ、存じておりません」


 淡々と答える様子からは、感情も性格も読み取れない。 仕事に徹し、氷のような女。 そう称されることは多々あるものの、確実に仕事をこなす姿勢は評価され、今年度から文字刈りとして配属された新人でもある。


「今回の拠点襲撃で分かったぜ。 つい最近まで起きていた連続通り魔爆破事件……恐らく犯人は神人の家の一員だろうな。 んで、そうなりゃ俺ら対策部隊は当然拠点を構え、厳戒態勢を敷く。 それが奴らの狙いだ。 この状態を奴らは想定していた」


 神童は言いながら、壁に貼り付けられた地図の前へと移動すると、襲撃された拠点の位置にバツ印を付けていく。 既に第二、第四、第六、第八拠点がやられている。 そして、生き残った者からの報告はない。 報告を上げてきた者も既に連絡が取れず、殺されていると見て間違いない。


「通り魔事件はあくまで前座だ。 俺らを誘き寄せるためのな」


「ということは、狙いは私たち対策部隊ですか」


「いや、その中でも更に狙いはある。 文字刈りだろうよ。 奴らは遊んでいる節がある、文字刈りと手合わせすることで自分たちの力を見せつけたいのかもしれない」


 残された拠点は第一、第三、第五、第七拠点。 そして、第九拠点以降だ。 このまま本部でのうのうと過ごしているわけにはいかない。


「……理解に苦しみますね。 文字刈り相手に勝てるとでも? わざわざ文字刈りを相手にする意味も不明です。 それ、メリットあります?」


「メリットどうこうで済めば良いんだがな……油断はすんなよ四条。 神人の家で今までぶっ殺してきた奴らは恐らく雑魚だ。 今回の大規模襲撃、奴らの幹部辺りが来ていてもおかしくはねぇ」


「かと言って、私たちがすべき行動は変わりません。 雑魚であろうと幹部であろうと感染者は悪です。 神童隊長、そろそろ時間が勿体無いので失礼しても宜しいですか?」


「お前さぁ……もうちょっと言い方どうにかなんねえわけ? さすがの俺も目の前で時間が勿体ねえって、傷付くんだけど」


「事実です」


 その機械のような表情を崩すことなく、四条は言う。 それを聞き、諦めのため息と共に壁に立てかけられていた大鎌を取り、神童は外へと向かい歩き出した。




 ――――――――数分前、第二拠点――――――――


「日が沈んでからの襲撃で申し訳ない。 せめてもの詫びだ、私が相手となろう。 少なくとも不足はないと自覚はしている」


 神人の家、幹部。 柴崎(しばさき)雀はスズメを模した面を付け、刀を構えそう言い放った。 長い黒髪は一本で纏められており、暗闇に溶け込むような黒の服装は、まるで忍者のようにも見える。 凛とした雰囲気を放つ彼女は言うまでもなく感染者であり、文字持ちだ。


「こちら第二拠点、感染者を発見。 捕縛する」


 第二拠点は小さなもので、そこに滞在している部隊員は十名ほどでしかない。 それを見て「ハズレ」と認識した雀は、手短に済ませようと決意する。 雀の慕う相手、獅子女結城の目的はあくまでも文字刈りであり、それ以外は誘き寄せるための餌でしかない。 殺戮を進めれば目標は自ら寄ってくる、であれば選択肢はひとつのみだ。


「取り囲め。 あくまでも感染者だ、細心の注意の上、麻酔銃を撃て」


「はっ!」


 男の言葉に反応し、十名の部隊員は雀を取り囲んだ。 それに対し、視線すら動かさずに雀は刀を構えている。


「私は戦う前に必ず問うことがある。 貴様ら人間から見て、私たち感染者とは何だ?」


「馬鹿なことを言う知性は持ち合わせているようだな。 決まってるだろ、化け物め。 総員、撃てッ!!」


「では、化け物らしく振る舞おう――――――――一刀両断」


 雀は言葉と共に、刀を構えたまま、振り抜くようにその場で一回転をする。 そのまま低い姿勢で止まると、目で分かる異変がそこには起きた。


 まず、隊員らが放った麻酔銃。 その針全てが雀の近くまで行くと、消え去ったのだ。 まるで最初から存在しなかったように、跡形もなく。 当然、雀に斬られ落ちたわけではない。 明らかに雀が回転を終えてから、消え去ったのだ。


「今まで感染者とは何度か対峙したのであろう。 だが、私をその辺りの者と一緒にするな。 私の所有する文字は『一刀両断』だ。 ありとあらゆる物を一刀の下に断ち切る文字だ。 それが例え()()()()()()()、な」


 柴崎雀の持つ文字は、神人の家の中でも分かりやすく強力な文字だ。 軽井沢のように限られた条件下で絶大な威力を発揮する文字でもなく、獅子女のように最強の文字でもない。 ただ単に、分かりやすく強いだけだ。 雀の体が反応できる限りありとあらゆる攻撃は無効化される。 そして、雀の文字は防御だけではない。


「もう一つ、教えてやろう。 立ち位置には気を付けろ、そこは私の間合いだぞ」


「へ? あっ」


 雀は刀を振るう。 すると、十メートルは離れていた隊員の首が吹き飛んだ。 噴き出した血は周囲に飛び散り、地を赤色に染め上げる。 ぼとりという音と共に落ちた首の表情は、何が起きたのか理解していないような顔であった。 そんなあまりの出来事に、雀の包囲は一気に崩れる。 これまで雀ほどの感染者とは対峙したことがない者たちが取った行動は逃亡だ。 だが、それも無理はない。 単純に考え、間合いが読めない不可視の攻撃を前にして立ち向かう行為こそが愚かであるからだ。 逃亡という行動はこの状態では最善と言えよう。


 だが、雀はそれすら許しはしない。 彼女の前で逃亡は許されざる行為である。 彼女の前に限って言えば、その選択は愚鈍としか言えない。


「悪いが、そこも間合いだ。 仕方なし、私を恨め。 恨まれることには慣れている」


 柴崎雀の攻撃範囲。 それは、視覚と同義である。 雀が対象を目で捉えている限り、そこは雀の文字の適用内だ。 例えそれが数十メートル、数百メートルに及ぼうと、雀が見ている限り逃れられることはない。 彼女の力は眼こそ間合いなのだ。


「……弱点も教えるべきだったか。 私は、性格が悪いな」


 ものの数秒で全てを斬り終え、その戦いは幕を閉じる。 そして大量の死体を眺めながら雀は、一人呟いた。 一刀両断の弱点、それは一定方向にしか進まない斬撃だ。 いくら対象を捉えていたとしても、雀が斬る動作を行ってから着弾するまでの間に動かれてしまえば、攻撃は無効化されてしまう。 が、その速度はおよそ秒速1キロメートルだ。 スナイパーライフルとほぼ同速度による斬撃を避けるのは決して容易なことではない。


「さて、当たりはどこか。 獅子女さんに報告せねばな」


 刀を仕舞い、雀は次の拠点を目指し闇に消える。 尊敬し、仕える主に有益な情報を(もたら)すために。 とどのつまり、柴崎雀の行動の根底にあるのは絶対的な忠誠心だ。 人一倍獅子女を信頼し、人一倍獅子女を崇拝している彼女は、与えられた仕事を必ず(こな)す実力も忠義も持ち合わせている。 獅子女に拾われた彼女は、決して獅子女のことを裏切ることはない。


「む……軽井沢も始めたか」


 遠くで起きた爆発を見ると、雀は呟く。 今爆発が起きたのは第四拠点の辺りだ。 であれば、同じ場所に行っても仕方ない。 雀はたった今爆発が起きたのとは別方向、第六拠点を目指し走り出した。


 神人の家は、主に集団での行動は滅多に起こさない。 各々が獅子女から下された指示に従い、行動を起こしている。 少し前に軽井沢が指示された「この地区で連日適当な奴を殺せ」というのも、そのうちの一つだ。


 故に本日この日もそれぞれが自由に動いている。 もちろん、ロクドウが今日は獅子女と行動しているように指示されれば別の話であるが、原則として単独行動を好むのだ。 そしてその個の強さこそが、神人の家の本質とも言える。

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[気になる点] 全知全能とか居ないの?
2021/05/02 06:07 退会済み
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